51. 報せ
才牙が、どう真銀の合金をエッセンスドライバーに組み込むかを思案していると、ミフォンが慌てた様子で入ってきた。
「才牙、大変! いま逃げてきたって子が来て、ドゥアニたちがガラの悪い連中に襲われてるって!!」
才牙はミフォンへ一度頷いたが、すぐにエッセンスドライバーの思案に戻ってしまう。
「ちょっと! あの子たちが心配じゃないっての!?」
噛みつかんばかりの勢いで放たれた大声が、才牙の鼓膜に突き刺さった。
「そんなに声を張り上げなくても聞こえている。それに、ドゥアニたちが襲われるだろうことは、予想がついていただろうが」
「予想って……」
「身寄りの不確かな子供がまとまった金を持っているんだ。悪いことを考えられる輩なら、脅しつけて奪おうとするのは当然の事象だろうに」
才牙の物言いに、ミフォンの額に癇癪筋が浮かぶ。
「そう分かっていたのなら、この宿に泊まらせるとか、やり方はいくらでもあったでしょ!」
「あったが、そうしなかった理由がある」
才牙は改めてミフォンに向き直ると、悪の秘密結社の幹部らしい嫌味に映る笑みを浮かべた。
「あいつらがどうなろうと、俺の元の世界に戻るという目的には関係がない。ドゥアニは2種類のエッセンスに適合した稀な例ではあるが、その2種類が弱いエッセンスだからな。世界を渡れる力の参考にはならない」
才牙の衝撃発言に、ミフォンは呆気に取られた後で怒り出した。
「あんたがそういう人物だって知ってはいたけど、迷宮を肩を並べて歩いた間柄ぐらいは助けるべきでしょ!」
「なにを言うかと思えば。俺は十二分に親切にしてやっただろ」
「見捨てようとしていて、どこが!」
「その前に、俺はあの少年少女たちに職業の斡旋と支度金を渡していただろ。そして、いま襲われているという連中は、職につく気がなく、金を有効活用しようとする気概もない、どうしようもない人物だけだ。ドゥアニは職に就くことも金を生かすことも考える頭があるが、あいつはお人よしだ。だからどうしようもない連中が見捨てられなくて、いま窮地に陥っている。そんな連中は、助けるにたる人材と言えるか?」
才牙の冷徹な考えに、ミフォンは開いた口が塞がない様子だった。
「……そんな、要不要で人間を測るなんて」
「要不要以外で測れるほどに、あの少年少女たちと付き合いは深くないが?」
取り付く島のない返答に、ミフォンは思わず恨めしげな目を返してしまう。
才牙はエッセンスドライバーの研究に戻ろうとして、その直前に告げる。
「この宿まで逃げてこれたのなら、問題の解決をするのもやぶさかじゃないけどな」
才牙はそれが最大限の譲歩だと言外に示すと、エッセンスドライバーの改良案の思案に入ってしまった。
ミフォンは、才牙の態度を見て、これは本当に助けに行く気がないのだと理解した。同時に、才牙は約束を守る気質であることも思い出した。
だからこそミフォンは、ここで才牙に言い募るのではなく、ドゥアニを助けに向かうべきだと判断した。
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
年末作業の疲れで頭が働かなくて量が書けないので、更新内容が短くて申し訳ありません。