15 生活費
「御守りと考えて、この指輪は身につけておきなさい。
そうすれば時間とともに扱い方もわかるようになります」
指輪の説明の最後に、コーレストはそう言った。
はい、そう言ってショコラは厳かな態度で指輪を左の中指にはめた。
「それでは、次の話です。今後のことについて相談があります」
タワーレベル1についての報告会が終わったあと、あらためてコーレストが話し始める。
「ショコラが合格したので、引き続きマーガレットがショコラの学びを補助します。
七日後、マーガレット以外の三人と私は所用で一年ほど出掛けますが、申し訳ありませんが、そのことは理解して下さい。いいですか? ショコラさん」
ショコラは、えっ?! という表情をしたが、
「マーガレット師匠、よろしくお願いします」と立ち上がって頭を下げた。
ショコラは、今までの修行の成果がタワーで実感できて、素直に受け入れることができるようになったのだろう。
旅の意味を考えれば、マーガレットも必要だったはずだ。それなのに、マーガレットを残したのは、ショコラが合格した、いわば責任を果たすということか。
僕はそんなことを思いながら、二人の会話を聞いていた。
「それから、ギャレット、これは今回の報酬です」
そう言って、二万フラをテーブルに置く。
「ショコラとの同行をお願いしたのは、いわば、依頼にもなりますので、依頼料です。探協や探クラより少なかもしれませんが」
え? お金、もらえるの? もらっていいの?
そう思って戸惑っていたら、ブルーが姉らしい態度で、
「ありがとうございます。生活費も必要なので、ありがたくいただきます」
そう言って受け取っている。
そういえば、朝食は食べさせてもらっているけど、引っ越しして生活費は必要だった……
「そうです、生活費です」
ブルーのことばに乗っかって、コーレストは少し力を込めて話す。
「ミュート家は家を構えているので、当然生活費が必要となるでしょうけれど、ショコラも弟子ですが、自分のお小遣いは稼いでほしいと思っています。十五歳は成人の年齢ですし」
家は構えてるけど、もらった家です。ありがとうございます。
そういえば、ミュート家って僕らのことか、そう言われると姉弟のような気もするし、夫婦のような……
いや、ブルーは呼び出した人だから!
「はい、わかりました! 小遣いを自分で稼いで、スイーツ食べます!」
ショコラは、さもそれが当然とばかり、あっさり受け入れた。
スイーツへの欲望が強いなあ。今度、プリンに誘うことにしよう。
「ただ、稼ぐとなると、探索者は異世界ということになります。
命を落とす危険があるので、異世界に稼ぎに行くときは、ミュート家と一緒に行くと良いのではないでしょうか。
これは提案ですけど」
僕よりも先にブルーが答えた。
「そうですよね。三人のほうが、二人よりも安全なので、そうしてくださると助かります」
いや、ブルーが一人いれば、それだけで安全だと思うけど、それは言わない。
「よろしくお願いします。異世界に行くときは声をかけていいですか?」
ショコラの頼みをブルーは快く引き受けた。
ブルー、今日は積極的だね。
「探クラにも時期を見て入ってほうがいいかもしれませんね」
コーレストの提案に、僕が疑問を投げかけた。
「探クラってなんですか?」
「探索者クラスターの略した言い方です。
異世界での探索は、自分だけの異世界空間に入るので、他のパーティーと争うことはありませんが、それは同時に、なにかあったとき、他のパーティーが助けに入れないということでもあります。
ですから、異世界の動静に関わる情報は、とても重要です。そういう情報交換を中心とした互助会です」
「師匠はどこに入会してるのですか?」
「私は入っていません。ですから、どこがいいとかはわからないのですが……まあ、今すぐというわけではないでしょうから、ゆっくり考えてください」
コーレストはそう言って、この話を打ち切りにした。きっと、なんで入ってないの、とかのツッコミが嫌だったのだろう。そりゃあ、入れないよね、だって、いろいろバレちゃまずいし。
僕はそんなことを考えながら、生活費のことを考える。
お金がなくなったら、
「ブルーさん、僕は仕事を探してくる」
そう言って、頭の中が赤く燃えるようになるまで、街を歩き回ることになるのかもしれない。
怖い。
異世界に行って働こう。
まずは行ったことのあるガーデンかな?
★
その夜、コーレストはこっそりとブルーを私室に招いていた。
「プラチナゴーレムについて、あなたの意見を聞きたいと思って」
前置きもなくコーレストはブルーに尋ねた。
老人たちは、プラチナゴーレムについては、あまり詳しくはなかった。
ブルーも、私室に招かれた理由がわかっていたので、即答した。
「探協には報告すべきことですが、今回は必要ないと思います。
プラチナゴーレム、その中でも真理のゴーレムは、意図を持って発現する魔物だといわれています。
私の解釈ですが、ショコラさんと私たちがいたからこそ、現れたのだと思います。ショコラさんと私のあるじとの、結びつきを強めるために」
コーレストはしばらく黙ったあと、
「ありがとう。探協には報告をしないでおくわ」
そういうと、ブルーは
「いえ、困ったときはお互いさまですから」
そう微笑んで、部屋を出た。
ギャレットが私を訪ねて来た、あのとき。
あのとき、メアリーは、私が気がつかないと思ったのか、気づいてもかまわないと思ったのか、
かってに【憑依】を使った。
そして、私が挨拶で握ったギャレットの手に、私をつうじて、何かを渡した。
メアリーは何をギャレットに渡したのだろう。
尋ねたところで、はぐらかされるに違いない。
私にはそれを知る資格はない。
あるのであれば、【憑依】のときに、メアリーは言うはずだ。
おそらく、渡された何かによって、ブルーは呼び出されたのだ。
ブルーは老人たちより、はるかに高位の人物だ。




