61. 強大な竜種
何度かの就寝含みの休憩を挟みながら、才牙たちは迷宮の奥へ奥へと進んでいった。
そして奥に行けば行くほどに、それより奥に進ませないとばかりに、より強力な竜種が魔物として立ちはだかってくる。
空を飛ぶ竜が現れるようになり、地竜は大地竜に変わり、竜も色付き(カラード)と呼ばれる強大な竜へと変わる。
大地竜や色付き竜となると、もう並みの人間では太刀打ちできない相手。
才牙が保有する量産怪人も、しょせんは人間をベースに強化しただけの存在。強大な竜を相手にするには心許ない戦力でしかない。
しかしそんな竜であっても、迷宮にいるからには、エッセンスを元に作られた存在だ。
エッセンステイカーは特攻武器になり得るし、シズゥの再建の力による取り込みも通用する。
そして竜のエッセンスさえ得ることができるのならば、才牙は自身の頭脳と錬金術で対応することが可能になる。
「さあ、上書きしてやろう」
才牙がエッセンス・インジェクターを、赤に色づいた竜の頭を狙って射撃した。
エッセンス・インジェクターから放たれた煌めきを額に食らった瞬間、竜は嫌悪感を表明するかのような叫び声をあげて大暴れする。
その暴れっぷりは、同時に才牙たちを襲いに来た他の竜種に被害を与えるほど。
才牙たちも竜種たちも、暴れ回る赤い竜から距離を離して、一時休戦の状態へ。
そうしていると、やがて赤竜の暴れっぷりが止まった。
竜種たちが恐る恐るといった感じで、赤竜に近づく。
そして赤竜の攻撃範囲内に竜種が入ったところで、才牙が再度口を開く。
「そいつらを攻撃しろ」
誰に向かって放ったか分からない命令だった。
その声に反応したのは、先ほどまで苦しんでいた赤竜だった。
「ゴオオアアアアアアア!」
赤竜は雄叫びを上げながら大口を開き、大地竜の首元に噛みついた。
まさか攻撃されるとは思っていなかったのだろう、噛みつかれた大地竜だけでなく、その周りにいる他の竜種も身動きが一瞬止まる。
しかし赤竜が裏切ったことをすぐに理解して、竜種同士での戦闘が始まった。
その光景を見て、ミフォンが非難めいた目を才牙へ向ける。
「あれって、前にオーガでやっていたことでしょ?」
「その通り。手に入れて単分離した竜のエッセンス。それを俺に従うよう調整して打ち込むことで、やつらの性質を変化させた」
迷宮の魔物が人間を襲うのは、そう迷宮がエッセンスで作っているからだ。
だから才牙がエッセンスを用いて魔物のエッセンスに干渉すれば、かつてのオーガや目の前の赤竜のように、魔物の認識を変化させることができる。
人間を襲えという部分を、魔物を襲えと変換してやるだけなので、才牙にとっては人間を怪人に改造して洗脳するよりも手間がないと感じる作業でしかない。
「さて、手駒の補充が楽にできるようになったからには、量産怪人もあえて保持し続ける意味が薄まったな」
才牙はエッセンス・インジェクターを生き残っている量産怪人に向け、竜のエッセンスを発射した。
量産怪人は新たに打ち込まれたエッセンスにより、肉体を変化させていく。
身体の意匠に竜に模したものが生まれ出し、肉体もより強靭なものへと変化を始め――そして、その変化に耐えられなかった様子で、血を吹き出しながらバタバタと倒れていく。
倒れた量産怪人が次々と人間の姿に戻り、生命活動を止める。
しかし倒れた中から、3体の量産怪人が立ち上がる。
最初に立ち上がったのは、オーガの上半身に馬の下半身を持つ怪人。竜のエッセンスを得て、全身の体表が灰色のスケイルアーマーを来たような姿へ。
それに続いたのは、リザードマンの頭部を持つミノタウロスの見た目の怪人。竜のエッセンスで、頭部が竜のものへ変化している。
最後は、鎧をつけた人間大のゴーレムのような怪人。指の先に竜の爪がつき、拳に牙が生え、鎧の兜が竜を模したものへ。
この新たな姿になった3体の量産怪人は、才牙の命令を待たずに、竜種同士の争いの中へと跳び入っていった。
竜のエッセンスを打ち込まれたお陰か、強大な竜種を相手にしながら互角以上の戦いが出来ている。
「竜のエッセンス。これはなかなかに強力なようだな」
才牙は満足した様子で頷き、エッセンス・インジェクターを別の竜種へと向ける。そして新たに2体の竜種を、エッセンスの力を用いて、手駒に変えたのだった。
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