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【序】序章

 小高い丘の上には一本だけ桜の木が立っている。

 分厚い雲の間から時折顔を見せる欠けた月の光にあてられて、積もり始めた雪が白く輝いた。

 そんな僅かな明かりを頼りに、あの人は埋められていく。

 まずは顔。続いて、肩。それから腰、指の先、太もも、足首……つま先と。


 寒くなったばかりの今、桜は咲かない。薄紅の代わりに真っ白な雪の欠片が音もなく落ち続けていた。しかし、白かったのは宙を舞っていた時だけで、地上に舞い降りた途端に黒い土と混じってぐちゃぐちゃになっていく。

 薄汚くまじりあったそれが美しかったあの人を隠していくのをじっと見ていた。泣き出したいような、叫び出したいような、逃げてしまいたいような気持と一緒に埋められていくのを見ていた。

 冷えたこの指先をそっと握って温めてくれる人は、もういない。黒い土の中に隠れてしまった。


 ふと、桜の木を見上げる。

 視線の先では、際限なく舞い落ちる雪が枯れた枝に(まと)わりついて、花が咲いたかのように佇んでいる。だが、その花には色も香りもない。見る者が花だと錯覚しているだけ。花咲く季節はまだまだ遠い。

 柔らかく香る薄紅色の花が咲くのは、あの冷たく香りのない花が溶け出したその後。行方の分からない春が帰ってきたその頃だろう。


 その頃には、きっとまた――

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