1.悪の科学者VS正義の味方
7色にカラーリングがそれぞれ分けられた、体のラインが浮き出ている戦闘服に身を包んだ7人。
体つきから男性4人女性3人だとわかる彼ら彼女らが、二足歩行をするライオンのような姿の、イデアリスの怪人に対して必殺技を叩き込む。
「「「グレートストレート、スラッシュ!!」」」
「ぐああああああ! おのれ、セイレンジャー!!」
爆発する怪人をバックに、男女7人が決めポーズ。
その後すぐに、7人の戦闘服が掻き消え、普段服の姿へと変わる。
「ぐはっ。はぁはぁ。ここまで、連戦続きだと、星の力を体に維持できないな」
「仕方ないわよ。ここは秘密結社イデアリスの秘密基地。そこに攻め入っているんだから」
「そうだ。ここまで戦闘員と怪人の抵抗が激しいということは、このアジトが重要な場所である証拠だ」
「ここを潰しさえすれば、あとはオッケーってことだよね⌒☆」
「世界の平和まで、あと一歩なんや。踏ん張りどころやぞ!」
「でも、戦い続きで、疲れました~」
「休んでいる暇はない。ここまで来て、敵を取り逃しでもしたら、元の木阿弥だ」
7人の男女は普段服姿のままで、建物内を走り始める。
セイレンジャーの力の源は、太陽系にある星々から借り受けた星の力。
人間の身に余る巨大な力を長時間借りて使った反動で、セイレンジャーの肉体が悲鳴を上げている。
そのため、少しでも変身時間を短くしようと、敵がいない移動中は素の状態で走るようにしているのだ。
7人は走り続け、やがて秘密基地の最奥。このアジトの親玉がいると思われる場所までやってきた。
「いくぞ!」
セイレンジャーのリーダーが掛け声を行い、最奥の部屋の扉をけ破って中に入った。
その部屋の内部は、まるで城の謁見室のような広場になっていて、一段高い場所に置かれた豪奢な椅子に誰かが座っている。
座っている人物は全身を白い布で覆い隠しているが、その眼は真っ赤に輝いていた。
イデアリスにいる、白布で赤目の人物。
その特徴は、セイレンジャーが掴んでいた情報によると、ある人物を指し示していた。
「ようやく出会えたな。イデアリスの首領、インプルーヴ!」
セイレンジャーのリーダーが告げると、白布の人物は笑い声をあげた。
「ハハハハッ! ヨク来タ、せいれんじゃーノ諸君。歓迎シヨウデハナイカ」
機械的に歪められた声は、聞く者に嫌悪感を抱かせる罅割れたもの。
セイレンジャーの面々が思わず顔を顰める中、白布の人物の声が続く。
「貴様ラノ相手ヲ、我自ラガシテヤリタイガ、ソレハ叶ワヌ。何故ナラ、我ガ腹心ガ、コノ場ニ居合ワセテイルノダカラナ!」
白布の人物が椅子に座ったまま片腕を上げると、豪奢な椅子の裏から1人の人物が現れる。
それは黒スーツに白衣を来た、身長190センチは在ろうかという、黒髪オールバックの美丈夫だった。
その人物を見た瞬間、セイレンジャーのリーダーが叫ぶ。
「お前は、円座才牙! 怪しいやつと思っていたが、やはりイデアリスの関係者だったか!」
名指しで呼ばれた才牙は、セイレンジャーの面々に軽く会釈する。
「久方ぶりだな、セイレンジャー。仲違いは終わったのか?」
「円座。お前が企んで、俺たちに不和を起こさせたことは分かっている! 残念だったな! あの1件以降、俺たちの結束力は更に高まった!」
「それは余計なことをした――とでも、俺が言うと思ったか? お前たちは、なぜ俺が不和を起こさせたのか、その本質を理解していないな」
「本質だと?」
才牙は指す。セイレンジャーの面々の右腕にある、星の力を借りる端末である腕輪を。
「お前たちがイデアリスの怪人に勝てるのは、その腕輪から星の力を取り込むことが出来るからだ。その仕組みを解析し、流用できるようになれば、お前たちに勝ち目はなくなる。その解析のために、俺はお前たちに近づき、そしてセイレンジャー同士が戦う舞台を作り上げたのだ」
「解析、だって!?」
「そうだ。特にお前たちが仲違いで殴り合った際、お前たちの腕輪が顕著な反応を示した。お互いの腕輪が、相手より力を上回ろうとして、より強い星の力を引き出そうと頑張ったようでな」
才牙の指摘に、セイレンジャーの面々が気付いた顔をする。
「確かにあの時、いつも以上の力が出たような気がする」
「いや、力が出たといよりも、同士討ちで怪我をしないように戦闘服の強度が上がった気がした」
「お前たちの感想などは、どうでもいい。俺が言いたい結論は、その腕話の仕組みは解析できたということだ」
才牙が白衣の内に手を突っ込み、そして引き戻す。その手には、弁当箱サイズの銀色の装置がバックルについた長いベルトがあった。
しかしそれを見て、セイレンジャーの面々は余裕顔だ。
「解析できたと自慢する割に、随分と大きいじゃないか」
「そうよそうよ。私たちのはバングルサイズで、そっちはベルトサイズ。再現できていないわよね」
セイレンジャーのヤジに、才牙はやれやれと肩をすくめる。
「解析したからには、お前たちと同じものを作っても仕方がないだろ。どうせ作るのなら、より高性能になったものじゃなければな」
才牙はベルトを腰に巻くと、バックルの装置を軽く叩く。すると装置の上端が開き、なにかを入れるスロットが現れた。それによく見ると、その装置の右端には引き金のようなものがくっ付いている。
それら装置の意味にセイレンジャーが分からずにいるが、才牙は白衣のポケットからグレネード弾のようなものを取り出す。
「さあ、見るといい。イデアリスの科学力の粋を込めて作り上げた、このベルトの力をな!」
才牙がグレネード弾のようなものの頭を叩くと、それから音声が流れた。
『ジゲンエッセンス――ディテクティブ』
「次元翔身」
才牙はスロットに弾――封入缶を入れて閉鎖すると、バックルにある引き金を引いた。
『ジゲン、グルーアップ!』
バックルから機械音声が流れると同時に、漆黒のエネルギーが才牙を包み込んでいく。
やがて現れたのは、ラメのような煌めきのある真っ黒な戦闘服で全身を包んだ才牙。
その姿は、セイレンジャーの戦闘服と瓜二つだった。
「そんな、本当に解析できていたなんて……」
「違う。あれはコケ脅しだ。戦ってみれば、すぐに化けの皮が剥がれるに違いない」
セイレンジャーたちは顔を見合わせると、彼ら彼女らも戦闘服を見に纏うため、腕輪の力を使うことにした。
「「「星力招来! セイチャージ!」」」
腕輪を展開して中に隠されたパワーストーンを露出させると、腕輪をした方の腕を頭上へと突き出す。するとパワーストーンが光り輝き、その光がセイレンジャーたちを包み込んだ。
その光が晴れると、戦闘服に身を包んだセイレンジャーが立っていた。
「人の嘆きに天が応える!」
「悪しき者へ星の裁き!」
「「「運星戦隊セイレンジャー!」」」
変身後の決めポーズの直後に、セイレンジャーは召喚した武器を手にして才牙へと攻撃する。
「リングレットチャクラム!」「フレアソード!」「「「コスモライフル!」」」
2人が接近戦を挑み、他の面々は銃撃でサポート。
才牙はその全ての攻撃を棒立ちの状態で受け、真っ黒な戦闘服の表面に火花が散った。
「どうだ!」
セイレンジャーが良い手応えを確信したが、しかし才牙には苦しそうな様子はない。それどころか、攻撃をされたとも思っていない感じを漂わせていた。
「どうした、その程度か!」
才牙は反撃で、接近戦を仕掛けてきた2人のセイレンジャーにパンチとキックを見舞う。
たった一発ずつの攻撃にも関わらず、その2人は空中を滑空するほどに吹っ飛んだ。
「「ぐあああああああああああ!」」
「リーダー! サターン! くっ、よくも! デュアルサーモアタッチ! 食らえ!」
コスモライフルに熱冷の光線を放つ機構をくっ付けての攻撃。
この急熱急冷による熱疲労を引き起こす攻撃は、数々のイデアリスの怪人に確実なダメージを与えてきた。
しかし黒い戦闘服を着た才牙には、一切効いていない。
「いまの俺は、次元を跳躍した力を手にしている。その程度の熱冷など、木漏れ日とそよ風と変わりはしない」
才牙は攻撃を体で受けながら、バックルの引き金を一度引いた。
『ジゲンエナジー、チャージアップ』
「ディメンション・スマッシュ」
才牙の言葉に反応するように、バックルから溢れ出た黒い力が、才牙の右腕に絡みついた。
その右腕で、コスモライフルを乱射するセイレンジャーの1人を殴りつけた。
「きぃやああああああああああ!」
先の2人は比較にならないほどに大きく吹っ飛び、部屋の壁へ激突。この1撃で、星の力で編まれた戦闘服が霧散し、元の姿に戻ってしまった。
「そんな、マーキュリー!」
「連戦の疲れがあるとはいえ、まさか1撃とは」
才牙の予想外の攻撃力に、セイレンジャーが及び腰になる。
その弱気な仲間を叱咤するのは、セイレンジャーのリーダーだった。
「みんな落ち着け。あの新しい力を試すときだ!」
「そんな! あれを使えば、リーダーの体は!」
「そうだ! 連戦続きで、すでに体はボロボロだ。もしアレを使ったら、無事じゃすまない!」
「このままやられてしまったら、同じ結末だ。どうせ同じなら、万が一にかけるしかない!」
リーダーの説得に、他のセイレンジャーたちは頷き合う。そしてリーダー以外が、壁まで吹っ飛んだ1人の近くへと集結する。
「頼んだぜ、リーダー。全員の力を、あんたに託す!」
セイレンジャーたちが腕輪をしている方の腕を、リーダーへと突き出す。
すると腕輪のパワーストーンが光を放ち、その光がリーダーの腕輪へと吸い込まれていく。
「来た、来たぜ! 皆の想いと、太陽系にある星の力があああ!!」
リーダーの戦闘服の肩、前腕、足元が集まった星の力によって燃え上がり、その燃えた部分が変化して鎧に変わる。
これが6人からの星の力を合わせた、セイレンジャーの最強の姿。
リーダー1人に星の力を集約させるため、他のセイレンジャーは元の姿に戻り、そしてリーダーには7人分の星の力による負荷が肉体にかかる、強大な力と引き換えにデメリットも大きい諸刃の剣。
「誕生! グレートサンフォーム! いくぞ、才牙!」
リーダーが振りかぶったフレアソードの剣身が燃え上がり、莫大な熱波と共に斬撃が繰り出される。
この1撃に危機を感じたのか、才牙が初めて腕で防御した。
「ぐっ。なるほど、言うだけある」
「このまま、クライマックスまで押し切ってやる!」
リーダーは溢れる炎に突き動かされるように、滅茶苦茶にフレアソードを振るう。
一方で雑賀は冷静に左腕1つで斬撃を防ぎ、右手はバックルの引き金に指をかける。
「では、その御自慢の姿でも倒せないことを、分からせてやるとしよう」
才牙はバックルの引き金を、三回引いた
『ジゲンエナジー、ジゲンエナジー、ジゲンエナジー。リミッターリリース! チャージアップ!』
「ディメンショナル・マニューバー」
バックルからあふれ出た黒い力が、才牙の姿を完全に覆い隠す。そして引き金から話した右拳で、セイレンジャーのリーダーの体を殴りつけた。
その直後、不思議なことが起こった。
才牙は1発殴っただけなのに、リーダーの体に3回の衝撃が走ったのだ。
「なんだって!?」
「まだまだ途中だぞ!」
才牙が左腕で殴ると、再び3回分の衝撃が。その威力にリーダーの体が宙に浮てしまう。
才牙はさらに足で再び拳でと攻撃を繰り返す、度重なる衝撃の連続に、リーダーの体が後ろへと吹っ飛ぶ。
才牙は吹っ飛んだリーダーを高速で追いかけ、さらに殴り蹴るを繰り返す。
するともはや、人の目では捉えられないほどに、リーダーの体は部屋の中を飛び回り、才牙も黒い陽炎のような残像となる。
「これでトドメだ! ディメンショナル・マルチプルストライク!」
黒い力が才牙の両足に集中する。
その足でもって空中を飛んでいるリーダーを追い抜くと、直後に独楽のように回転しての連続蹴りを叩き込んだ。
「ぐああああああああああああ!」
リーダーの悲痛な叫びが部屋に木霊し、そして最強フォームだったはずの戦闘服が星の力を維持できずに霧散した。
巨大な暴力から身を守る術を失ったリーダーのあたま絵へ、才牙の回し蹴りが放たれる。
これが命中したら、リーダーは頭を失った死体に変わってしまうことだろう。
「いやあああああああああああああ!」
セイレンジャーの女性の1人が、リーダーの死を予感して悲鳴を上げる。
そんな物理的な力がない悲鳴が、才牙の蹴りを止める効力があるはずもない。
無慈悲にリーダーの顔に蹴りが叩き込まれ――る直前、あと数センチというところで、才牙の蹴り足が止まった。
悲鳴を聞き入れて見逃したのか。それとも無防備なリーダーを蹴ることに罪悪感を得たのか。
そのどれも違うことは、才牙が戸惑いを口に出したことから分かる。
「ここで活動限界か。調子に乗って、リミッターを外したのが拙かったか」
才牙は蹴りを放つ途中の形で、体が固まってしまっている。体に纏った黒い力が、一切動かなくなってしまったことが原因だ。
「やはり次元エッセンスは、制御不能ということか」
才牙は渾身の力でもって腕を動かすと、ベルトのバックル装置を動かし、上部のスロットを開放する。
グレネード弾型のエッセンス封入缶がスロットから飛び出し、才牙の体から戦闘服が消え失せる。
しかし封入缶から黒い力が漏れだし、そして暴れ始めた。
才牙は封入缶を掴むと床に投げつけ、踏みつける。
「次元の力が完全暴走する前に破壊するしかないが、壊した瞬間に俺は死ぬだろうな」
才牙は背後を振りむき、白布に包まった人物を見やり、半笑いの表情になる。
その表情のまま、才牙の激しい攻撃によってボロボロになったリーダーを回収して介抱している、セイレンジャーの面々に顔を向ける。
「セイレンジャー。お前たちに礼を言おう。今回の戦いのデータによって、悪の秘密結社イデアリスの首領は、より完璧な存在になれる」
予想外の言葉に、セイレンジャーたちが慌てる。
「あの白布の首領が、より完璧にだって!?」
「何を勘違いしている。あの椅子にあるものは、首領の端末。単なる機械仕掛けの人形に過ぎない。そして俺もまた、首領の完璧な肉体を作るためのプロトタイプであり、この次元バックルも使用危険度が高い試作品。より完璧なものを生み出すための礎なのだ」
「そんなまさか。俺たちがこのアジトに襲撃をかけること自体が、全て仕組まれていたってことなのか」
「その通り。お前たちの実力を丸裸にし、そして有益なデータを取得するための企みだったのだ」
才牙の告白に、セイレンジャーたちの顔色が失せている。
「ど、どうして俺たちに、そんな情報を言うんだ! おかしいだろ!」
「全ては、首領が完璧な存在となるための試練だ。俺が放っているこの言葉も、首領に告げるように命じられたもの。セイレンジャー。お前たちは、我々悪の秘密結社イデアリスの企みに、今後も苦しむといい! では、さらばだ!」
才牙は踏み付けていた封入缶を蹴りつぶした。
その瞬間、閉じ込められていた次元的なエネルギーが荒れ狂いながら、才牙を飲み込んだ。
荒れ狂う力場で風が巻き起こり、セイレンジャーたちは目を開けていられなかった。
やがて風が収まると、その場に才牙の姿はなくなっていた。
ヒーロー番組をモチーフに、異世界転移と混ぜてみました。
よくある感じの物語ですが、よろしくお願いいたします。




