三途の荒野のオープンカー
見渡すばかりの荒野を車で走る。
何かの映画のワンシーンのようなこの光景にひどく胸が高鳴った。
「どうせならオープンカーにすればよかったのに」
高鳴った胸を悟られないように、僕はふてくされたように呟いた。
「ははは、ではそうしましょうか」
気付くと隣の座席にはスーツを着た僕自身が座っていた。車の屋根は取り払われキツイ日差しが僕を容赦なく照らしていた。
「君は?」
「わたくしは……そうですね、案内人とでも言いましょうか」
スーツを着た僕、案内人はそういうとおどけたようにハンドルも握っていますし、と付け加えた。まぁたしかにこの車を運転しているのが彼ならば、彼は案内人なのだろう。
「この車は減速も加速も致しません。来た道を戻ることも致しません」
「辿り着く先は?」
「それは貴方様が決める事です」
意味がわからない、と思ったが何故だか全てがどうでも良くなっていた。夢の中にいるようにうまく思考が働かない。案内人はそれきり何を聞いても答えなくなってしまった。この殺風景な道をずっと行くのは退屈しそうだ。眠りたいがこの日差しではそうもいきそうにない。
「あっ」
遠くに看板が立っているのが見えた。道は相変わらず一本だが、広告看板のようなソレには生まれたばかりの僕と両親の写真が大きく張られていた。
道は進む。
幼少期の写真が看板でどんどん流れていく。看板の僕はどんどん大人になっていく。それにつれ、看板の数も増えていき、とうとうすべてを把握する事が難しくなっていた。
「なぁ、もう少しゆっくり走れないのか?」
「それは出来ません。時間とは平等に過ぎ去る物なので」
看板はどんどん今の僕へと近付いて……
「分かれ道です。どちらに進むかは、貴方様が決める事です」
車は二つの分かれ道で停止した。真ん中には大きな看板。そこには今の僕、らしきものが張られていた。病院のベッドの上でたくさんの管に繋がれている。
そうだ、僕は車の運転中に土砂崩れに会って……
「……死ぬんですかね、僕」
「行き先を決めるのは貴方様です。
……見ての通り、現実での肉体はこのような状況です。後遺症もあるかもしれません。ですが、貴方様にその意思があるのならば、生き返ることも可能です。もちろん、その逆も」
この分かれ道は、つまり生と死どちらにするか、という事だろう。今までの道はいわば走馬灯のようなものだったのかもしれない。
「死ぬときって全員この道を進むんですか?」
「まさか。人によって違いますよ。川だったり映画館、博物館や森……そうそう、猫の人もいましたね。それに、本来は分かれ道などありませんから」
今まで来た道を想う。
目が追い付かないものもあったが、確かに今まで生きてきた道だった。
「……決めました。案内、よろしくお願いします」
「……かしこまりました。
この車は減速も加速も致しません。来た道を戻ることも致しません。それでは、ごゆっくりお寛ぎください」
いつの間にか真上の太陽は傾き地平線に沈もうとしていた。見渡す限りの荒野に走るオープンカー。まるで映画だ、そう思いながら僕は静かに目を閉じた。
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