3-【滝崎】ある日の昼①
「隣のクラスの奴が見たんだってよ。ほら、あそこの老人養護と年少保育の兼用施設のー―――霧ヶ谷の里だっけ?」
「えー、マジで?」
「でも、あそこだったら在り得るかもな。昔、あそこって呪いの家って呼ばれてた建物が在ったらしいぞ。それに、二十年くらい前だったかな? その隣の家で殺人事件も起きたって話あるしよ。一家全員首斬られて殺されたらしいぜ。あの施設ってその呪いの家と殺人事件のあった家の跡地に作られたって話だぞ」
「うっそ、マジで? ……なぁ、今度行ってみるか? なんか見れるかも知れんぞ」
「えぇ……行くなら夏っしょ。……てか、俺はそう言うの苦手だし遠慮しとく……」
「ちぇー、つまんないの。女子でもつれてけばよぉ……」
四時限目が終わり、待ちに待った昼食を食べていると隣で席を囲み同じく昼食をとっているグループからそんな話が聞こえてきた。
「つまんない話してるよねー。妖怪がどうとか幽霊がどうとかさー。もっと楽しい話題ないのかね。これだから男子はさー……」
横目で隣の男子グループを冷めた顔でチラッと見つつ、小声で呟く女性徒。名は平野真理子。私と仲の良いクラスメートの一人だ。その隣にいる同じく仲のいいクラスメートの海老原芹南も「うんうん」と頷いている。
だが、私は例の図鑑の事で頭がいっぱいである。真理子の話も余所に、口にご飯を突っ込みながらその事ばかり考えていた。
あの後、あれが見間違いだったのかどうか試す為に、授業の合間の休み時間に何度か校舎脇にある東屋近くに足を運びアプリの『発芽させる』ボタンを試してみたのだ。
するとどうだろうか。やはりスマホのカメラを向けている地面に開いているページの植物が発芽し、一気に育つと花が咲くのだ。チューリップにアジサイ、バラにキキョウ。季節を問わずどんな花でも咲かす事が出来た。
最後の三時限目と四時限目の間の休み時間は一人でごそごそしているのを担任の宗谷先生に見つかり、逃げるように教室に戻ってきたのだが……。
「ねぇ、コハ、聞いてる?」
「え? うぐっ」
不意に声をかけられ、丁度口に突っ込んだミートボールが喉に痞えてしまった。慌てて咳き込み、その拍子でミートボールが弁当箱に転げ落ちる。転げ落ちたミートボールは、白ご飯の上をコロリと転がり、梅干がはまっていた赤くなった穴にすっぽりとはまった。
「おお、マーライオンホールインワン……」
芹南がその様子を見て小さくパチパチと手を叩く。
「どったのよ。きったないわね……」
真理子は少し眉をしかめつつ、再びミートボールをつまみ口に運ぶ私の方を見ている。
「んんん、ふぇつにはんでもはいよ。ふぁふぁふぁ」
「口の中処理してから喋んなさい……」
………………。
昼食後、少し三人で談笑していたのだが、真理子が不意に話を切り出してきた。
「ねぇ、そういやコハさ、今日休み時間にちょこちょこ教室出て行ってたけどどこ行ってたの? トイレにしちゃ長かったし」
「そういえばそうね」
芹南もまさしく「そういえば」という風な顔つきでこちらに視線を向ける。
休み時間といえば、私は東屋で実験していたのだ。二人に話すべきだろうか。どうなのだろうか。
もし、あの現象が私にしか見えてなくて二人には見えなかったなんて事になったら変に見られてしまうかもしれない。しかし、何度やっても同じ結果を得られたのだ。一時の幻覚ではないと思う。だがしかし……。
「ま、まさか彼氏でも出来て会いに……!?」
離すべきか迷いつつ、答えれずにモゴモゴしていると、真理子がハッとした顔でこちらに目を向けた。芹南もその言葉に反応しシュッと顔をこちらに向けると「そうなの?」と問いかけてきた。
「い、いや、そう言うんじゃなくて……っ」
慌てて手を前で横に振って取り繕う私を見る二人の目は、まるで変質者でも見るような目だ。ここでこの慌て用での返事で妙な勘違いをされても困る。
「じゃあなんなのよ。コソコソ一人で。やっぱ男なんじゃないの?」
二人の視線が痛い。
仕方が無い。あらぬ疑いを晴らす為にも、私は例の図鑑の事を二人に話す事にした。