4-【滝崎】ある日の昼②
昼食後、私の事を怪しむ真理子と芹南を引きつれ、校舎脇にある東屋へと足を運ぶ。幸い他に人は誰も折らず、この『植物図鑑』の機能を使っても他の人に見られる事は無さそうだ。
「で、こんな所に連れて来て何すんの? 雨降りそうだしさっさと中に戻りたいんだけど」
真理子が訝しげな視線をこちらに向けている。芹南も同じく空模様が気になるのか、上空を見上げてそわそわしている。
「うん、えっとさ、見ててね。ここの地面」
そう言ってスマホを片手に屈みこむと、外側カメラを地面に向けて図鑑を開いていく。本当に二人に見せても大丈夫だろうか。こういうのって隠しておいた方がいい気もしてきた。そう思うと、最後の『発芽させる』ボタンを押すのを躊躇してしまう。
「ここに何かあんの?」
不思議そうにそう言うと、真理子も屈んで私の指差した地面をじっと見ている。芹南はその後ろから立ったまま無言で地面を見つめていた。
大丈夫だ。二人は親友だ。きっと見せても大丈夫。そう自分に言い聞かせてボタンの上に指を乗せる。
「いくよ……」
校庭で遊ぶ生徒達の騒ぎ声が響く中、私達のいる東屋周辺の空間だけが静まり返っているように感じられた。
選んでいたページは桜の花だ。前の休み時間では小さな草花で実験していたが、こんな大きな木まで出てくるのだろうかと見てみたくなったからだ。
息を呑み、指を離す。そんな私の神妙な様子に、二人も固唾を飲み私が指差した一点を見つめていた。
「で……?」
「あ、あれ?」
数秒経ったが、何も起きない。待って待って。もしかして私一人の時しか出てこないとか?
これじゃあまるで私がおかしな電波でも受信してるみたいに……。
と、焦っているその時だった。
「あ」
芹南が呟くように声を上げた。
見ると、地面から芽がメキメキと息吹き育ち始め、ものの数秒で立派な桜の木が目の前に聳え立ち、花が咲き誇ったのだ。
木の生長する勢いに圧倒され、屈んだまま尻餅をつく私と真理子。私を含め皆が咲き誇る桜を唖然と見上げている。
「な、何これ。何? マジでどうなってんの!?」
無事花が咲いてくれてよかったと思い胸を撫で下ろす反面、驚く二人にどう説明していいのやらわからなかった。自分自身も何がどうなってこうなるのかが全く理解できていないからだ。
「ほ、ほらね。彼氏じゃないでしょ?」
そんな他愛もない言葉しか出てこなかった。
そして、そんな私の言葉と共に、桜の木は一気に灰のように崩れ落ちてキラキラと消えていってしまった。