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第1話 パシリ

「やばい、やばい。自販機が予想以上に混んでて遅くなっちゃった。」


 そんな事を言いながら、廊下を全力疾走する少年がいた。彼の名前は、歩前(あゆまえ) (すすむ)。彼は小脇に2人分のパンとジュースを抱えている。それらのパンとジュースは自分で食べる分ではない。


 そう、進は絶賛パシリ中だった。昼休みになると毎回パンとジュースを買ってこさせられ、今日もこうして廊下を駆け抜けるのだ。


 やっと自分の教室に駆け込んだ進。いつものようにとある席へ向かい、腰を下ろす。


「おせぇよ、進。」

「進ちゃーん、もうお腹ぺこぺこだよー。」


 進は、そんな2人に対し、あはは...。と苦笑いを浮かべながらパンとジュースを渡す。この2人こそ、進をパシリとして使っている張本人達。


 最初に進に話しかけたのが、一ノ(いちのせ) 瑞稀(みずき)。端正な顔立ちに、いかにもな金髪、ポニーテールの出立ち。イケメンなだけあって、よく女の子の話題に上がっている。

 そして、次に進に話しかけた人物が、葉月(はつき) 悠里(ゆうり)。黒髪にショートヘアーで、中性的な美しい顔立ちをしている。もちろん彼も男女問わず大人気である。


 そして、そんなクラス内、いや、学校内でも1、2位を争うようなイケメンに目をつけられパシリになっているのが普通の冴えない男子高校生である歩前(あゆまえ) (すすむ)であった。


 2人にパンとジュースを献上した後、さて自分も昼飯にしようと持ってきたサンドイッチを取り出そうとする進。そんな進の前に瑞稀は弁当を置いた。


「進。これ、食えよな。」


 進にとって、これも日常茶飯事の出来事であった。なんとこの一ノ瀬 瑞稀というイケメンは、進をパシらせパンを買わせて食べた後、お腹がいっぱいという理由で進に自分の弁当を食べさせるのだ。弁当を作っているのは親御さんだろうし、なんて身勝手なんだと思うが、それでも進に拒否権はない。


「あ、ありがとうございます。」


 ひきつった笑顔で弁当を受け取ると、急いで食べる。その味は、絶品である。なぜこんなに美味しい弁当があるのに、自分にパシらせてパンを買うんだろうと進はいつも不思議に思う。


「お、おい。進。どうよ、弁当は。うまいか?」


 瑞稀はいつも進が弁当を食べると決まってこう問いかける。


「うん、すっごくおいしいよ。」


 進は嘘偽りなく正直な感想を述べる。その感想を聞いた瑞稀は、決まって気恥ずかしそうにそっぽを向きながら、頬をかく。


「そ、そうか。それならよかったわ...。」


 そう言うと、瑞稀は進に見えないよう顔を手で覆い、えへへへと笑う。進は瑞稀の様子に気がつくこともなく、夢中で弁当を食べている。そんな2人を無表情で見つめる、もう1人のイケメン、悠里は自分の飲んでいたジュースを進に押し付ける。


「進ちゃん。これ飲みな。」


 そう言うと、彼は飲みかけのジュースを進の口に押し当てる。悠里に対して抗うことなどできない進はされるがままにジュースを1口飲む。そのまま、悠里に回収されていくジュース。そして、悠里はまたそのジュースを何事もなかったかのように飲む。

 どちらもそうだが、特に悠里は中性的な顔立ちなので進は変に意識してしまう。いやいや、男同士だぞ。そんな風には思いながらもぼーっと悠里の方を見てしまう。


 そんな視線に気づく悠里。ニヤニヤとしながら進を見つめる。


「んー?僕の顔になんかついてるー?」


 ニヤニヤしながら、進に問いかける悠里に対してしどろもどろな返事しかできない進。


「えーあやしいなー?なんか隠してなーい?」


 ニヤニヤと笑いながら見つめられ、進は顔を真っ赤にしながら弁当を食べることしかできなかった。





 弁当を食べ終えると、昼休みが始まる。弁当を食べている時は、瑞稀、悠里、進の3人で食べているが、昼休みになったら進は1人になる。あのイケメン2人に目をつけられ、パシられているせいか誰も進に寄り付こうとしないのだ。


 おかげで学校の中に1人も友達がいない進は、昼休みになると大抵図書室に行く。暇な時間を本を読んで潰すのだ。次の時間は体育で着替えないといけないから、少し早めに教室に戻るかぁ。と考えながら本を読む。


 しかし、進は前日に夜更かししていた事を忘れていた。眠気を誘う活字と、図書室の空調が効いた心地良い空間。進は、いつの間にかぐっすりと眠っていた。

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