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転生したら継母でした  作者: ナオ・ミー
9/9

汚職断罪と第二皇子

ユリウスとの口論によって、皇妃宮の中では予算の横領疑惑へと発展した。

ユリウスの口論後、私は即座に財務部へと赴き、予算策定案と帳簿などの資料を近衛兵に押収させた。

皇妃宮の役人たちによる杜撰な予算管理の実態が明るみに出るまでさほど時間はかからなかった。


その後、私はルシール婦人とともに、全皇宮内の予算見直しを行った。過去の予算編成案も参考にするために、ルシール婦人に信頼できる官僚や貴族を紹介してもらった。多くは、皇帝派の者たちだった。

また、私は、皇后宮の財務担当官に、横領疑惑がある役人たちをリストアップするように指示を出した。


結果として、皇帝宮を除き、皇妃宮8人、皇后宮3人、第二皇妃以下の後宮6人の横領犯を検挙するという大捕物になった。

どうやら皇妃宮の役人たちは、横領額を増やすために、他の皇妃宮の同僚たちにも手口を伝授していたらしい。

私は、近衛兵団に各横領犯の邸宅を家宅捜索させた。その過程で、皇后宮や皇妃宮で購入した調度品も複数発見され、窃盗罪も追加された。


皇帝は、陣頭指揮を執ろうとしたが、私とルシール婦人の横領犯検挙のスピードに追い付けず、遺憾砲を打つだけにとどまった。

しかし、皇帝は帝国の主流新聞に対して、寵愛する皇妃宮に奸臣がはびこった原因として、人事権を持つ皇后宮の怠慢を批判した。

貴族派は、財務大臣のノーフォーク公爵を筆頭に皇后宮に抗議した。これは、貴族派が今回の横領事件に関与していないことを示すパフォーマンスであった。


しかし、皇妃宮の役人の一人が、貴族派に所属する貴族の名前を取り上げると、帝国の主流新聞の一部と、外字新聞(特に王国向けの新聞)は皇帝に対して説明を求めた。

その過程の中で、皇后である私が皇帝の寵愛を受けることができず、汚職官僚と汚職貴族の蔓延を許してしまったことが今回の事件の原因ではないかと皇帝の姿勢を批判する論調もあった。

王国の主要新聞では、これを批判する社論を展開した。また、男女平等を唱えている共和国政府からは、非難声明が届いた。


これにより、皇帝派が外交問題に発展させるとして、貴族派を沈黙させるようとした。

しかし、貴族派は南部穀倉地において王国や共和国の農産物や畜産業の材料となる品目の輸出制限をちらつかせた。

双方のにらみ合いが続く中で、皇帝は皇后である私に捜査権を委任している。このような事態になった以上、皇后宮の捜査結果を支持するとして、事態の収集を図った。

もともと、平民は貴族の問題として関心は徐々に薄れていった。貴族社会では、貴族派は南部穀倉の輸出品目制限による輸出相手国の共和国と王国の不信感を買ったとして、中立派から苦言を呈される形となった。


私は、検挙犯に対して、帝国法に基づき、横領額によって量刑を決めた。貴族は主犯で会った当主は死刑、共犯であった家臣たちは手首を切り落とし、爵位没収、平民へと降格させた。平民役人は、数十年の労役を課した。


死刑は重過ぎるかもしれないが、汚職貴族には、立件できない奴隷売買や平民暴行死の疑惑があったことで、死刑に処した。これは、貴族派が行っている(と噂されている)奴隷ビジネスを是正することに対するメッセージだ。もし、是正されていない場合は死刑にするつもりである。


私は予算案を作成する過程で、ある項目に気が付いた。

それは、魔塔への依頼料という項目である。魔塔は魔法使いたちの研究所のような場所で、通常であれば皇帝の政治的な予算案の中に研究助成金などの名目で組み込まれているはずである。そのため、宮殿管理の予算の中にあるのは、どこか異質であった。


「魔塔には何を依頼しているんだ?」


「それは……」


ルシール婦人は言葉に詰まった。彼女が連れてきた官僚たちも、険しい表情を見せる。


「ユジン殿下のための予算です」


ユジン。

ベルメールの記憶の中でも、あまり印象がないこの帝国の第二皇子だ。

先代筆頭皇妃のリリアが悪女であったことは、王国でも噂されていた。そして、彼女の一人息子ユジン・アンペラールが不吉な黒髪であるということも。

黒色の髪の毛と瞳の色が全てを不幸にするのであるならば、黒猫やカラスはずっと不幸な人生であるだろう。


ユジンは、ダリア次席皇妃の息子でる第一皇子のギャスパーの後に生まれ、皇位継承順位が下がったというだけでリリアに虐待されたのだ。


リリアは、皇帝ユリウスの愛を受けるため、ユジンを利用し、利用できなければ虐待したのである。リリアは、ダリアに抗うため、筆頭皇妃の権力を用いていた。


しかし、側室エレノアがやってきたこと、ユリウスの寵愛を受けることになったことで、筆頭皇妃になろうとしていたことで、リリアはただのお飾りの皇妃となってしまったのだ。その現実に直面し、リリアのネグレクトはさらに加速化した。


リリアは、自分自身を守ることもままならなくなった。エレノアの権勢によって、リリアと対立していたダリアは、彼女にすり寄った。誰が陛下の寵愛を受けるかで権力を持てるかが決まることを知っていたからである。

ダリアは、自身が第一皇子を産んでいたため、第二皇子さえ排除してしまえば、自身の権威は安泰だからである。皇后は、オランジェ皇女をすでに生んでおり、長兄継承が制度化されているため、性的にならなかった。


だが、ダリアはそれでも不安を覚えていた。エレノアが第三皇子を産んでしまえば、ユリウス皇帝はその子を寵愛する可能性がある。そうなれば、自身にとっても分が悪かった。

第二皇子の勢力をそぎ落とし、来たる第三皇子との戦いに備えるための権力を最大限にする。


そこでダリアは、リリアの醜聞をでっちあげ、第二皇子とともに塔に幽閉した。劣悪な環境である幽閉塔での生活は、貴族令嬢であったリリアには耐えがたいものであった。そして、リリアは死に、第二皇子は塔に幽閉されたままであった。


ダリアは、第二皇子を押さえながらも、エレノアを牽制するために、ベルメールに協力した。

初夜を迎えていないベルメールは、ダリアにとって敵にすらならなかった。彼女は、エレノアにもいい顔をしつつ、ベルメールにも協力的であるという二枚舌を使いこなしたのである。


そして、このユジン皇子は、生まれながらにして強力な魔力を持っていた。赤子の頃に、魔力が暴走し、宮殿を一つ破壊したことも公文書で記録されている。

これは事実であった。

そこで、皇室はユジン皇子の魔力を押さえるために、彼の腕に魔道具を取り付けた。魔法を使うと、その魔道具に魔力が充填される。魔道具に魔力が満たされれば、再び暴走するため、魔塔によって定期的な検査が行われる。


そして、私が今まさに手にしている第二皇子への予算案は、その魔道具の定期検査のための料金であった。


「婦人。知り合いに魔法使いはいる?」


「いいえ。魔塔には及びませんが、皇室魔法使いは常駐しておりますが」


「いいえ。第三者の目線で評価できる魔法使いが必要だ」


皇室魔法使いは、魔塔出身者が多いかもしれない。あるいはユリウスやダリアとの付き合いが長く、ユジン皇子に対して偏見を抱いているかもしれない。


それに……。


安藤隆一だったときの記憶がよみがえった。

父親を追いかける母親、それに無関心な父親。

自分にとっての親がいないというのは、ユジン皇子も私も似たようなものなのかもしれないと、同族に対する情のようなものがあった。


ベルメールの記憶では、第二皇子と会ったのは結婚式の時だけだった。

みずほらしく流行にも遅れた正装に身を包み、落ちくぼんだ瞳でどこか遠くを眺めていたユジン。

ユジンが花嫁衣裳に身を包んだベルメールに向けていた視線は、とても哀れなものを見るものであった。


まるで、狂おしいほどに愛を求めていた母親と重ねるように。


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