地竜との闘い
ポケモン楽しい
「俺とチナツで防衛!他はお嬢守りながら撤退!」
馬から飛び降りながら叫ぶように指示を出す。最悪だ、よりにもよって竜種を引き当てるとは。
繁殖の時期ではねえし、身体の鱗の幾つかは剥がれているのを見るに、さては縄張り争いで負けて追い出されたな?
右半身についた大きな爪傷と尻尾の付け根に噛み傷、そして全身にある浅い傷、その辺りが隙だな。
飛べねえのにある翼も傷はねえが多分斬れそうだが、無理に狙う意味は薄い、か?
隙があるとすればそれくらいか、俺の手持ちの武器じゃ竜の鱗を貫けるのは10ある内の2つしかねえ。だが、鱗の無い肉や壊れかけた鱗程度なら6種の武器で戦える。
人を斬るのに鋼以上はいらねえから、あんま持ってきてねえと思ったが意外とあるじゃねえか。流石俺。
飛び降りた馬が踵を返して村に戻る道を進むのを見る。さて、撃破に至らずとも撃退できりゃ楽なんだが…
チナツ以外もそっちに着いてるな?デカいとはいえ強い相手とのと戦いだ。下手に巻き込むよりは少人数の方が戦いやすくて安全だろ。
「おい、ガルム、何か策はあるのか?」
「安心しとけ、奴の鱗を貫ける武器は2つあるし、鱗が剥がれている所は誰でも当てりゃ痛がる」
「つまり、手当たり次第に攻撃をするだけと、やれやれ」
馬から降りたチナツが腰に差していた片刃の剣を抜きながら聞くのに反す。
俺は羽織っているマントから魔術加工された片手剣を引き出す。魔術加工と言っても大したことはなく、斬れ味が落ちにくいくらいしか特徴はねえんだけどよ。
あとは…盾はあった所で邪魔なだけか、いらねえな。
他の武器は、今は温存すべきか。少なくとも鋼程度の剣じゃ効かねぇだろうし。
「なんだ、そのマント!?」
「色々出来るマントだよ、後で教えてやるよ」
これこそ俺の愛用マント、武器防具に限り10個まで収納出来る不思議なマントだぜ。
裏は矢避けの加護付きで、仲間だった魔女が国に帰るってんで譲り受けた逸品さ。
時間経過で所有者のもとに帰ってくる機能があるから盗難対策も抜群の優れモノなんだぜ?
チナツの武器にチラりと目を向けるが、あれじゃあ鱗は貫けねえな。
チナツのは鋼を鍛えた程度のそこそこ質が良いだけの武器だからな。
魔術加工もされてねえし、精霊の加護もねえ。
そう思う俺の前でチナツの全身─武器も含めて─光輝く。
自己│支援してんのか。どれくらいなもんかね?
「おい、それで鱗抜けそうか?」
「分からないわ、この状態なら鋼断ちくらいなら出来るけど」
「じゃあ無理だな。タイミング合わせて突っ込むぞ。適当に傷を与えて様子を見る」
「了解ッ!」
地竜は道を塞ぐ俺達が武器を構えたのが分かったのか、こちらを向くと、ただ大きく喉を震わせ叫ぶ。
「グガァァァァァァァァ!!」
「はっ、大層な衝撃じゃねえか!」
音だけで地面が抉れてやがるじゃねえの。戦いの素人ならこれで逃げるだろうし気が弱い奴は心臓止まるんじゃねえの?俺は平気だけどな!
目に見える空気の歪みを避けながら地竜の元へ走り出す。
いいねぇ、チナツ。俺が走ったのを見て走り出してるぜ!その追従がいい!
「先駆け一発!とりあえず喰らいな!」
地竜の胸元に飛び込むと鱗が削れている傷跡に連続で3度、斬り付ける。
成果を確認せずに地竜が後ろに下がる気配を感じると、全力で後ろに飛び抜く。
そして先ほどまで俺がいたところを爪が通る。
「はっはっー!すっとろいぜ!」
右前脚の一撃を俺が退いて躱すと同時にチナツが右半身に鋭い一撃を入れる。
「グガァァァァァァァァ!!!」
おお、効いてる効いてる。鱗剥がれてりゃただ硬いだけの肉塊だな。
身動ぎをして体勢を変えようとする地竜を横目に、
俺は直進、左半身の大きな傷は無いが何枚かあるヒビが入った鱗を斬りながら前方に移動する。
鱗を割らず、ヒビの上から叩きつける感じに、運がよけりゃこれで剥がれて斬りやすくなるんだが、
まあそううまくはいかねえか。
俺の方は意に返さず、チナツへの反撃を狙い続ける地竜。
そんじゃまあ、もう1回胸元を抉るとしますかね!
とりあえず俺とチナツで交互に注目集めて片方が傷を増やす感じで行くか。
さて、思ったよりチナツが動けてるからか結構な量出血してるのは見えるんだが、流石は竜だな。まだまだ弱る気配が見えねぇわ。
まあ、苛立ちからか動きは雑に、力強さは上がってんだけどよ。素早く動くわけではないしまだ見切れるな。
どっちにしろ直撃受けたらお陀仏なんで変わりねぇけどよ。
チナツと共に左に重点を起きながら左右正面と交互に攻撃を仕掛ける。
危険を感じたら離脱、たとえ攻撃でなくても安全確保は大事だ。
そして隙を見つけて、斬る。なに、隙が無くても痛みは隙を生む。
だんだん鱗が剥がれてきて斬りやすくなったじゃねえか、なあ?
道を駆け回り、地竜の周りをつかず離れず保ち続ける。
うまくいなしてダメージを与えてんだが、2人だと限界があるな…
そう思いながらちょうど足元にあった死体(上下に別れて2つになっている)の手から長槍を取る。
普通の鉄か…まあ槍ってんなら使い捨てで刺すくらいは出来るか。
チナツが攻撃を避けたのを見て接近すると槍を刺し込む。
あとはざっくばらんに斬り付けて、はい撤退!
ただの鉄とはいえ刺さったままの槍は苛立つだろうな。
気になるだろうし、周辺を痛めつけられりゃそこそこに効く。
俺もトゲが指に刺さった時は抜けるまで集中できなかったもんだ。
深く刺せれば臓腑に届く致命傷になるかもしれねぇが、柄の部分は暴れ回る内に折れちまったみたいだ。
「そこの君たち!離れろ!!」
何度目か分からぬ程に斬りつけていると、突如、知らぬ誰かの警告が飛ぶ。
知らない奴が指示に従って損はねぇだろうな。だって声出した奴は後ろに弓兵を何人も控えさせてんだしよ。
俺とチナツが離れたのを見るや否や、先頭の男が手を大きく振る。
すると矢が一斉に放たれ、地竜へと降り注ぐ。
矢雨が晴れると同時に乗馬している何人かと走っている何人かが突っ込んでいる。
地竜は反転し、人の群れを迎え撃つ。
教導院の方から来た兵隊か?数も上々で統率もそこそこ取れてるのは良いんだが、下手に巻き込まれるとあぶねぇし、今は離れて休んでおくか。
「チナツ、まだ闘えるか?」
「ああ、私はまだ平気だが、彼らは誰だ?」
「知らねぇよ。適当に盾にしつつ必要なら手を出すだけだ」
「協力はしなくていいのか?」
「勝算あって挑んでんだろ。手柄を奪うほど暇じゃねぇよ」
息を整え、何時でも出れる用意をしながら話を続ける。
アイツらは勝てると、栄光があると踏んで出てきたんだろう。
例えそれが死に至る道だとしても、だ。
他人が賭けた命になぜ俺が乗らなきゃならねえ?俺の命は俺の物で使い道も俺が決める。
練度は確かに充分に高いのだろう。死地に赴く覚悟も、強者に挑む勇気もある。武装は微妙だが、傷ついた身体と合わせればとんとんだ。
─それでも、どれだけ死力を尽くしても彼らの内の1割は死ぬだろう。
竜とはそういうモノだ。数ではどうにもならぬ強さの壁がそこにある。
だから、俺達が出来るのは彼らが早い内に諦めるか、あるいは絶好の機が訪れるか、どちらかを待つしかできない。奴らが勝った時の事は勝った時に考えりゃいい。そんな事よりはいずれ来る可能性のある俺達の出番の為に、休み、武器を変えるくらいしかねえ。片手剣から両片手剣に切り替える。
こいつは魔術加工されていねえが、鉱石ではなく怪物の素体から作ったからか、斬るという刃物の能力が強化されている。
結論とすれば、彼らの諦めと隙は同時に訪れた。
「ダメだ…撤退だ!一時撤退!」
指揮官が叫び、指示が伝達され、軍が撤退をしていく。
そして地竜は後を追い、阻止する為に殿の生存を無視した矢雨が降り注ぐ。
竜に矢など鱗が無くともめくらまし程度にしかならない。
だが、それで俺には十二分だ。
「チナツ、そこで待っとけ。俺が1人で行く」
俺は矢には当たらねえマントがあってなぁ!おまけにデカい図体が盾になるから殆ど飛んでこねえわ。
速く、静かに、後部に近づく。狙いは大きく傷付いた尻尾の付け根。
気が付かれてねえし、鮮やかに斬り落としてやるよ!
「グギャァァァッ!!?」
「はっはー!うるせえぞトカゲ擬きが!そのまま解体してやるよ!」
戦闘中に俺達の存在を忘れたてめえが悪い。俺の一撃は鋭く尻と尾っぽを斬りわけた。
矢雨はまだ降り注ぐが地竜はもうそれどころじゃねえな?
そんじゃまあ、今更出来た傷口を広げてやるとしますかね!
マントからただの片手剣を取り出し空いた片手に装備する。別に鱗剥がすわけでもねえし鋼でいいだろ。
利き腕じゃねえが肉を抉るくらいなら問題なしと。
痛みと衝撃からかのたうち回る地竜の手足を避けながらひたすら傷口を開く。
手足が潰す兵隊達の死肉と地竜から零れ出る血が地面の上で混ざり合い、泥のようになっていく。溢れ出る血の匂いで酔いそうなくらいだぜ。
まあ、斬るのに夢中で足をとられて死にました。なんて間抜けな死に方をする気はねえ。
兵隊も撤退して矢雨が止んでるし場所を変えるとするかね。
おっと、その前に、いい感じの折れた剣を傷口にプレゼントしてやる!大事に刺しとけ!
目が血走り、見えているかどうか怪しい状態でも地竜は俺を睨み続ける。
かなり頭に血がのぼってるらしい。そのまま失血死してくんねえかな。
バランスが取れねえのか左脚を引きずりながらそれでもこちらに手痛い一撃を入れん攻めよってくる。
無論、その隙はそのままチナツからの攻撃を誘発するんだけどな。
俺が付け根を痛めつけている間にチナツもそっと近付いて待ち構えていたんだよ。
左半身に残る傷跡に数発叩きこむとまた距離を取るチナツ。
反転して今度は俺が距離を取り、翼膜を斬りとばす。
のたうち回っていたから、大分傷ついてたからな。俺が綺麗に手入れしといてやるぜ。
「ガァッ!!」
短く悲鳴を出しながら俺の方に向けた顔を、狙って眼球に片手剣を突き刺す。
大分血が溜まってたのか刃と眼の隙間から目汁以外に血が噴き出す。
それがトドメとなったのか、悲鳴すら上げずに地竜はドサリと崩れ落ちる。
しばらく手足は痙攣をしていたが、次第に弱まり、目から光が失われていく。
ようやくくたばってくれたか。
「我が名はマーナガルム!ヴィンセント王国第3王女─ソール・キャサリン・ヴィンセント様より雇われた傭兵であり、この竜の首級をあげたものである!!」
倒れた地竜を見て、こちらへ駆け寄ってくる兵隊達に名乗りをあげる。
お嬢の名前を出す事で牽制をしつつ俺が倒したと明言する。ハイエナの如くしてもいない手柄を主張されるとめんどくせえしな。
チナツに声を掛け、お嬢たちを呼んでくるよう伝える。別に見えなくなるほど離れていたわけでもなく、
すぐにお嬢も駆け寄ってくるのだった。
後半はモンハンしながら書いた