5-【滝崎】ある日の昼③
真理子も芹南も自分のスマホ画面をスライドさせている。私がその『世界の植物図鑑』のアプリを見せたから自分達も探しているのだ。それはそうだろう。こんな不思議な事が出来るアプリ、私だって逆の立場だったら欲しいに決まっている。
「ないねー。どこにもないね」
「私も見つからない」
どうやらアプリのダウンロードアプリからでは見つけれない代物らしい。
「コハ、ほんとにどっから落としてきたか覚えてないの?」
「うん、朝起きて気がついたらスマホに入ってて……寝ぼけてやった――――にしても、薄っすらとすら記憶がないんだよね」
「そっかー。誰かがコハの部屋に忍び込んで勝手に入れたんかね」
真理子は諦めたのか、残念そうにスマホをポケットに突っ込む。
「怖い事言わないでよ……」
「他に何か変わったものはなかったの?」
芹南も諦めたのか、スマホから視線を逸らしこちらを見つつ聞いてきた。そういえば、SNSの方に何かあったような。
「他に? ……あっ」
思い出した。
「DMで何か変なメッセージ来てたかな」
「どんな?」
「何とかゲームとかいうアカウントから、大百科がどうのとか参加者がどうのとか……なんか気味悪かったから、消してブロックしちゃったけど」
「ふーん……なんか怪しいね。それって消さない方が良かったんじゃない? ブロック解除してみたら? なんかわかるかも」
真理子は私の話を聞くと、眉をひそめて私のスマホ画面を覗き込んだ。それもそうかと思い、「うんうん」と頷きつつSNSのアプリを開く。そしてブロックしたアカウント一覧を開く。
「あ、あれ?」
今朝ブロックしたので一番上にそのアカウントが表示されるはずなのだが、あの印象深い羊の頭蓋骨のような気味の悪いアイコンが見当たらない。それどころか、画面をスライドさせていくら下に送っても見当たらないのだ。終いには一番下まで行ってしまった。
「コハ、アンタ……結構な数ブロックしてんのね……」
真理子の呆れる声が耳に入ってきた。
「い、いや、フォロワーさんが推したいいねとか回覧とか結構飛んでくるじゃん? それで趣味に合わないアカウントはもう目に入ってこないようにこっそりと……」
「まぁ、ねぇ。気持ちは分かるけどさ」
そう言いつつ真理子は私の元から離れて東屋にあるベンチに腰掛ける。芹南も立っているのが疲れたのか、同じくベンチに腰掛けた。私はというと、一人で見落としがないかブロック一覧を眺めていた。
そんな感じで一分ほど経った頃だろうか。
「あなた達、もう昼の休憩時間終わるわよ。さっさと教室に戻りなさい」
校舎の方から声が聞こえてきた。振り向くと、一人女性教師がこちらに向かって歩いてきている。宗谷先生だ。そういえば、前の休憩時間でもここで宗谷先生に見つかった。
正直私はこの先生が苦手だ。化粧も濃いし、近づくと香水の強い香りがする。その癖、生徒には化粧をするなとか香水を使うなとか少しでも反応していつもピリピリしているからだ。私は特にまだコスメ等に強い興味は持っていないので差ほど注意された事はないが、ガミガミといびられている生徒を何人も見た事がある。
「はーい。芹南、行こ。コハも行くよー」
真理子はそういい立ち上がると、そそくさとこの場を後にした。芹南もそれに続く。
「し、失礼しますっ」
そう言い私も真理子達の後を追いかけ行こうと駆け出した。そして、宗谷先生とすれ違った時。何かとてつもなく嫌な視線を感じた。なんとも言えない背筋が凍るような冷たい視線。
そんな視線を投げかける人物を振り返り見る事が出来なかった。