64. 混竜変身VS守護者
「混竜変化」
『メイズドラゴン・エッセンス――グルーアップ』
才牙が放った言葉の通り、彼の腹部に巻かれたエッセンスドライバーに、迷宮で現れた竜種から得られたエッセンスが詰まった封入缶が入れられた。
竜種のエッセンスということは魔物のエッセンスということ。
その封入缶を使っての変化は、本来なら量産怪人のような変化になるはず。
しかしエッセンスドライバーによって制御されたエッセンスは、魔物の姿になるはずの変化を、戦闘服を纏う変化にしている。
エッセンスドライバーから多種多様な輝きが生み出され、それらが混ざり合って黒色へと変化。その黒色の煌めきが5つのボール大に集まり、その集まりが竜の顔のような姿へと変貌すると才牙の身体へと噛みついていく。
まずは四肢に、続いて胴体。
その噛みつかれた場所から広がるように、才牙の体が真っ黒ながらも表面が鱗状に光を照り返す素材の戦闘服に覆われていく。
やがて首から下が戦闘服に覆われ尽くした後は、その首元から頭へアメーバーが伸び出てくるようにして、顔全体が下から徐々に変化していく。
そうして作り出された戦闘服のヘルメットは、竜の頭部を意匠に入れたものだった。
「ふー。ひとまず変化は安定しているな」
竜種エッセンスによる変化を終えて、才牙は黒い戦闘服姿で身体を動かす。
軽く動いただけだが、その手足に収まり切れない力が、身動きで空気を震わせている。
「動きに問題もなし。次は出力が想定通りか調べる必要があるが――そのための良い検体があるな」
才牙の頭部が、黒玉が生み出した守護者へと向けられる。
顔を向けたことが敵対の意思だと判断したのか、守護者が盾と剣を構えて走り込んできた。
「―― ―― ――」
ジェットエンジンの吸入音のようなものが、守護者からしている。
恐らくは呼吸音。
呼吸はしても、声どころか唸り声すら上げないのは、黒玉が戦闘には不必要だからと発声器官を省いたのか。
才牙は敵の観察を続けながら、軽く半身になり徒手空拳の構えに。
守護者は盾を前面に出し、その盾の陰に剣を隠す構えで走ってきている。恐らくは、盾で才牙を殴りつけて牽制し、剣の一突きで仕留める算段。
才牙はそう守護者の動きを予想すると、互いの距離が攻撃範囲の1歩外まで近づいた瞬間に、自ら攻撃に動いた。
少しはあった距離を1回の踏み込みでゼロにしながらの、強烈な前蹴り。
守護者は盾で受け止めつつ、反撃で剣を繰り出そうとする――だが才牙の蹴りが守護者の予想以上に力強かったようで、あえなく後ろへと吹っ飛ばされて反撃の機会を失う。
「―― ――」
戸惑いが感じられる、守護者の呼吸音。
その音に構うことなく、才牙は攻撃を続けていく。
吹っ飛ばした守護者に跳びかかり、拳を叩きつける。その攻撃を皮切りに始まったのは、ボクシングスタイルでの拳の連撃。
素早く繰り出される才牙の両拳での攻撃を、守護者は盾で受け止めていく。
才牙の拳の威力が高いために、攻撃を受け止めている盾が右に左に上へ下へと大きく位置が動かされる。
あまりに一方的な戦闘に見えるが、しかし守護者は黒玉が作り出した最強の存在。迷宮に訪れた中で一番の強者の複製に、様々な魔物の強みを注入している。圧倒されたまま終わる存在ではなかった。
「―――― ――」
大きく息を吸う呼吸音の後、守護者は盾を横へ大振りしながら、逆の手で剣の突きを繰り出した。
才牙の腕は、盾の大ぶりによって横に弾かれて、無防備に横腹を守護者に晒している。
その横腹へと剣の切っ先が向かっていき、当たる直前に身を躱されてしまう。
「定石通りな動きで、面白みがないな」
隙があれば、そこを突く。
これは戦闘の常道であり、成果が強く期待できる戦術でもある。
しかしある程度の戦闘巧者ともなれば、相手に攻撃される場所を限定させるために、あえて身躱しがやりやすい位置に隙を作っておくことをやる。
そんなある種の罠に、守護者は嵌った。
そして罠にかかったしっぺ返しは、当然のごとく強烈なものになる。
「勝負を急いだ攻撃のせいで、防御ががら空きだぞ?」
盾を横振りし、剣を突き出した姿の守護者。才牙の言う通り、胴体部分から頭にかけての防御が留守になっている。しかし守護者は3メートルもある巨体。手痛い攻撃を与えるには、少しの工夫がいる。
そこで才牙は、地面を強く踏み込みながら守護者の腹部に渾身の突きを叩き込んだ。
「――――」
攻撃を受けた瞬間、守護者からは身体中の空気を吐きだしたかのような音が漏れた。そして攻撃を受けた場所から折れるように、その巨体をくの字に曲げた。
そうして位置が下がってきた頭へ、才牙は真下からの跳び蹴りを叩き込んだ。
守護者は顎をかちあげられ、前へ曲がっていた体勢から、大きく仰け反りながら後ろへ吹っ飛んだ。
守護者の巨体が地面に倒れたことに、才牙の後ろで観戦していたミフォンたちから安堵の息が漏れた。
「迷宮で1番強いって触れ込みだったけど、才牙にやられているじゃん」
「ここは才牙様が強いって評価する場面じゃない?」
「ふふん。才牙さまの敵じゃないです」
「……あの人って、シズゥたちの後ろでふんぞり返っているだけの人だと思ってたのに」
「「「強かったんだ」」」
そんな感心する言葉を背に受けつつも、才牙は攻撃して倒した守護者への構えを崩さない。
先ほどの突きと蹴りは手応えある攻撃だったが、確実に仕留めるには物足りないものだとも分かっていたからだ。
「おい。死んだふりしているのかもしれないが、迷宮の魔物は絶命したら塵になるんだ。一見してバレバレだぞ?」
才牙が声をかけると、守護者はむくりと起き上がる。
守護者の体表にある赤竜の鱗のうち、腹部と顎の部分が大きく罅割れている。しかしその罅割れは、1秒毎に割れ具合が薄まっていっている。
「自動回復機能持ちか。守護者と銘打つ存在としては、有用な能力の1つだな」
人間の強者が持つ戦闘技能と、魔物特有の身体的な膂力と防御力に、怪我が自動的に治っていく回復能力。
かなり凶悪な相手ではあるものの、才牙の余裕は崩れない。
「似たような怪人を作ったことがあるが、あれもセイレンジャーに倒されてしまったからな」
宿敵の戦いから学ぶことに思うところがないわけではないが、才牙はすでに守護者の倒し方について考えが至っていた。




