27. 領主を治療し
才牙は、領主だという男と取っ組み合いをしながら全裸に剥く。その後で、借りたロープで雁字搦めにして拘束した。
「さて、準備が整った」
いま部屋の中に居るのは、才牙と領主の男だけ。領主の関係者は門外不出の技だからと外に追い出し、ミフォンとアテタも領主の興奮を抑えるためと理由を付けて外へ出した。
つまり、いまこの部屋の中で才牙の暴挙を止められる人物は、1人も居ないということだった。
「さて先ずは、記憶を全て頂くとしようか」
才牙は元の世界から持ってきた方のエッセンス封入缶、その未使用品おを白衣から取り出す。そしてその封入缶に、領主の記憶を全て吸い出した。
「あば、あばぶ」
言葉の記憶すら失った領主が、赤ちゃんのような声を出す。しかし股間部は起立しっぱなしで、未だに性欲増加ポーションの影響下にあることを伺わせる。
「記憶を失おうと、性欲は衰えないわけか。これはこれで興味深い」
才牙は領主の状態を観察し続けながら、次の処置に移ることにした。
「では性欲を吸収する封入缶の出番だ。こんなことが起こると予見してあったからには、こうして準備はしてあるとも」
才牙は独り言を呟きつつ、この世界の物質で作った上で特別な処置を施した封入缶を、領主の下腹に押し付けた。
すると股間部を中心に薄桃色の煌めきが発生し、その煌めきが押し付けている封入缶の中へと入っていく。
「仕組みは単純。封入缶に人の記憶を入れ込んだように、封入缶に対象の性欲の全てを入れ込むだけ。これで処置したものは、常に賢者モードだ」
薄桃色の煌めきが吸い取られる度に、領主の股間の起立が穏やかになっていく。やがて煌めきが1つ残らず消えると、へにゃへにゃになってしまった。
才牙はちゃんと性欲がなくなったことを確認すると、先ほど記憶を奪った方の封入缶を領主の頭に押し付けた。
記憶の煌めきが領主の頭の中へと入り込んでいき、赤ん坊のような無垢な表情だった顔に段々と知性の色がついていく。
そうした処置を終えてから、才牙は領主の顔を覗き込む。
「気分はどうだ? 違和感のある場所は?」
問われて、領主は知性あふれる顔つきで自分の体を見下ろした。
「気分は上々である。違和感というのなら、全裸で縛られている状態こそが違和感である」
「ふむ。肉体的な問題はないわけだな。処置終了でいいな」
才牙が縄を解と、領主が深々と一礼した。
いかに病気を治してくれた恩人であろうと、町を治める代官貴族が治療者に最敬礼するなど、貴族の礼法としては在ってはならないこと。
そんな異常事態を引き起こしているのは、やはり才牙の企みだ。
「どうやら、俺に忠誠を誓わせる処置も完璧のようだな」
「その処置を受けた身としては、とてつもない違和感である」
「違和感とは?」
「貴方に忠誠心を抱いていることについて、学んだ知識や培った常識では間違いだと判断できるのに、心情的な部分ではなにも間違っていないと感じることがである。だから名は告げぬ」
そんな違和感があるからこそ、この領主は忠誠を誓う相手に自身を名乗らないという不義理を行うことで、一種の意趣返しを行っているようだ。
しかし才牙にとって、利用する駒の名前など、どうでも良いことでしかない。むしろ記憶容量の節約になって良いとすら思っている。
なにせ才牙が重要視するのは、駒が想定した基準以上の働きをするか否かだ。
「あらかじめ言っておくが、お前に力を貸してもらう。領主であるからには、この町でできないことは少ないのだろう?」
「……断っておくが、この町の治安を乱すような真似は、手伝えないのである」
才牙が入れ込んだ忠誠心を跳ね除けての言葉。
才牙はそこに、町を愛する心意気と領主としての意地を感じた。
「安心しろ。俺はこの町を壊滅させたいわけじゃない。いやむしろ、住民の居心地を良くしてやろうと考えてすらいる」
「信用できないのであるぞ?」
「信用しなくてもいい。先ずは、お前の性欲を治療したことを喧伝させてもらうだけだからな」
「喧伝、であるか……」
領主は自身の下半身事情が知れ渡ることを恐れているようだ。
しかし才牙は、この領主が町思いなことを利用する。
「お前と同じ症状で苦しむ人間がいるんだ。それを治療してやろうと思わないのか?」
「うぐぐっ……分かったのである。領民を救うためであるからな」
領主は渋々といった感じで、才牙の提案を飲んだ。それが悪魔の契約にサインをするのと同じ行為だと、注入された忠誠心の所為で気づかないままに。