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21. エッセンス収集

 才牙たちはアゥトの町の周辺を巡り、魔物と戦っていった。

 良く出るという、ゴブリン、草犬、大爪兎、強襲鳥の全てに出くわし、その全てをシズゥが倒し、才牙がエッセンスを抽出した。

 入手したエッセンスについて、才牙は多数捕まえた大爪兎に試用してみて効果を確かめ、以前に入手したものも含めて以下の通りに名付けた。

 ゴブリン化、悪臭、性欲増加、草犬化、迷彩、爪兎化、斬撃、聴覚強化、襲鳥化、強襲。

 それらの種類のエッセンスを入手して、才牙は改めてエッセンスの特徴を掴んだ。


「エッセンスは効果が持続するものと、瞬間的に作用するものの2種類があるようだな」


 才牙が元の世界で生み出した次元エッセンスや、薬草や毒草に含まれていたエッセンスに、魔物化などは持続効果のある種類だ。

 しかし今回、魔物から得たエッセンスの中で、斬撃と強襲のエッセンスは、エッセンス使用した後の一撃の攻撃にみに作用する、特殊なエッセンスだった。

 斬撃はナイフや手刀などの鋭角な部分を用いた攻撃の威力を上げ、強襲は駆け寄りながらの1撃が強力になる。


「斬撃は剣や斧に塗ることで攻撃力を上げるポーションに、強襲は不意打ちや止めの一撃の効果を高めるポーションにできるが――流通させるのはまだ先で良いな」


 売り出せば冒険者を中心に良く売れそうではあるが、才牙は新たなポーションを作ることを止める。

 それは才牙が、アゥトの町でポーションによる騒動が起こると予見しているから。そして、ここで新たなポーションを流通させてしまっては、その騒動に大きく巻き込まれるであろうことを予想したから。

 そもそも、才牙たちがこうして町の外で活動しているのは、新たなエッセンスの入手という目的もあるが、アゥトの町でポーション販売を止めたことを行動で示すため。

 それこそ、アゥトの町で流行り始めた模造品や粗悪品から距離を置くためだ。

 そうした用心を才牙がしていることに、ミフォンは意外に感じているようだった。


「才牙のことだから、もっと自身満々に、それはうちの商品じゃないって論破することを選ぶと思ったのに」

「論破というものは、話が通じるだけの知能が備わった相手にしか行えないものだ。ポーションを作成する苦労を知る錬金術師を相手にするのなら多少は使える手段ではあるが、ポーションを楽な薬ぐらいにしか思っていない買い手には意味のない行為だ」

「ええー? 話せば分かってくれるとは思わないんだ?」

「当たり前だ。話し合いで人間が起こす物事の全てが解決できるのなら、個人や国家が武力を持つ必要がないはずだ」


 ここで才牙は言葉を切ると、改めてミフォンに向き直る。


「お前たちのパーティーだって、話し合いではなく武力を頼りにしていたろ。俺と言葉が通じないってだけで、対話を諦めて武器を向けてきたんだからな」


 痛いところを突かれて、ミフォンは口ごもる。

 しかし才牙は、過去の事は気にしていないと身振りした。


「手間を考えれば、武力による交渉の方が楽だからな。言葉では百万言費やしてようやく交渉相手の心を動かせるが、武力では拳の1発で心変わりをさせることが可能なんだからな」


 才牙は、逸れつつあった話を元の流れに戻す。


「つまりだ。模造品や粗悪品を掴まされた者は、販売者に詰め寄るだろう。効果が悪い、悪影響が出たとか言ってな。その者たちが求めるのは、言葉による説明ではなく、誠意ある『賠償』だ。その賠償騒動に巻き込まれないようにするには、販売者が俺たちではないことを示す必要がある」


 才牙の説明に、ミフォンは眉を寄せる。


「才牙って、人間を信じていないんだ。だから人から距離を置こうとしているんだ」


 ミフォンの意見に、才牙は笑いだす。トンチンカンな指摘だと、大笑いする。


「はははははっ! 俺は人間のことを信じている。ただし信じているのは、愚かさの部分だがな」

「人間が全て愚かだって言いたいわけ?」

「当然だ。愚かであるからこそ、流言飛語に惑いやすく、簡単な快楽に流れやすく、宗教というよすがに縋る。いや、この世界では神が実在するのだから、宗教の点は除外するべきか」


 才牙はともかくと、話を続ける。


「人間が愚かであるからこそ、秘密結社イデアリスが世界を牛耳り、人々をより良い方向へと導く。それが首領が掲げる使命。その使命に、この俺も準じている」

「準じているって、まさかこの世界も、そのイデアリスとやらで牛耳りたいってこと?」

「それは首領がお決めになることだ。俺は首領が決断したとき、この世界の支配への道筋を確保しておこうとしているんだ」

「……とっても意外。才牙は自分のことを1番だと思ってそうなのに、その首領って人の方を上位に置いているんだ」


 ミフォンの指摘は鋭い。

 才牙の性格であれば、自身の頭脳を頼りに上司に反逆を企てそうなもの。

 しかし実際は、イデアリスの首領に従って動いている。

 この差異について、才牙は笑顔で理由を語り始める。


「前に言っていなかったか。この体は、首領が宿るべき完璧な肉体の試作体の1つ。つまり首領は、俺より能力が高くなることは決定事項だ。その高い能力を誇る肉体をどのように扱うのか。それを確認しないことには、首領への反逆など出来るはずがないだろう」

「えっ。本当は反逆を企てていたわけ?」

「当然だ。この次元エッセンスを俺が先に試用実験したのも、扱いきれれば全てのエッセンスに勝る力を手に入れられるからだ。仮に試みに失敗しても、首領は次元エッセンスの使用を危険だからと忌避する。実験失敗で俺が生き残ったのならば、失敗経験を生かして次元エッセンスを完全に扱えるように研究すれば、俺は誰よりも強力な力を扱える個人となれる! そして俺は、こうして生き残っている!」


 壮大な企みの語り聞いて、ミフォンはなにかに気付いたようだった。


「色々な下準備をしていたみたいだけど、全てが才牙自身を強くするための方法なんだね。首領という人を貶めるためじゃなくて」

「当然だ。実力を下げた相手に勝ってどうする。手強い相手に勝つことこそが、俺自身の能力の躍進につながるというのに」

「それって正々堂々と正面から打ち勝ちたいってことでしょ。方法はどうあれ、心根は真っ当なんだ」


 ミフォンの評価に、才牙は嫌そうな顔になる。


「俺のことを知った気になるんじゃない。お前に分かられるほど、俺は簡単な存在じゃないんだ」

「はいはい。お次の検体が来たよ」


 ミフォンがある方向を示すと、シズゥとアテタが才牙の方へと近寄ってきていた。シズゥは手に岩の殻のようなものを体にくっつけた大柄な猪――鱗猪を掴んで引きずっている。

 その光景を見て、才牙は先ほどまでの会話からシズゥの姿に思考を切り替えた。


「明らかに猪よりもシズゥの方が体重が軽いのに、簡単に引きずっている。あの身に宿っている再建のエッセンスの影響だろうか。とても興味深い」


 その研究馬鹿な様子に、ミフォンは才牙の内面が少しだけ分かったからか、今までよりも温かい眼差しで見ていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういやミフォン達はいきなり攻撃してきましたっけねえ、返り討ちでしたが
[良い点] >話が通じるだけの知能が備わった相手にしか行えないものだ。 話が通じる相手はそもそもまず文句を言いに来ないし、そもそも粗悪品なんて買わないんじゃないかな。 つまり騒動にはかかわらないこと…
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