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準備と説明

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 夜間、お嬢が俺に抱き着くという|大変な事故≪嬉しい事≫が何回かあったが、それ以外は何事もなく終わった。

惜しいが、間違いがあってからでは遅いので静かに引きはがすんだが、気が付くとまた抱き着かれるんだよな。寝相悪いのか?それともまだ甘えたい年頃か?俺と同い年だけどよ。

始めの方はベッドに腰かけたチナツから睨まれたり舌打ちが聞こえたが、夜更けの方には諦めの眼で見られていた。おい、諦めんなよ。雇い主を守ってやれ。


それはそれとして堪能しつつも、浅い眠りの中で警戒していたが連日の襲撃とはいかなかったらしい。人員不足なら、継承権が上の王子より下の王子の方が、らしいが。まあ、その辺の判断は俺が口を挟む問題じゃねえんだろうな。


朝日が昇り出すとメイド達の大部分も起き出し、朝食の準備を始める。

チナツも欠伸をしながら部屋に戻り─多分これから寝るのだろう─レイチェルと交代をする。

少し緊張した様子のレイチェルだが、慣れれば緊張も解けるだろう。気が緩みまくってたら注意はするが

多少の緊張はあった方がいいしな。


──────────────────────────────────────────


お嬢の護衛を任せつつ素振りをして身体と武器の調子を確かめる。

日によって体調が違うのは当然で、その日出来ることを把握することが大切なんだよな。


さて、大陸中央に向かうとのことだが旅の準備はお嬢筆頭にメイド達や執事長がどうにかするだろう。

なら俺たちがするべきは道中の安全確保となる。街道沿いの怪物モンスター情報や盗賊の有無など、あるいは最後の機会とばかりに襲撃されるかもしれねぇ。色々手に付けないと困るな。

幸いかどうかは知らないがこの国─ヴィンセント王国─は大陸では北東部に位置し、大陸中央学校には馬車を使っても1週間程度で着く近場だ。これが馬だけなら3日もありゃ行けると思うんだが、3年住むなら色々運ばんとまずいしな。


調整と思考の整理を整えると、これからの事を考えてゼータを呼ぶ。斥候、と言えるほど偉いことではないが、先行調査と中央から来た隊商や冒険者から話を聞いてきて貰おう。経費は持ってくれるだろうしな。それで出なかったら俺の財布から出して後で補填して貰うか。色々金回りは優遇が効くようだしな。


「ゼータ、金なら出すから冒険者ギルドと傭兵ギルド言って中央方面の情報収集頼む」

「はい!任せてください!!」

見掛けたゼータに声を掛け、幾らか金貨─お嬢にまだ話を通していないので俺の財布から─を放っておく。話聞くだけならともかく斥候に出るなら前衛出来る奴もう1人いた方がいいんだが…

チナツは寝ててレイチェルが護衛中、そんでもって

「おう、いたな。アタイと訓練しようぜ」

エルボスはこの通り、殴り合いがしたくて堪らないみたいだからな。

俺の身体慣らしに触発されたのか自分で動いていたものの刺激が足りずに絡んできたようだ。

帰ってきたらゼータに短剣の手解きだけしてやるか…。


──────────────────────────────────────────


 「ハッハーー!楽しいなオイ!」

飛んでくる一撃を端から迎撃されてるのに大分楽しそうに笑うこと。

さっきから軽くあしらってんだが、それが逆に火がついて止まんねえ感じか?

適当に転ばしたり武器を弾いたくらいじゃ終わらねえとばかりに突っ込んできやがる。

かと言って大怪我させるわけにはいかねえしなぁ…。


「いい加減飽きて来たんだが、まだやるのか?」

「当然、アタイが勝つまでやってもらうよ!強い奴が群れのボスだろ!?」

これだけ強くても力量差が分かってねえだけか。じゃあ軽く心を折ればしばらくは静かになるかぁ?

群れのボスがどうこうも、俺は指揮官なんざ他人に任せて突貫する方が性に合ってんだけどな。 

近接型はおとなしく使われてる方がいいだろ。


「ちぃと、真面目に一撃叩きこむ。力量差を把握してこい」

「やれるもんならやってみな!人間風情が力勝負で勝てると思うのかい!?」

剣圧で砂埃が舞い上がり間合いの範囲に入れば当たり所が悪ければ訓練用の木剣だろうと死ぬだろう。

そんな感覚を抱かせる獣のような連続した素振り。

その状態を維持したまま、俺に一撃当てようというのか、近づいてくる。

先ほどまでは線での攻撃に対してカウンターを叩きこんでいたからだろう。

近付く隙間を無くしてぶつければいいという発想に至ったんだな。

スっと振り回される剣の隙間に俺の剣を入れ、剣と剣がぶつかった感覚に合わせて手首を捻る。


チナツはこの技を武器を奪う事に使用していたが、─実際そちらの方が便利だ─

実力の差を見せつけるのには不適切だ。力こそすべてと考えるような戦闘集団に技を見せていた俺が悪かった。

見せるべきは相手をねじ伏せる圧倒的な力だったんだな。

「なっ!?」

鈍い音と共に奴の武器がへし折れる。技ではなく力で剣を絡め、より強い力を加えるだけで簡単に壊れる。材質によるが、まあ訓練用なら壊さないように扱う方が俺からしたら難しいしな。

「ちょいと、気絶してろよ」

武器ではなく素手、握り拳でエルボスの正拳を繰り出す、振りをする。

顔を守ろうと反射的に下から上がっていく腕を狙い、腕ごと鳩尾に膝を入れる。


 気絶したエルボスを運びその辺を歩いていたメイドに声を掛ける。

「こいつ、そのうち目が覚めると思うからその辺に寝かしとけ」

館の中なら清潔だし、地面に直で寝てるよりマシだろ。


──────────────────────────────────────────


 「おい、マーナガルム…長いな、ガルムでいいか?」

お嬢に誘われてリビングのテーブルで昼飯を食っているとチナツが声を掛けられる。

「別にいいぜ、稀人連中は大体その名で呼んできてたからな」

名前に拘りがあるわけでもねえが、どいつもこいつも略して呼ぶもんだから慣れちまったよ。

「で、なんか用か?」

「いや、お前が元の世界に戻る方法を教えると言ったのにいつまで経っても教えに来ないから気になって聞きに来ただけだ」

ん?そういや伝え忘れてたか?やっぱ何かに熱中すると別の事って忘れちまうよな。

「後、色々聞きたい事がある。何分稀人でこっちについて常識が疎くてな、仕事もあるし補完したい」

「あー、じゃあ適当に語るから飯食いながら聞いてけや、まだだろ?」

「ああ、先ほど起きたばかりだからな。ありがたく食べながら聞かせて貰おう」

そこでちょっと興味ありそうな顔で聞いてるお嬢にも適当に知ってる事を語るとするか。


──────────────────────────────────────────


「まず、世界を渡る方法についてはその紙に書いてある通りだ」

乱れ箱の中に突っ込んで保管していた紙を取ってきて渡す。

「こっちの住人には読めねぇんだろ、そのニホン語ってやつ」

魔女が書き残した1枚の紙。ニホン語で書かれており隅には2本足で立つ謎の獣が描かれている。見せれば分かるということだが…

「これは、ああ、たぬきか。確かに日本人にしか分からんな」

やっぱ分かる奴は分かるんだな。気難しい顔をしながら読み込んでいる。

「内容を覚えるか紙に書くかしていってくれよ。オリジナルはそれしかねぇから」

オリジナルは燃えず濡れず破れず失わずのこれでもかといわんばかりに呪いが掛かってるから渡したくねぇんだよな。


──────────────────────────────────────────



この星─星という概念自体この世界の住民には希薄らしい─の名前はチキュウ、と言う。なんでも遠い昔の天文学を修めた稀人がそうだと結論つけている。どういった原理かは知らないが複数ある内の世界のひとつに過ぎない。ただ、近隣にあるその他大勢の世界や、過去未来から稀人として世界の壁を超えやすい環境にある世界、なんだそうだ。

さて、この星の内、大陸と呼ばれるのは6つしかない。

大陸間の交流はかなり控えめで大人しいものだ。

海も空も地下も怪物モンスターや天候に襲われて命を落とすものが絶えず、それを乗り越えた先で得られる物もまた、少ないのだ。



今俺たちがいる大陸は名前など無いが、6つの大陸の中では2番目に大きい。中央を制圧し学校に変えた大陸中央中立教導院、北に俺たちがいるヴィンセント王国を始めとすヒト主体の国々、そして亜人や獣人など、人ならざる人の国々の集まりであるヒト独立連邦議会。東に数多の小国郡とそれらを併合せんとするツグニア帝国。南には大陸一の宗教を唱う教会が立ち上げた聖ハイソル教国と流れ者達が集って出来た国とも呼べぬ集合体。

北の方は大雑把に魔導師達が立ち上げた魔道国と商人達が立ち上げた自由商国なるものがある。

全部は知らんがあちこちを旅して大分稼がせて貰ったんで、俺は他と比べりゃ知識がある方だろう。

「大体、この大陸の話はこんなもんか?後はそうだな、領域の話だな」

長々と語ったせいか、喉が渇いた。卓上の水を飲みながらチラりと目を向ける。

知った話であれば既に聞き流す状態になっている所、食べ終わっても真面目に聞いているあたり、ちゃんと語った方がいいだろう。そのまま言葉を続けていくか。



 領域ってのは要は人類の手の届かぬ場所の事を指す。各地に点在しており、今だなお単純に魔物の巣や迷宮ダンジョンなどの簡易領域や、強大な獣や怪物モンスターの縄張りとなっている危険領域、詳細不明な場合が多い死の領域なんてのがある。

危険領域はまあまだある程度の実力者なら突破できるし、時折軍隊で囲んで消し去ったりしているが、

死の領域は最高クラスの実力を持ち、勇者や魔王を自称し、その名乗りを許されている実力者や名を持つ竜種でもあっさりと姿を消す。半面、幸運に満ちている赤子や未熟な新人が九死に一生を得て生還を果たしたりする。

危険領域以下は生えては消える程の存在だが、死の危険域は数える程─少なくとも内部情報が確認されているのは4つ─しか存在しない。


それは、神出鬼没の土地。大陸をも超えて血で繁栄を続ける意思持つ『放浪する大森林』

それは、尽きる事なき蟲の群れ。1を2に変え続け増える無尽蔵の群体住まう『紅き砂漠』

それは、日の登らぬ常夜の世界。水面に映らぬ月を掲げる不死者アンデット達を鍛える『英雄墓地』

それは、酸性粘生物スライムただ1個体が住まう水辺の王国『死毒の海辺』


他にもあるはずだが、生還者、情報が無ければそれは無いも同じだ。

不幸にもそれに踏み入れたなら幸運を祈るしかない。あると分かっている場所には近付くな。

この大陸では人類であっても怪物モンスターであっても変わらない守らなきゃいけないルールだ。


 まあ、脅すような言い方をしたが、気を付ければ済む程度でしかない。

大陸中立中央教導院までの道のりにそんな死の領域は確認されてねえしな。

程ほどに聞いとけよと、呼吸を忘れたチナツの肩を叩く。




さーて、思ったより話すのに時間喰ったしお嬢のところに行って必要経費の話をしとかねえとな。タダ働きはゴメンだし、仕事で使った金は回収して黒字にしねぇと。

矛盾が発生したら未来の俺が何とかする

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