戦闘後始末
「我々は、地竜出現の報を受けて出撃した!」
チナツとお嬢が戻ってくるのを待っていると兵隊の指揮官が声を掛けてきた。
疲れを見せずに元気なこってと思ったが、こいつ特に動いてねえしな。言うだけならタダだよな。
後ろで疲れた表情を見せてる奴と、不満そうに俺を睨む顔があるし練度は不十分だったっぽいな。仲間割れしてんじゃねえか。
思ったより長く話をされたが、長い言い分を纏めると、
・戦いの最中に割り込んできたので手柄は我々にある
・むしろ栄光あるトドメを奪った事を謝罪してほしい
・地竜の素材はすべて我々の物である
・君たちの責任で兵隊が死んだ気がするので死者の家族へ払う金を負担しろ
くらいか?まだ、なんか言ってた気がするんだが思い出せねえわ。
大体なんでお偉いさんは話を長くしたがるのかわかんねえわ。お嬢を見習ってほしいぜ。
結構な寡黙だが必要な事は言ってくれるんだぜ?
「マーナガルム、よくやってくれましたね」
戻ってきて早々からお嬢からのお褒めの言葉を貰う。褒めるってのは俺の手柄を主張するのと兵隊達への牽制の為だろう。膝を着いて敬ってたら頭撫でられたんだが、汚れてるから後にしてくんねえかな。
でもまあ、俺はちゃんと名乗りをあげたのに、聞いてなかったお前らが悪いからな。
戻ってきたお嬢に言われた事をおおよそに伝えると、お嬢は少し表情を変えて、すぐに戻したな?
穏やかさを意識した声で指揮官に話しかけだす。地竜の亡骸の分配方法について思う所があるらしい。
顔を青くする指揮官を見ながら戦闘のせいで昂った気持ちが少し落ち着いていくのを感じた。
話はお偉いさん同士に任せて、俺は地竜の亡骸に向かう。
他の連中はお嬢の護衛に残るらしいし、あそこにいる連中なら俺がいなくても対応できるだろ。
ひとまずは亡骸に群がる兵隊達を追い払い、回収するべきものを回収する。
話は決まっていないため形だけでも俺を止めようとするが俺の強さを兵隊は間近で見ているわけで、少し睨むとすぐに退いてくれた。
飛び散った鱗、ほとんど割れてて使い物になりそうにねぇな。盾や鱗鎧の補強に使えるかと思ったんだが、残念だ。とはいえ身体にはまだまだ結構残ってるわけで、それなりに数は揃えられそうか。
試しに鱗の破片を持ってみるが、脆くなってるな。綺麗な1枚と比べたら天と地の差がある。
流れ落ちる竜血、大半が既に大地に染み込んでやがる。体内に残った分だけでも回収しておくか。
お、そこの兵隊、いい所に樽持ってきてくれたじゃねえか、ソレ貸してくれよ。
なかに竜血入れるのまでやってくれるのか、助かるぜ。
竜血は錬金術の薬として使われている。ただ、確保する為に竜種を倒し、保存するなんて事は滅多にできる事ではない。その為か、かなり貴重な素材で、値が張る、ってのを聞いた事がある。
切断された尾、兵隊が尻尾を運ぼうと荷車を用意しているがどうにもうまく乗っていない。
数人掛かりでも重くて運べてねえらしいな。確かに斬った手応えから結構な重さを感じたもんだが…
仕方ないので尾の先を持って運ぶのを手伝ってやる。俺1人じゃ確かに運べなかったな。思った以上に重心が偏りまくってきつかった。
竜種の尾は鱗が一面にあるくらいで他は特徴がない。針があったり尾の先が剣や槍みたいになっている個体もいるみたいだが、こいつはそうでもないな。まあ、そんなもんがあれば戦いにくくなってたし、俺としちゃ無い方が助かるんだが。
刺した剣と槍、折れてるが切り詰めれば再利用できるか?
竜には俺が刺したが兵隊共の剣も使ったからなぁ。
死体とはいえ彼らのものを無断で使ったことになる。軍が武器を配布してるとなれば回収されちまうか?
最初に死んでた死体が持ってた槍はまあ俺のだと主張すりゃいいけどよ。ごねられたらめんどくせぇな。
どちらにせよ、質のことを考えればその辺にある普通の武器だしな。竜殺しに一役買ってるからそこを宣伝すりゃ高く売れるかもしれねぇし、魔力の影響を受けて変化してるかもしれねぇし。
武器ってのは普通に鍛治技術によって作られるのが大半ではあるが、生産過程や素材、そしてその後の経験で変化する。
生産前か途中か後か、いずれにせよ魔道士が加工した武器は、均一的で優れた効果を出すわけではない。
武器が持つ本来の性質を少し上げたり、あるいは後天的に属性に偏りを与えたりするくらいだ。
前者の武器が斬れ味を強化した俺の剣であり、後者に近いのがチナツの自己支援によって強化された彼女の剣だ。あくまで近いだけで時間がくるか魔力が尽きれば解除されるけどな。
それとは別に天然の、戦いで育った武器は結構強い効果を持つことが多い。
例えば、特定の敵に対して有効的であったり、材質が変化していったりする。
魔力を多く含んだ素材を使えば出来た時からそういった成長や変化する効果を持つ武器もある。
俺の所持武器の中にもそういうのはいくつかある。というよりは大半がそういった武器だ。
俺もそれなりに修羅場は潜ったしな。成長や鹵獲なんかは結構経験してるんだぜ。
ま、所詮は人を殺す武器だから大したもんはねえんだけどな。
普通の剣よりは多いが、それだって安全かつ効率よく殺すためのものでしかねえし。
武器は数と質で変容の有無が決まると聞いているが、その点で言えばこの地竜は質がいい。
もしかしたら、と思って槍を振ってみたが特に変化はねえな。ま、素振りで分かるようなもんだけじゃねえしな。
専門じゃねえからこれ以上は分からねえし、街の魔導士か鍛冶師か、どっちかに聞けば分かるだろ。
剣は、まだ俺の物になるわけでもねえし、放っておいていいか。兵隊共も地面に落ちてる武器と間違えないように分別してるみてえだしよ。
「マーナガルム、話は着きました。行きますよ」
お嬢から声を掛けられ適当な見分を終わらせる。
隊長さんが顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけているところを見るに、話し合いはまあお嬢が勝った感じか。
鱗も剣も血も槍も何もかも、地竜の亡骸は俺達の物になったらしい。
ただ、それでは兵を出した挙句に死人まで出したのに成果無しでは申し訳ない。
という事で地竜殺しの名誉と大地に飛び散った砕けた鱗くらいは相手に譲歩したらしい。譲歩か、それ?
それとは別に運搬を手伝う事で俺達の取り分から鱗を何枚かと血をいくつか提供することになった。
俺は別に構わねえし、俺がいいならお嬢もチナツもいいらしいのでそこは頷いてやる。
お嬢は亡骸一つ売れば城が建つ、とは言えないが、館くらいは建ちそうな額になると予想してた。
そして主に戦ったのは俺とチナツなので遠慮なく貰ってください、との事だ。
まあ、素体から武器防具を使う分だけ作らせて残った金を全員で分けりゃいいんじゃねえかな。
俺は別にそこまで金に困ってるわけじゃねえし、チナツも金銭欲が高いわけでもないらしいよ。
俺含めてもお嬢の護衛は5人しかいねえ。鱗鎧作って盾を1つ2つ作って終わりだろ。
下手な剣や普通の木の矢くらいは弾けるみたいだしな。護りには向くが武器には向かんだろ。
残りを売り払って残りはどうすっかね、新しい人員とか勝手に雇っていいもんかね?
運搬は全部やってくれるらしいんで、俺達は馬に乗って教導院に向かう。
ちょいちょい早めに出てた余裕は地竜との闘いで使い果たしたしな。
鱗をくすねたらどうなるか分かってるよな?と軽く脅しをかけて街道を走らせる。
教導院に入れば安全、とは言えねえが街道より安全な事は確かだろ。
追い付かれてもめんどくせえしさっさと行くに限る。
そして、それ以降は特に何かあるわけでもなく、俺達は無事に教導院に辿り着いたのだった。