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25 ダンジョンレベル1 調査 ①

 ダンジョンレベル1は、レベル1にも関わらず、帰還できない者がいるという噂が広がっていた。


 国はダンジョンレベル1での遭難情報を把握し、騎士団・魔導師団もその情報を共有していたが、魔導師団はその情報をもとに、ある試行実験をすることにした。





 ダンジョンレベル1に入るパーティーはそれほど多くはない。だから戻ってこない事例は少数だ。しかし、異世界におけるレベル1での遭難は、実はほとんど例がない。


 異世界はパラレルワールドだ。パーティーはそれぞれ、自分たちだけの異世界に入る。だから、パーティー同士の争いはない。それは、同時に、非常時に助け合うこともないことを、意味してもいる。


 異世界に入るパーティーは、それゆえに、安全マージンを大きくとる。


 パーティーメンバーの一人か、二人、怪我をしただけで、それはパーティーメンバー全員の死を意味することも多いからだ。


 異世界はパーティーを一組ずつ取り込んで、油断をしている者たちを、自らの養分としているかのようにみえる。そういう意味では、食虫植物に似ているのかもしれない。







 魔導師団所属、アンリエッタ・マソンは術式を構築して二十頭の黒揚羽蝶を召喚する。

 魔力の糸を通してそれらの蝶をあやつることができる。手足の指、それぞれと蝶とがつながっている、そんな感覚だ。



 その彼女に、地下三階層ダンジョンレベル1の調査という指令が本部から下りたのは、前日の午後である。

 アンリエッタの召喚する蝶を使って、ダンジョンの迷路を隈なく調べろという指示であった。



 アンリエッタは、魔導師団の中では低位の召喚師である。二十頭の蝶は、戦闘では、ほぼ、役に立たない。

 この指令を受けたとき、この任務で、私は使い捨てにされるかも知れない、そんな考えが胸に浮かんでしまった。自分は戦闘に向かないために、人が嫌うような任務を任されるのでないか。日ごろ不安に感じながら過ごしてきたせいもあるのだろう。

 召喚した蝶に恥じない任務をしたいと、入団のときは思っていたのに。



 ダンジョンレベル1は遭難者も出ている。安全を考慮して、騎士団所属のジュリー・クロスが同行することになった。




 朝早く、二人はダンジョンレベル1へと出発した。


「あなたが安全に調査できるよう、万全を期します。よろしくお願いします」

 ジュリーが声をかけると、アンリエッタは緊張した面持ちで答えた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。初めての任務なので、緊張しているのですが」

「大丈夫です。私が必ずお守りしますので」


 朝、顔を合わせたばかりの初対面同士、会話は少ない。


 ダンジョンレベル1のエリアはもうすぐだ。

 遭難の情報が広がっているため、付近には他に探索者は見えない。


 アンリエッタは一頭の蝶を召喚してエリア外に残したまま、ダンジョンのエリアに入る。


 それを不思議に思ったジュリーが尋ねた。


「なぜ、蝶を一頭、エリア外に残すのですか?」


「なにかあったときの保険です。魔力の糸でつながっているので、エリア外の様子もわかります」

 アンリエッタはそう答えたが、この任務を失敗したときの保険だった。


 事故が起こって、自分が死ぬとわかったとき、情報を糸にのせて蝶に届け、魔導師団に情報を送るためである。自分が死ねば蝶も消えてしまうが、死ぬ前に魔導師団に蝶がつけば、事故の情報が伝えられる。


 たぶん、自分は、もう帰ることはできないだろう、ここで死ぬ、なぜかはわからないが、アンリエッタは、そんな予感がしていた。


 ダンジョンのエリア内に入ると、アンリエッタは新たに十九頭の蝶を召喚した。

 蝶たちを連れて、二人はダンジョンの中に入った。


 ダンジョン内は、光る石によって月明かりのように明るかった。


 この光る石を精製、結晶化できれば空を飛ぶことができる、そんな言い伝えがあった。国の機関でも研究されているようだが、まだ成功していない。


 アンリエッタはダンジョン内の迷路に蝶たちを分散させて、内部の調査をする。


「特に異常はないようです」


 そう言ったあと、エリア外に残した蝶の行動がおかしいことに、アンリエッタは気がついた。






 自分たちから遅れて着いた三人組のパーティーに、蝶がくっついて行ってしまったのだ。


 アンリエッタは焦った。

 私の蝶が、私の指示を無視して、私を無視して、三人組についていくなんて。

 しかも、そのまま、別空間のダンジョンに入ってしまった。


 しかし、運のいいことに、魔力の糸はつながったままだ。

 なるほど、別空間の異世界でも魔力の糸は切れないのか、新しい発見でもあった。


 いや、違う! なぜ、私の蝶なのに、私を無視する?







「どうしたの? なにかあった? 急に黙って」

 黙り込んだしまったアンリエッタに、ジュリーが心配そうに尋ねた。


 アンリエッタは、あわてて答える。

「いえ、なんでもないわ。

 一階層はゴブリンが全部で七体。ばらけているようです。珍しいですね、みんな一体ずつなんて」


 アンリエッタが十九頭の蝶からの情報を整理して、ジュリーに説明した。

 ゴブリンは集団を好む。一体ずつは、確かに珍しい。


「場所はわかりますか?」

 ジュリーの問いに、

「七体とも全部わかります。蝶が尾行しているので」


「これからは私の仕事ですね」

 ジュリーはそう言って、アンリエッタの案内で、ゴブリン退治へと向かった。






 アンリエッタは、自分を無視した蝶が気になってしかたがない。三人組はもうゴブリン退治に向かっているようだ。


 我々と同じスピード? 我々より……早い? ……なぜ?


 きっと魔術師がいて、【探知】をかけながら、ゴブリンを探しているのだ。そうでなければ、こんなに早いはずがない……。






 ジュリーのゴブリン退治が終わった。地下ニ階層に下りる階段も見つかった。





 すでに三人組もゴブリン退治は終わっていて、これから階段を下りようとしている。





「ニ階層に下りる前に、いったん蝶を集めますね」

 アンリエッタはそう言って、十九頭の蝶を自分の元に呼び戻す。三十秒もかからないはずだ。





 三人組は地下ニ階層にすでに下りていた。


 !?


 アンリエッタは、驚いた。


 私を無視した蝶からの情報に。






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