カッコつけも、時には悪くない。
大人の区分は、どこからなのだろう。成人の定義は満十八歳から上と決められているのだが、精神的な『大人』は人によりけり。十六歳ほどで既に大人任せのどっしり構えの人もいれば、二十歳を過ぎても子供のままという人もいる。
「……私は、アイスティーでお願いします」
ウエイターに注文を付けたのは、奈央美さんだ。徹平の初デート相手である。緊張のあまり、話し方がぎこちない。
喫茶店に誘ってくれたのは、奈央美さんの方。お誘いのメールがあり、即答でOKした徹平だったが、自分自身のあることをすっかり忘れていた。
そう、苦い飲み物は基本飲めない、ということだ。
日常生活では、苦い物が飲めないからと言って困ることはほとんどない。麦茶か水で事足り、紅茶やコーヒーを選ばなければそれでいいからだ。
しかし、ここが喫茶店で、おまけに奈央美さんが紅茶(アイスティーとは冷たい紅茶のこと)を頼んだとなると話は異なってくる。
……奈央美さんに合わせて、僕自身も頼んだ方がいいのか……?
飲めないとは言ったが、味を好かないが故に飲まないのであって、我慢をすれば飲める。
「……徹平くんは? どうするの?」
……印象は大事だって聞くし、それに『苦いものが飲めない』なんて思われたくないし……。
『人は外見より中身』と豪語する輩がいる。長期的に付き合うことが前提ならば正しいが、出会い段階で中身など分かるはずがない。結局、人は外見の第一印象で決めてしまう。入れ墨を入れた強面のサングラスの男は、元から敬遠されるのである。
カッコいいと思われたい。『苦いのが飲めない』とは思われたくない。見栄を張る気持ちが、徹平を動かした。
「……僕も、アイスティーで」
かしこまりました、と足早にウエイターは去って行った。
「徹平くんは、紅茶とか、ゴクゴク飲める?」
いきなりの、奈央美さんの質問だ。
「……はい、飲めます」
カッコ悪いところをわざわざ見せる事はない。もっと打ち解けられるその時が来たならば、本音を話そう。そう決意を固めた。
奈央美さんが、よどみのない白い歯を見せた。
「そっかー。喫茶店に連れてきてこういう事言うのもなんなんだけど、苦いのはあんまり受け付けなくてさ」
それは、僕も同じです!
奈央美さんは、僕と同じだった。
「……徹平くん、すごいね」
「……それほどでもないです……」
この嘘を、いつばらそうか。いや、苦手を克服すれば、正真正銘の事実になる。うーん、悩ましい。
とにかく、奈央美さんから好意を向けられているようで、なによりだ。
注文したアイスティーが、二つ届いた。一個は奈央美さんの手元に、もう一個は徹平の前にそれぞれ置かれた。
しばらくためらっていた奈央美さんは、意を決してアイスティーを口元に運んだ。独特の風味と苦みで、顔をしかめていた。
徹平も、平静を装いつつアイスティーに口を付ける。
……前に一度騙されて飲まされたことがあったけど、やっぱり好きには慣れないよなぁ……。
人生で二回目の紅茶は、控えめにほろ苦かった。
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