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32 一人目の訪問者

 その日の夜、加速の指輪を試してみた。






 ブルーは、くっくっくっと、笑いを堪えながら笑って、

「ごめんなさい。笑ってしまって」

 と謝ってくれた。


 僕の勘違いがかなりツボに入ったらしい。

「ブルーの笑顔が見れたので、僕もうれしいよ」

 そう言って、僕も笑ってしまった。


 加速の指輪は、つけた側の腕、手、手先が、早く動かせるものだった。つまり、店先のものを盗むための指輪だったのだ。そういう意味での『加速』だったのである。

 まさか盗みの指輪だなんて。あの店はそういう店だったのかもしれない。


「買ったお店からきっと仕事の依頼がきますね」

 ブルーがワクワクを顔にのせている。


「きたら、どうする?」

「もちろん、受けましょう」


 即答だった。どんな仕事の依頼が来るのか楽しみでしょうがないという表情だ。


 そして、いつものようにブルーが僕を抱きしめる。僕もブルーをぎゅ〜〜っと、抱きしめた。


 僕は、幸せだなぁ。


 でも、僕、盗賊になるのかな?




 ○


 ブルーはギャレットを抱きしめながら、不安な表情を浮かべていた……


 濃度の調整が、むずかしくなっている?

 気のせいだろうか。


 探索の回数が多すぎるのかもしれない……


 二人目は早すぎる。


 まだ、彼女は準備が間に合っていないはずだ……


 ○




 翌日からはいつもの生活に戻った。

 ガーデンでの収穫、野菜と果物をいつものお店に卸して、の生活。


 ただ『おいらの買い物カゴ』のオヤジの雑談が多くなった。

 オヤジさん、そういう雑談がないから、ここに卸しているんだけど……


「どうだ、もう街に慣れたか」

「なにか新しい仕事を始めるのか」

「俺は協力するぜ」


 意味がわからない。


「探協は融通が効きません」

「準備中です。よい仕事があったら、教えてください」

「私たちもお世話になっています」


 ブルーもよくわからない返事を返す。

 ブルーとオヤジは随分と仲良しになったようだ。







 それから、数日が経った日の夜、我が家を訪ねてくる人がいた。


 てっきり盗賊団からのお誘いだと思って玄関に出たみたら、若い女性、騎士姿である。近くまで来たので寄らせてもらった、とか。

 よくわからない。騎士団に知り合いはいない。そもそも、この街に知り合いそのものが、ほとんどいないのだ。まさか騎士の姿をした盗賊団?


 まさか僕を捕らえにきた? 指輪を買っただけで、まだ盗みはしてないのに?



「私は騎士団所属のジュリー・クロスという者だ。気づいてはおらぬと思うのだが、実は先日貴殿らに助けられて、その礼を伝えたく思ったのだ。世話になった。これはつまらないものだが」

 そう言って包みを差し出す。


 受け取った大きさ、重さから、どうもお菓子のようだ。


 助ける? 助けたことがあったかな? 人助けなんて僕にはできないんだけど、魔力も腕力もないし。


 助けた……か、どうか、わからないけど、揚羽さんはブルーが守っていたなあ。【結界】をかけていたし。

 思い当たるのは、揚羽さんだけだが…………




 まさか、も、もしかして、あのときの揚羽さん? この人、揚羽さんだったのか? 変化へんげの術を使って、蝶に化けていた? 確かにあのとき、縁がありそうな感じはしたが。




 でも質量が違いすぎる。

 あんなに小さな蝶に、騎士の、この女性が変化? 

 質量保存の法則はどうした? ラボアジエさんも驚いちゃうぞ。

 あるいは、この女性こそが、蝶になって楽しいひとときを過ごしたという荘周そうしゅうさんだったの?




 僕が悩んでいるとブルーが後ろから来て、

「あのときの、ダンジョンに行ったときの方です」

 と教えてくれた。


 やっぱり揚羽さんなんだ。ダンジョンで会ったのは、揚羽さんしかいない。間違いない。でも、すごいな。世の中にはすごい術を使う人がいるんだ。僕も変化の術を覚えたい。ブルーもすぐに気づくなんてすごい。ブルー、揚羽さんとはマブダチだったんだね。


「どうぞ中に、お茶でも入れますから」

「いや、まだ任務中なので。これで失礼する。今度ゆっくりと訪問させてもらおう」

 ブルーの誘いを断って、帰ってしまった。




「ブルー、なんですぐに揚羽さんだって気づいたの?」


「見ればわかりませんか?」

 ブルーはそう言って、またくっくっくっと笑っている。


「ごめんなさい」

 謝るなら、笑わないでよ。


 でも、見ればわかるのか。ジュリーさんとかいったけど、顔に鱗粉がついていたのかもしれない、僕にはわからなかったけど。

 女性ブルーのチェックはきびしいからなあ。




 今度、ジュリーさんが来たときに、変化の術を教えてもらおう。




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