11 タワーレベル1 ②
タワー一階層に入ると、怪我をしたゴーレムはいなくなっていた。
目の前は長い廊下、左右とも等間隔に扉がついている。その扉を開けて、中の部屋を確認しながら、上の階層を目指すようだ。
異世界だし、トラップがありそうな気もするが、どうなんだろう。
「トラップとかないのかな?」
独り言のように呟いてみる。
すると、ショコラがすぐに反応した。
「レベル1だし、そんなものはないと思う」
少し緊張しているようだ。
ブルーを見たら、微笑みながらうなずいているので、ないのだろう。
君はリラックスしているね。
「それじゃあ、扉を開けて中を確認しながら、ぐるんと回ろうか。左から行く? 右から行く?」
「なんとなく左かな。”私の探索は左側“って、ことば、なかった?」
魔術師は後衛職なので、僕、ショコラ、ブルーの順に並んで部屋に入る。
左手前の扉を開くと、さっきの、足を痛めたゴーレムが一体いた。
ショートレイピアを抜きながら駆け寄り、剣先で胴体を切りながら横をすり抜ける。上下が分かれたゴーレムはその場に倒れて、すぐに霧となった。
異世界の魔獣や魔物は生きているときには実体があるが、死んでしまうと霧になって消えてしまう。真偽はわからないが、ダークマテリアルに戻るという説がある。
「お見事! ギャレットって動きが早いね。ちょっと驚いた。そのレイピアも切れ味よさそう」
後から部屋に入ってきたショコラが僕の動きに驚いているようだ。
僕の剣術を見るのは初めてだからね。早さしか売りがないんだよ。
「うん、このレイピアは気に入ってるんだ。でも今回はショコラの試験だったね。僕が倒しちゃった」
「先は長いから、大丈夫。私が先に歩くね」
部屋に先に入った人が先に攻撃するので、魔術師だけど、今回は仕方がない。
順番を入れ替え、左側二つ目の扉を開ける。四十人ほどの子どもが座って学習できるような広さ。でもなにもなく、がらんとしている。確認を終えると、三つ目の扉に向かう。
扉を開けたショコラは、すぐに風刃を三つ放った。後から僕とブルーが入ると、三箇所の深傷を負ったゴーレム一体が、こちらに向かってくる。
ショコラは再び風刃を三つ放ち、それらは先ほどの傷跡をさらに抉った。さらに風刃を同じ傷跡目掛け、至近距離で放つ。目の前でゴーレムがバッタリと倒れ、霧になった。
九回の風刃でやっと一体。
僕もブルーも手出しをしなかったが、ショコラだけでは厳しそうだ。
「ゴーレムは防御力、高いからね」
フォローのことばをかけながらショコラを見ると、思ったより余裕がありそうだ。
「攻撃魔術を撃ち続けた意味が、少しわかった。持久力って大事だね。これならいけると思う」
ショコラは確信しているようだ。
「同じ場所を狙えるなら、首に集中して四連発ぐらいでいけそうな気もする」
僕がアドバイスをすると、
「なるほど、そうね。適当に狙うより遥かにいい。試してみよう」
と言って四つ目の扉に向かう。
四つめはハズレ。五つ目に行く。
五つ目の扉を開けた途端、ショコラは八発の風刃を続けて放った。ゴーレムが二体いたようだ。
部屋に入った時はすでに首が飛んで倒れていた。
「やるじゃん、ショコラ!」
「アドバイス、サンキュー」
ショコラはにっこりした。
やっぱりどこか気品のある笑顔だな。
「この調子なら三階層まであっという間だね。部屋の数が多そうだから、時間はかかるか」
そう言ってショコラはずんずん歩いていく。
ゴーレム退治は順調、一階の部屋をすべて見終わって廊下に出ると、上層への階段が出来ていた。
ショコラに疲れた様子は見えない。
階段に座って少し早いかもしれないが昼食を取る。
「魔力切れを起こすまで攻撃魔術、撃ち続けた甲斐があった。本当によかった」
修行の成果が確認できたのか、ショコラはうれしそうだ。
「若いときの魔力切れは、魔力容量を少しだけ大きくすると言われています」
ブルーが珍しくショコラに話しかけた。
「えっ? そうなの? じゃあ、あの訓練は持久力を上げるというより、魔力容量を増やすためだったんだ……」
「たぶん、そうだと思います」
「ブルーさんって、博識そう」
ショコラが感心してそう言うと、
「一応、魔術師なので。ショコラさんより数年分のキャリアがあるので」
と謙虚に答えている。
「じゃあ、私も数年先はブルーさんのように博識の魔術師になれるのかしら」
ショコラ、それは無理だ。キャリアの問題ではない。
僕は知っている。でも、言えない。
「きっとなれるさ。さあ、二階層もチャチャっとすませよう!」
ごめん、ショコラ、嘘つきました。
昼食後の二階層は問題なく処理できた。首への四連撃は効果的だった。もしかしたら風属性は、防御力の高いゴーレムの弱点なのかもしれない。
ただ、やはりというか、当たり前というか、ショコラにも疲労の色が見える。
三階層への階段に座ってしばしの休憩をとる。
「ショコラ、大丈夫?」
「うん。三階層のタワーでよかった。これでまだまだ上があったら、合格する自信がない」
十五分ほどしっかり休んだのち、階段を上る。
なんと三階層は左右に並んだ部屋ではなく、大きな部屋だった。その大部屋に一体だけのゴーレム。けれど、そのゴーレムはシルバーの色をしている。
土ではなく金属?
やはり金属だった。
ショコラの風刃も水球も効いていないように見える。僕のレイピアで弱体化したら、ショコラの魔術も効くのかと思ったが、レイピアも弾き返されてしまう。
硬度の高い金属ゴーレム。
ゴーレムからの攻撃を避けながら、隙を見ての反撃はもう二十分ほど経つ。
★
「なぜ魔術師なのに剣術の鍛錬が必要なんですか?」
弟子になってすぐの頃だ。私はマークに尋ねた。剣術はマークが担当していた。
「弟子なら言われたことを言われるままにしなさい」
次に私が何か言おうものなら、それなら破門にします、と言いそうな雰囲気があった。
今、ゴーレムの攻撃を避けることができるのは、剣術の鍛錬があったからこそだ。
鍛錬をして、よかったと、心の底から思った。
けれど攻撃が通じない。水球も風刃もまったく役に立っていない。魔力の底が見えてきている。魔力切れの微分から、持ってあと三十分くらいだろうと見当がつく。
★
ショコラの魔術が効かない。僕のレイピアもダメだ。戦闘が長引いている。このままじゃ、ジリ貧だ。
ブルーに助けを求めるか? 彼女ならこのゴーレムに勝てるだろう。けれど、それではショコラは不合格になる……どうしたらいい?
僕が判断に迷っているときに、ブルーが、小さな声でつぶやくのが聞こえた。
「まさかプラチナゴーレム? 間違いないかも…………でもなんでプラチナがレベル1に?」
ブルーのことばを聞いて、僕は、以前教えられたことばを思い出す。
『異世界に間違いはない。そのように存在すれば、それが異世界では正しいことなのだ』
だけど、間違っているよね、ここで、このゴーレムは!




