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17. 指導

 シズゥ、シズゥの再建素材に使った1体、シズゥが取り込んだ2体を除き、残る9体の死体。

 才牙は、それらも再建のエッセンスを使用して、3体の蘇生を他6体の肉体を使用することで試みた。

 しかし蘇生できたのは1人だけで、他2体は死体のまま。その蘇生した1人にしても、シズゥのように封入瓶なしで再建のエッセンスを使用することはできなかった。

 記憶の封入缶で知識を与えても、その蘇生できた1人は他の元病人と同じような立ち振る舞いをするようになった。その点も、言語と態度に変異が見られた、シズゥとは違う。


「この結果から推察するに、エッセンスと使用者には、相性があるのだろう。相性が極端に良ければ、そのエッセンスを使えるようになり、相性が良いないしは普通なら封入瓶による効果を受けることが出来て、悪いと効果が下がるのだろうな」

「ねえねえ。それって、シズゥが特別ってことなんです?」

「ああ、特別だ。良いサンプルだぞ、シズゥは」

「わあい! 特別、とくべつ!」


 まとわりついてくるシズゥをあやしながら、才牙は今までに入手したエッセンスを全て白衣から取り出した。


「癒し。退病、鎮痛、恍惚、快楽、幻覚、柔軟、硬直。再建は使ったし、溶解も外すか」


 才牙は8本の封入瓶を両手に掴むと、それらを全てを肉体の再建が終わった死体の1体へと押し付けた。

 色とりどりの煌めきが発生し、その煌めきが死体へと入り込む。そこで才牙は一歩下がって、死体から距離を取った。

 肉体自体は健全だからか、それとも多量の煌めきが入ったことによる影響か、死体がビクビクと跳ねる。

 そのまま1分ほど経った後、死体の中から弾き飛ばされるようにして、7つの色の煌めきが噴出した。

 この光景に、才牙は喜びの声をあげた。


「7色ということは、1つのエッセンスが適合したということだ!」


 才牙の声に反応したのか、煌めきを噴出し終えた死体――蘇生した男性が体を起こす。

 歳は20代前半。細マッチョに筋肉が盛り上がり、脂肪が薄く張った肉体。顔立ちは整っていて女性受けしそうな甘さがある。

 パッと見で、人気があるホストのような男は、記憶を全て奪われていることもあり、無表情で黙ったまま立ち上がった。

 その男に、才牙は命令する。


「お前の適合したエッセンスがなにか、見せてみろ」


 その言葉に、蘇生された男の体が煌めきを帯びる。その色は乳白色。

 それがどのエッセンスの色だかと、才牙が思い出そうとするより先に、男の体の変化でエッセンスが判明した。

 男の体が、ぐにゃりと歪んだのだ。関節がなくて曲がらないはずの場所が、あきらかに湾曲する形で。


「なるほど。柔軟のエッセンスの適合者か。ではお前に『ヌアハ』という名前と共に記憶をやろう」


 と名付けた男に、才牙は記憶のエッセンスを与えた。

 するとヌアハの瞳に知性が戻り、そして恭しく才牙に一礼した。その動きは洗練されていて、まるで貴族に使える執事のよう。


「このヌアハ。貴方様に永遠の忠誠を近いましょう」

「期待している。他のものよりも知性が高そうだな。よし、この屋敷で働く者の取りまとめをするといい」

「畏まりました。それでは、その、衣服などを頂けたらと」

「前の住民が残していた衣服が、この部屋の隣の衣裳部屋にある。好きに使うといい。そこに合う服がなかったのなら、ひとまずの物を来て後で買いに行け」

「分かりました。そうさせていただきます」


 ヌアハは命令を受諾して部屋から出る。その際、出入口付近にいたミフォンとアテタの横を通る際にも一礼する。

 全裸のヌアハの股間にぶら下がるものを目にして、ミフォンは嫌そうな顔になり、アテタは興味もないといった顔でスルーしていた。

 才牙は実験の成功をうけて、もう1体の死体にも同じ処置をしたが、今度は8色全ての煌めきが弾き出されて失敗に終わった。

 結局、その1体はなにをしても蘇生できなかったので、溶毒のエッセンスで全ての体を溶かして隠滅することにした。



 病人と死体の処置が終わり、才牙には100人近い従順化した手下を入手した。

 その手下を、才牙は屋敷の保全で働く者と、屋敷の外で働くものとに分けることにした。

 屋敷で働く者は、10人の年若い女性と、5人の屈強な男性。外で働く者は、それ以外とした。

 屋敷で働く15名の統括に、柔軟のエッセンスの適合者であるヌアハを据える。

 外で働く者の統括は、ミフォンとアテタに任せることにした。


「ミフォン、アテタ。適当なところに働かせに行かせろ。読み書きは出来るようにしてあるから、働き口ぐらいはあるはずだ」

「丸投げは酷いと思うんだけど。まあ、肉体的に丈夫そうな人は、冒険者にしちゃおうかな」

「冒険者の仕事で町の雑用をした際の伝手もあるし、下働きできそうなところに当たってみるわね」


 ゾロゾロと80人ほどの人員を引き連れて、ミフォンとアテタは屋敷の外へ。

 その姿を見送っていると、くいくいと白衣が引っ張られた。その元凶は、シズゥだ。


「ねえねえ、才牙様。シズゥは? シズゥはなにをするんです?」

「役割は決めてなかったが――俺と模擬戦をするぞ」

「もぎせん? 才牙様と戦うんです?」

「シズゥの能力エッセンスは戦闘向きだからな。戦えるようにした方が都合がいい」

「わかったです! 才牙様と戦うですよ!」


 才牙とシズゥは、屋敷の中庭に移動すると、向かい合う。

 才牙は超然と立ち、シズゥは獲物を狙う猫のように背中を丸めた構えになる。


「遊んでやる。掛かってこい」

「遊んでもらうですよ!」


 シズゥが地面を蹴って飛び出す。その動きは、二次性徴も始まってないような肉体では発揮できるはずのない、とても速いものだった。

 才牙は少しだけ驚きながらも、シズゥの身動きが素人丸出しだったこともあり、あっさりと回避する。その際に、シズゥの猛烈な速度の理由を察知した。


「足に再建のエッセンスの煌めき。なるほど、筋肉が壊れるほどの全力を発揮したわけか」


 人間の体は、ポテンシャルの全てを出すと壊れるような設計だ。だから本能的にリミッターがかかり、出力が抑制された状態になっている。

 それをシズゥは、肉体を再建できるからと、肉体のポテンシャル全てをふり絞ってみせたのだ。

 リミッターが外れているのは、再建のエッセンスの副作用なのか、それとも1度死んだことでオンオフができるようになったのか。

 興味が尽きない才牙だったが、シズゥの攻撃は続いている。


「当たれです!」

「痛そうだからな、断る」


 体が壊れるほどの全力を出せても、シズゥは戦闘の素人だ。腕や足を振るうにも、無駄や隙が多い。

 逆に才牙は、悪の首領の試験体と秘密結社の幹部として戦闘技能の習熟が必須だったため、それこそ正義の味方と渡り合えるほどの戦闘巧者だ。

 才牙は全力のシズゥに力で負けるかもしれないが、技の面で凌駕している。


「では実践指導だ。再建のエッセンスを頼みに、他の者ではできない全力を出す点は、大変に良い。だが、力を振り回すだけでは、それは獣と変わらない」


 才牙は避けざまに蹴りを一発。シズゥは腹を力強く蹴られて、後ろへと吹っ飛んだ。


「シズゥの動きは無駄が多く、発揮している力を多くロスしている。体の動きを正確かつ細やかに動かせば、少ない力で最大の威力を発揮することができる。俺がいまやったようにな」

「うげぅ――まだ、です!」


 シズゥは腹を押さえながら立ち上がり、才牙へと走り出す。蹴られた部分に赤黒い煌めき。再建のエッセンスで肉体を治したようだ。

 殴り迫ってきたシズゥを、才牙は再び避けて攻撃。


「言ったばかりだろ。力を振り回すのではなく、的確に使え。体の連動を意識し、力が体の中を通って相手へと殺到する感覚を掴むんだ」


 才牙のローキックとハイキックのコンビネーション。

 シズゥはまともに食らい、その場に膝を着く。しかしすぐに再建のエッセンスで治し、再び戦いを挑む。

 今度は今までと違い、持てる力を振り回すのではなく、才牙の動きを参考にした殴り方になっている。


「そうだ、そやって体の力を連動させるんだ。そうすれば、人間の限界を越える力を発揮できるシズゥに、倒せない敵はない」

「はい、です!」


 シズゥは才牙との模擬戦を通じて、徐々に力の使い方を学んでいく。

 才牙もシズゥの肉体操作を指導しつつ、力の連動だけではなく技の連動も教えていく。顔面への突きで相手の意識を上に向かせたところに、ローキックで脚を殺す。腹部に蹴りを突き刺した後に、ガードの下がった頭部を殴りつける。右腕で殴ると見せかけて、左脚で蹴る。などなど。

 シズゥは才牙に殴られ蹴られながら、その技術を少しずつ吸収していく。そして吸収した知識を応用して、シズゥが発揮できる全力に適合する形に技術を落とし込んでいく。

 そんな戦闘訓練を、シズゥが疲れ果てて座り込むまで続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] エッセンスの適合者かあ 今回適合できなかった死体も手持ちにないエッセンスだったら適合できた可能性がありますしエッセンス収集は続けていきたいですね
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