26 ダンジョンレベル1 調査 ②
三人組は地下ニ階層にすでに下りていた。
!?
アンリエッタは、驚いた。
私を無視した蝶からの情報に。
地下二階層は大部屋、モンスターハウスだった。百か、それ以上のゴブリンやオークがいる。三人組は階段を上がって逃げようとしていない。どうも階段がなくなってしまったみたいだ。
地下三階層ダンジョンレベル1、アンリエッタは今、遭難の理由がわかった。
異世界は、常識的に、最高階層、最低階層の難易度が高い。それなのに、この地下三階層のダンジョンは、なぜか途中の階層の難易度が、飛び抜けて高くなっているのだ。しかも階段が消える。逃げようがない。
パーティーは、途中階層ということで油断して、しかも逃げられず、全滅していたのだ。
おそらく三人組は助からないだろう。
三人組の情報によって、私は死なずにすんだんだ。
三人組は、命の恩人だ。
「あっ」
アンリエッタは思わず、声を上げてしまった。
蝶からの情報が、プツリと切れてしまった。
「えっ、どうしたんですか?」
アンリエッタの上げた声に、ジュリーが尋ねる。
すでに十九頭の蝶は、アンリエッタの元に、集まっている。
「地下ニ階層に下りるのはやめましょう。下は、大部屋で、モンスターハウス、下りたら、生きて帰れないと思います」
「え、え、どうしてわかるの?」
「エリア外に残した蝶に、私たちのあとから来たパーティーの跡をつけさせました」
アンリエッタは、蝶が自分を無視して行動した部分だけ、嘘をついた。しかし、残りは、知り得たことを、ありのままに話した。
ジュリーは話しが終わっても無言だった。
自分の命が、三人組の犠牲によって救われたことに、動揺しているのだろう。
「遭難の理由はわかりました。その確認は、自分の命との交換になります。本部に戻って報告しましょう」
「そうね。そうしましょう」
ジュリーは静かに答えた。
本部への報告を終えたのは夕方だった。
ジュリーと別れたあと、個室に戻ったアンリエッタの胸中は、複雑だった。
もう帰って来られない予感がしていた。
私の蝶が、私を無視した、しかしその蝶のおかげで……三人組の犠牲で、生きて帰ることができた。
もし、蝶が、私の指示通りにしていたら、私とジュリーは、間違いなく、地下ニ階層で死んでいたはずだ。
一体一体は弱いかもしれないが、あれだけの数がいたら…………間違いなく死んでいる…………
同じことを何度も、繰り返し、繰り返し、考えてしまう。
ふと、意識の中に、一頭の蝶がよみがえった。三人組と一緒だった蝶だ。
蝶も死んでしまったと思っていた。
窓を開ける。すると、夕焼けの中、蝶が戻ってきていた。だいぶ疲れているようだ。
涙がこぼれた。
それでも、蝶から、急いで情報を読み取る。
魔力の糸を通さない、蝶からの直接情報なので、かなり詳しい情報が得られるはずだった。
情報は、プツリと切れたところまで、次の情報は私の個室だ。途中の情報がない。
三人組の二人についてはジャミングが入っていてよくわからない。ただ、ジャミングが入っていることによって、二人が魔術師であることは、わかった。
一階層での、ゴブリンとの戦闘も、ジャミングのせいでよくわからなかった。
ひとりの男の情報だけが詳しく残っている。
切れ長で、黒い瞳、少し鼻が高く、瓜実顔、黒い髪の男、年齢は二十歳に達していないだろう。
レイピア、しかもちょっと変わったショートレイピアを腰に下げている。
一階層での戦闘では、何もしていない。
少し、弱そうな男。
うん?
はて?
こんな顔の人、会ったことはないけど、なぜか記憶にあるような…………
あ、思い出した、魔術師コーレストの弟子と噂された人の顔つきだ。
噂はガセだったと、あとから聞いた気がする。
三人組の一人はこの人だったのか……
無事でいてほしい。生きて、ダンジョンから帰ってきてほしい。
しかし、この男、申し訳ないけど……弱そう…………あの状況では…………でも、三人とも、生きていてほしい。
アンリエッタは次の日、セントディアの街に向けて、二十頭の黒揚羽蝶を放った。




