49. 迷宮から戻り
才牙は迷宮から戻ると、冒険者組合で消滅した魔物が落とした物と宝場から集めた物を売却した。
お金に困っていない才牙からすると、まあまあのお金――荷物持ちの少年少女の目からすれば、目が飛び出るほどの大金を手にした。
そして、その3分の1を少年少女たちの報酬とした。
受け取ったときは満面の笑顔だったが、すぐにその顔が曇る。
表情を変えた理由を、ドゥアニが申し訳なさそうに告げてきた。
「あの。このお金、預かってもらうことってできますか?」
「してもいいが、何故だ?」
「僕らのような力がない子供がお金を持っていると、奪い取ろうとする人がでてくるから」
ドゥアニが弁明した瞬間、冒険者組合の中にいた何人かの冒険者が変な反応をする。
目論見が外れたといったような、もしくは獲物を諦めたかのような、そんな態度をしていた。
どうやら本当に、少年少女たちからお金を巻き上げようという輩が存在していたようだ。
才牙は、そういった輩に呆れを感じつつも、どうしたものかと考える。考えた末に、少年少女たちの取り分を、ドゥアニに全て手渡した。
「えっ、あ、あの?!」
驚くドゥアニの肩に、才牙は手を載せる。
「お前には力がある。魔物を声で吹っ飛ばす力がな。それでも、弱者から金を巻き上げようと画策する小悪党ごときが怖いか?」
その質問に、ドゥアニは思わずといった感じで自分の喉に手を当てる。
そしてドゥアニの目が、襲撃者に怯える目つきから、不埒者を打ち倒す決意の瞳へと変わる。
「そうでした。僕には、この力がある」
「その通り。それに軽身の力を得た少女もいただろ。襲撃された際には、そいつに金を持たせて近くの家屋の屋根に飛び上がらせれば、奪われる心配もないはずだ」
「なるほど、たしかに」
ドゥアニは納得すると、才牙に一礼してから、荷物持ちをしていた少年少女たちと共に冒険者組合から出ていった。
その後ろ姿を見送った後で、ミフォンが才牙に喋りかけてきた。
「あの子たちを行かせちゃってよかったわけ? ドゥアニ君は、エッセンスに適合していたけど?」
「問題ない。どうせ戻ってくるからな。ドゥアニはな」
含みのある言い方に、ミフォンの眉間に皺が寄った。
「ドゥアニ君はって、他の子については?」
「さあな。この世界が俺の思う以上に悪辣なら、ドゥアニたちから金を巻き上げるために、弱い少年少女を人質にした上で殺すだろう。思っている以上に優しいのなら、あの金に味を占めて、俺達の迷宮行に同行しようとするだろう」
才牙の両極端な予想に、ミフォンは非難がましい目つきになる。
「教えてあげないんだ?」
「これから真銀の特性について調べなければいけないんだ。子供の世話なんてしている時間はない」
「だから適当なことを言って遠ざけたってこと?」
「適当ではない。ドゥアニには力があるのは本当だ。上手く立ち回れば、最悪の事態に陥っても、全員が助かる道はある」
しかしそれを懇切丁寧に教えるほど、才牙は優しくはない。
なにせ悪の秘密結社で、人を洗脳して戦闘員を組織し、その戦闘員を改造して暴力的な怪人を生み出してきた、悪の科学者なのだから。
才牙は宿屋に部屋を取ると、さっそく真銀の性質について調べてみることにした。
冒険者組合の資料室で真銀の資料を見せてもらい、本屋に行って錬金術の本の中から鉱物に特化した本を購入した。
「冒険者組合の方は見た目の特徴だけというお粗末さだったが、錬金術の本の記載には一目置く情報があったな」
才牙は錬金術の本を開き、真銀について書かれたページを開いた。そして真銀とは――と見出しがついた項目を読み下していく。
この錬金術の本に曰く、真銀は鉄よりもしなやかさがあり耐熱性もあるが、金槌で簡単に打ち延ばすことができる。魔法使いが用いる触媒を作る場合はそのまま使い、武器にする場合は他の金属との合金にする。合わせるそざいにもよるが、合金は類まれなる不変性を得る。真銀のままでも合金でも、魔力との親和性が高く、持ち主の魔力に呼応して魔力を纏う特色がある。
「魔力とエッセンスは別物だ。となると、エッセンスドライバーに使えそうな特性は、真銀の合金の不変性だな」
本当に不変なのであれば、超強力なエッセンスや、複数のエッセンスを同時使用した際に、その力をドライバーの中に抑え込む役割を担わせることができる。
では、その合金の作成に入ろうと決めて、合金の情報を本から得ようと本の内容を見て、才牙は片眉を上げた。
「詳しい合金の錬成の仕方は別冊の本で、とはな。上手い商売をしてくれるじゃないか」
しかも真銀合金の錬成の本は、いま目の前にある本を購入して本の題名を入手しなければ、本屋で注文できないような仕組みになっていると受け取れる記載もある。
まんまと商売の仕組みに嵌められてしまったが、才牙は憤りではなく感心していた。
「ここまで金を稼ごうとする徹底さは素晴らしいな。さて、どうせ他の鉱物でも同じことをやっているだろうから、あらかじめ必要になりそうな鉱物の錬成する本の題名を調べるとしよう」
才牙は本のページを捲り、真銀の他にはどんな鉱物について書かれているのかを読んでいくことにしたのだった。




