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59. 量産怪人強化

 竜。

 迷宮の中で1番の強者である魔物種族。

 強い冒険者の多くが、竜種の一番弱い幼地竜レッサーグランドドラゴンに返り討ちにされ、迷宮からの撤退を余儀なくされる程に、種族として強い魔物である。

 そんなに強い魔物との戦闘では、才牙たちの側にも被害が出てしまう。


「弱い方の怪人に被害を押し付けているとはいえ、消費スピードが速すぎるな」


 才牙は、消えゆく倒された幼地竜と、その周りに倒れる量産怪人を見ながら愚痴をこぼす。量産怪人は絶命したことで、元の人間の姿に戻った。


「残る怪人の数は15体。当初の3分の1程度まで減ったな」


 才牙が感慨なく口にするのには、理由がある。

 それは迷宮には、パーティー人数が多ければ多いほど、襲ってくる魔物の数が増えるという特性。

 才牙は迷宮の奥深くへ行くためには、この特性に気を付けないといけないと考えていた。

 迷宮に出る魔物が弱い場所では、数に任せたごり押しで道を進む。そして強い魔物が出てくる場所まできたら、怪人の数を戦闘で減らして、襲ってくる魔物の数を減らす。

 そういう予定にしていたため、怪人の数が減っているのは当初の予定通りである。


「さて、十二分な量の竜のエッセンスが手に入ったからな」


 才牙はシズゥの真銀ミスリル合金のエッセンステイカーの柄を弄り、柄の中に入れ込んでいたエッセンス封入缶を取り出し、新品のものに変えた。

 その封入缶を、今度はエッセンス・インジェクターに入れ、15体残っている量産怪人にエッセンスを打ち込んでいく。

 発射されるのは、魔物から採っただけで精製されていない、様々な魔物由来の混合エッセンス。

 様々な悪影響が予想される危ないエッセンスだが、どうせ量産怪人は今回の迷宮行で使い捨てにするのだからと、才牙は気にしない。

 そして新たにエッセンスが注入された結果、15体の量産怪人に様々な変化が訪れる。


「グギギギグゴアアアア!」


 悲鳴とも雄叫びともつかない声をあげて、肉体に竜の意匠が追加されていく。

 大柄な怪人は、竜の筋肉を得て、膂力が増した。

 リザードマンの特徴が強い怪人は、顔の造形がより竜っぽいものへと変わる。

 鱗が、牙が、爪が竜に変わる怪人。

 新たに鱗や尻尾が生えてくる怪人。

 そして、変化に耐えられなかった様子で、全身から血を吹き出して倒れ込む怪人も出た。


「エッセンスの過剰投与か、それとも精製していないことによる悪影響か、研究に足る疑問だな」


 才牙は、血を吹き出した怪人から姿が戻った人間の死体を見て、興味深そうに観察する。

 その人死をなんとも思っていない態度に、ミフォンは嫌悪の顔を向ける。

 ミフォンの反応は人間的で褒められるべき善性だろう。

 しかしシズゥは怪人のことに興味を示さないし、ドゥアニを始めとする荷物持ちの少年少女も怪人の元が犯罪組織の構成員だからと非同情的である。アテタの顔には多少の道場の色があったが、それは怪人にされた人間に対する同情ではなく、変化に耐えられずに死ぬという無意味さへの同情でしかない。

 つまり常識とは一定のコミュニティの平均で作られるものであるため、この場においてはミフォンの反応こそが非常識ということになってしまう。

 そしてミフォン自身、自分と同じ反応をしている者が他にいないことに対して、つい疑念を抱きかけてしまう。


「認知が歪んで、頭がおかしくなりそう」


 ミフォンは自身の価値観こそが人間的に正しいと言い聞かせることで、才牙たちが発する歪んだ常識に巻き込まれないよう防御する。

 そんなミフォンの葛藤を知ってか知らずか、才牙たちの迷宮行は続いていく。



 竜のエッセンスで強化された量産怪人は、さらに力を増して魔物を倒していく。

 肉体の膂力で圧倒し、爪や牙で致命傷を与え、尻尾の振り回しで打ち倒し、鱗の防御力で攻撃を跳ね返す。

 幼地竜ですら、もう敵ではなくなっていた。

 そうして進むこと少し、ここまでに見たことのある魔物の中に、また新たな魔物がいた。


「ほう、あれは俺が知る竜と同じだな。サイズは小さいが」


 才牙が感想を述べたように、それは小さな竜だった。

 4足歩行のトカゲに蝙蝠の翼が生えたような見た目をしている、小型犬並みの大きさの、空飛ぶ生き物。

 その大きさを除けば、才牙の元いた世界にて空想で語られていた竜そっくりの姿だった。


幼竜レッサードラゴンよ。身体は小さいけど、ちゃんとした竜よ」

「空を飛んでいることから推測するに、吐息による遠距離攻撃か、もしくは飛翔を生かしての一撃離脱が攻撃方法か?」


 才牙が予想を口にすると、正解を示すかのように魔物の群れが動き出した。

 幼地竜や二足歩行の牛の化け物のミノタウロスなどの魔物が接近戦を挑んでくる中、幼竜は翼をはためかせて距離を取る。

 明らかに後衛の動きだ。


「キュア!」


 幼さのある声と共に、幼竜が口から火の弾を吐きだした。

 それは魔物の群れの頭上を通り抜けて、量産怪人の1体に着弾し、小さな爆弾のような音を立てて爆発した。

 炎煙が晴れると、攻撃を受けた量産怪人の体の一部が爆発の影響で抉れていた。


「なかなかの威力だな。ただし、連発はできないようだが」


 才牙が見抜いた通りに、幼竜は翼をはためかせて天井近くに陣取るだけで攻撃してこない。息を整えている様子もあるため、あの小さい身体から竜の吐息を出すには準備時間が必要なに違いなかった。

 連発ができないのなら気にしなくて良いとばかりに、量産怪人たちが魔物へ攻めに入る。

 しかしシズゥは、魔物の身体を足場にして跳び、幼竜へと斬りかかる。


「新しい魔物、いただきです!」


 シズゥが左の短剣を振るう。

 幼竜は翼を一振りさせて身体を後ろへと移動させる。

 しかしシズゥの攻撃の方が早いため、幼竜の身体に刃の切っ先が掠る。

 ギャリン、と金属が擦ったような音。

 幼くても竜だけあり、その鱗の硬さは金属並みなのだろう。切っ先が掠ったというのに、薄いひっかき傷しかついていない。

 だが攻撃が当たったのは事実だ。

 攻撃を受けた衝撃から、幼竜の体勢が少しだけ崩れる。

 しかしその体勢の崩れは、1秒もしたら収まってしまうほどの小さなもの。相手が攻撃した手を引っ込めて再攻撃するまでには立て直せる――はずだった。

 シズゥは双剣使い。つまるところ、左手の攻撃が終わっても、右手での攻撃が残っている。


「トドメ、です!」


 シズゥは右手にある、真銀合金の刃を振るった。この本命の攻撃を当てるために、あえて切れ味が劣る鋼鉄の刃の方で先に攻撃していたのだ。

 幼竜は体勢を立て直しきれず、真銀合金の刃を身体に食らってしまう。

 竜の鱗といえど、この斬撃には耐えられない。

 身体を斜めに分断されて、幼竜は絶命した迷宮の魔物らしく塵となって消えた。その痕から現れたのは、人の両手の幅ほどの大きさの翼が1つ。


「新しい魔物のエッセンス、採ったです!」


 ふふんと自慢げに、シズゥは地面に着地する。

 未だに戦っている量産怪人たちは、傍目からはそうには見えないものの、シズゥが戦線に戻ってくれないかなと言いたげな雰囲気を醸し出していた。

は続いていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] レッサーよりパピーが似合う
[一言] 幼くとも地竜とは違って空を飛ぶ竜 エッセンスはどんなものが取れますかねえ
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