12 タワーレベル1 ③
「まさかプラチナゴーレム? 間違いないかも…………でもなんでプラチナがレベル1に?」
ここで、このゴーレムは間違いだよね?
どうしたらいい?
それほど離れていないところにいるブルーを見る。しかしブルーに焦りの色は見えなかった。策がありそうに見える。
「プラチナゴーレムは身体のどこかに文字が刻まれています! 文字を探してください!」
ブルーが大きな声で叫んだ。
さすが、ブルー。でもそれは、言えない。
「わかりました。文字を探します!」
ショコラが応じる。
三人で文字を探したところ、左の脇の下、emethという文字が縦に記されているのをショコラが見つけた。
「emethという文字があります!」
ブルーは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた顔で叫んだ。
「頭のe! 狙いは小さいですが、頭のeの文字を攻撃してください。eの文字が消えればショコラさんの勝ちです!」
頭のeは文字列の一番上。狙いにくい。
僕とブルーで牽制して隙をつくり、ショコラが小さくして密度を高めた風刃でeの文字を狙う。
十五分ほどで、やっとeの文字が削られた。
途端にプラチナゴーレムが崩壊し、金属の塊になった。しばらくすれば、霧になるだろう。
ショコラはもう立ってられないと思うほど、疲れ切っている。でも笑顔だ。
「ブルーさんの博識がまた役に立ちました。ありがとうございます」
「でも、もう一体同じゴーレムが出てきたら、詰むね……」
まさかないとは思うが、僕が心配して、そう言うと、ショコラは泣きそうな顔になった。
「いえ、先ほどのプラチナゴーレムがフロアボスのはず、これで攻略です。ショコラさん、おめでとうございます。さっそく遺物を探しましょう」
ブルーはにこやかにそう言うと、床を見ながら、歩き回り始めた。
僕らもフラフラしながら、探すが、ない。崩れたゴーレムのところにあるはずだと思って何度も見たが、そこにはなかった。
フロアボスじゃなかった?
そんな疑問が頭をもたげかけたとき、ショコラの声が聞こえた。
「見つけたー、赤い指輪だー」
疲れ切っているので、喜びを表現するにも力がない。
大部屋の片隅に立って、すぐにショコラは指輪を光にかざした。
「ざんねーーーん、クズ遺物だったー。おもちゃの指輪ー。
ルビーだったらよかったのに、ガラスだー。リングも太い針金ー。師匠の弟子になって運を使い果たしましたー」
疲れたショコラはそう言って、足を伸ばして座り込んでしまった。
僕とブルーがショコラのもとに行き、指輪を見せてもらう。
確かにショコラの言うとおり、太い針金の一部に、小さな赤いガラスを三つ並べたような、そんな指輪だった。
「小さいとき、縁日でこんな指輪があったのを思い出したー。
お母様にねだったら、『アクセサリーはセレモニーの時だけ、つけるものです。今のあなたには必要ありません』って買ってもらえなかったの、思い出したー」
僕が見ていると、ブルーが、見てもいいですか? と寄り添ってきた。指輪を渡すと、やはり光にかざして見ている。
手元から青い粒子が見えた。
ブルー、もしかして【鑑定】を使ってる?
ブルーが指輪をショコラに返す。
「おもちゃの指輪でも攻略の証です。大事にしてくださいね」
そう言って丁寧に手渡した。
「そうですよね。いろいろ助けていただき、ありがとうございます」
ショコラは礼を言って、大切そうに受け取り、ローブの内ポケットにしまった。
「さあ、ショコラ、立って! 帰ろう!」
僕は元気な声を出して、座っているショコラに手を伸ばした。
三階層からの下りは楽だった。階段を降りると廊下があり、その突き当たりに階段がある。おかげで、ゴーレムに一度も会わずに、外に出られた。
「それにしても、プラチナゴーレムの文字のこと、よく知っていたね」
僕がブルーに問いかける。ブルーなので、知っていてもおかしくない気もするけど。
「本当にそうです。なんで知っていたんですか?」
疲れているショコラも加わった。
「本で読んだことがあったんです。
特別上位のゴーレムには起動のための文字が必要になると。
今回のことばのemethは、とても古いことばで〈真理〉という意味です。頭のeを取り除くとmethになりますが、古いことばでは〈死〉を意味します。頭のeの文字を削ったのでゴーレムが死んだんです」
!?
僕もショコラも驚いて、ことばが出なかった。
なんでそこまで詳しいの?
「ブルーさんって、もしかして、魔導学院で先生していませんか?」
ショコラが訳のわからないことを言う。
「いえいえ、たまたま読んだ本に書いてあったのを覚えていただけです。座学を数年すればたくさん知識がつきますから」
うそだ、だまされるな、ショコラ。数年での知識では、ぜったいにない!
「私、座学も頑張ります!」
ショコラは疲れた顔をしながらも気合を入れる。
「そうそう、すぐにブルーぐらいの博識になれるよ」
ごめん、ショコラ、また嘘つきました……
帰り道の途中で、ブルーが小さな声でつぶやく。
「真理のゴーレムが現れるということは、この試験、どんな意味があるのかしら……」
疲れていたショコラには聞こえなかったようだ。
しかし、僕にはしっかり聞こえた。
というか、僕に聞こえるようにつぶやいたよね?
屋敷に戻ったのは夕飯の時間、一時間遅れだった。




