16 再びガーデンレベル1
翌日から僕とブルーは働きに出た。
働きに行くので【偽装】はかけずに行く。
労働は神聖なのだ。
以前行ったことがあり、ブルーと出会った思い出深いガーデンに行く。ブルーの話によれば、最上階の五階層では野菜が収穫できるとのことで、生活費を稼ぐにはうってつけの場所であった。
ショコラはコーレストの旅立ちの日まで、屋敷にこもって修行するという。
朝食を自宅で食べてから、8時過ぎに出発。
ショコラがいるのでコーレストとの朝食はなくなってしまった。
コーレストの顔を見られないのは、少し残念だ。
9時ぐらいからガーデンで上層を目指す。出てくる魔獣は前回と変わらず犬や熊のような魔獣である。今の僕なら、一人で十分対応できる。
僕の鍛錬も兼ねているので、基本ブルーは手を出さない。
使っているショートレイピアは、遺物なのだが、その能力はまだ発現できていなかった。
ときどきブルーには【加速】をかけてもらう。【加速】に慣れておかないと、いざというとき、急に身軽になって早く動けても、身体のバランスや剣が追いつかなくなってしまうからだ。
ゆっくり上がってきたはずだが、お昼少し前、もう五階層に来ていた。
やはり草原である。出てくる魔獣も変わらなかった。フロアボスはいないらしい。
それにしても五階層は、魔獣の数が多い。強くはないので苦戦することはないが、多すぎる。ブルーに【加速】をかけてもらいながら、戦うこと約一時間、ピタリと魔獣が出なくなった。
しばらくすると、草原の中から植物が芽を出し始めた。そして、あっという間に成長して畑になってしまった。ものの十分くらいだ。
初めて見た奇跡の成長。しかも、季節は関係ない、さまざまな野菜がある。ダークマテリアル、恐るべし。
畑を眺めながら昼食にする。
ブルーが作ったおにぎりを食べながら、目の前のトマトをもいで食べたら、おいしかった。
昼食後、野菜ーートマト以外にも茄子やキャベツやキュウリや大根ーーを、ブルーと収穫した。
折り畳みリュックを開いて、中に野菜を詰め込む。帰り道に戦闘があると困ると思っていたが、ブルーの話だと攻略すればほとんど出ないという。
たしかにタワーも出なかった……
僕って異世界のことを知らずに入っているみたいだけど、この先、大丈夫なのかな。
畑は草原一面というよりは、僕たちがいる周りだけだった。全部収穫できそうだったが、荷物も重くなるし、次の人のことも考えて三分のニほど残して、帰途に着いた。
気遣い、大切。
僕たち専用のガーデンなので、次の人はいないということに気がついたのは、異世界を出たあとだった。
間抜けだ…………
探協のそばには、買取所がいくつもある。どの買取所も異世界産はすべて扱うが、武器や装備品などは別である。それ専門の買取所に持っていかないと売れない。
僕は常日頃から地味に生きていきたいと思っているが、コーレストの甥っ子として有名になってしまった。
これから先の異世界産の売却も考えて、買取額の高さよりも、地味で口が固そうな買取所を探した。
選んだ買取所は『おいらの買い物カゴ』という名前だ。名前はともかく、ここのオヤジはあまり愛想がない。口が固そうに見えた。
野菜を買い取ってもらった、その初日の売り上げは二人で五千フラ。
異世界産の野菜はおいしいので、どこでも、地上産より高値で買い取ってくれる。街に出回っている野菜、お肉もそうだが、半分ほどは異世界産という。
これなら、まあなんとか二人で暮らせる額だ。
翌日からも、前日にならって、収穫は三分の一にとどめた。
自分が間抜けだったことを認めたくなかった。
ブルーに、僕の間抜けさが露見しないようにするためでもある。
こんな生活がコーレストの旅立ちの日まで続いた。
七日目、コーレストは老人三人とともに旅立った。見送りのとき、コーレストは僕を見つめて涙ぐんでいるように見えた。夜の習慣からか、なぜかコーレストを抱きしめたくなってしまった。
習慣は第二の天性。
まずい。
僕は弟子ではないが、コーレストは先達である。
大変失礼だ。
コーレストは美人だ。
でも、大それたことだ。
コーレストはかなり年上だ(と思う)。
とんでもないことだ。
うーん、次、コーレストと再会したときが、なんとなく怖い。
ショコラもつらそうだった。コーレストと過ごした時間は短かったが、師匠と弟子、親密な時間をきっと過ごしたのだろう。
そういえば、コーレストって魔術、使えないのに、どうやってごまかしたのかな。
就寝前にブルーと抱き合う習慣は、ブルーがそういうものだと主張したのが始まりだった。
召喚した人とされた人とは、抱き合わなければならない。
それは人の召喚では常識である。
ぜったい、ウソだと思う。
だってコーレストによれば、人の召喚ができるのは、僕で二人目らしいし、コーレストが老人たちと毎日抱き合ったり、してないと思うし。
でも証明ができない。
コーレストたちに聞けば、必ず機転を効かせるはずで、Yes以外の回答はあり得ない。
まぁ、僕には不利益よりも…………
だから、ブルーの言う常識に従っていた。
長い物には巻かれろ。
そういうことわざもあるし。
ショコラの修行は、コーレストが旅だったあとも、マーガレットと二人で続いている。
僕らは相変わらず慣れたガーデンに通って、野菜の収穫に励んだ。
実家は農家なので、慣れたところもあるしね、ブルーと二人での野良仕事は楽しい。
この暮らしで、いいんじゃないかなあ。
いや、こんな暮らしこそが、いいんだよ。
使命もかっこいいけど、微笑んでくれる、笑いかけてくれるブルーがいて、ダークマテリアルからの恵みで生活する。ステキな人生だよね。
コーレストが旅に出て、十日を過ぎた頃だろうか、収穫後、リュックを背負って、階段を降りようとしたとき、ガーデンの様子が変わった。
下向きの階段が突然上向きに変わったのだ。
五階層にいるはずなのに、六階層がある!
……野菜を売りに行きたいのに……
……家に帰らせてくれないの?




