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戦いは続く、事後処理も

 「残っているのは私だけか。では行くぞ!」

「っと、ちょっと待って。聞きたい事がある」

周りを見渡して自分が最後だと分かった稀人の姉ちゃんが突っ込んでくる前に声を掛ける。

これだけは確認しなきゃならねえ。

「むぅ、なんだ?私だけ何かあるのか?」

「ああ、あんたニホンの出身か?」

「そうだが、知っているのか?もしや同郷か?転生者か?」

俺ではなく、昔パーティーを組んでいた魔女。

そいつは異世界転移者で、今はいない。

「元の世界に帰りたいか?帰る手段も方法もあるぞ」

そいつは、元の世界に帰ったのだ。


 異世界転移、もしくは異世界転生者。この世界にはどちらも頻繁に訪れ、両者をまとめて稀人と呼ぶ。

転移者は事故か、召喚か、│神々の恩恵≪暇潰し≫か何かしらの偶然により世界の垣根を肉体ごと超えた者。

転生者は逆に魂だけが世界の垣根や時間を超えた者である。

転生者は唐突に記憶を取り戻す者、生まれた時から自覚していた者、

記憶も大部分を覚えている者や、知識だけを覚えている者など、多岐にわたる。

大体が、どちらであっても一般的なこの世界の住人と比べて何事においても強くなりやすい。

基礎性能スペックが高いのか、どんな分野であれ成功者の内の幾人かは転移者か転生者かが混じっている事が多い。

転生者は生まれた時から肉体がこの地に根付いている為、帰りたいという気持ちは薄いらしいが。

転移者は戻りたいと願う者も少なくないらしい。

かつての魔女のように、帰る事を目指してこの世界を生き抜いているのなら、その方法はあるのだと伝える。



 暫く葛藤の表情を浮かべた後に稀人は答える。

「いいや、大丈夫だ。未練も後悔もあるが、今は帰る気にならない」

「そうか、後で教えてやるから、帰りたくなったら帰りな」

それだけ告げると木剣を構える。

「さぁ、構えな。軽く殴り合おうぜ」

模擬戦が終わってからでもよかったが、戦いに熱中して忘れると申し訳ないからな。

「では、遠慮なく行くぞ!」

宣言と共に全身が光に覆われる。種類は知らねぇが言ってたバフだろう。便利なもんだ。

素早くかつ低い姿勢から繰り出される脚を狙った攻撃を頭に蹴りを入れることで阻止。舌打ちから跳ね上がる剣を横から弾きに掛かる。

─瞬間、ニヤリと笑う口元が見えた。

そして、相手の武器に絡め取られるように俺の武器が手元から離れようと動く。


なるほど、武器を奪うタイプの技か。だがあいにくだったな。

武器を奪うというのは戦闘においてかなり強い技ではあるが、この手の対応は決まっている。


「武器が欲しけりゃやるよ」

そう、武器を取られまいと対抗するから奪われるのだ。

自分から手放して相手が武器に気を取られている間に攻撃を入れればいい。

武器を手放したその手で顔面に拳を叩き込む。

目論見通りに武器が奪えたことに油断していたのか、武器を手放したことに驚いていたのか、拳は綺麗に顔へと吸い込まれる。


「ああ?今ので意識狩りとれねぇのかよ」

だいたいこれが決まれば気絶取れんだが、今のを耐えるかよ。

だが、まあ問題はない。反対側の手で未だに空中にある剣を回収して

斜めに振り抜く。

気絶しなかったとはいえ衝撃で緩んでいたその手は容易に剣を手放し、そしてそのまま地面へと崩れ落ちる。


やべ、合否を言う前に気絶させちまったわ。

鼻血を出して仰向けに気絶している稀人をそっと脚で転がし横を向ける。

止血処置とかして貰っておくか。


──────────────────────────────────────────


気絶から覚める前にこの稀人は合格にすると発表をしておく。

メイド達に頼みとっとと館に運んで休ませておく。鼻血で溺死なんて笑えねえし。

弱いから気絶したのではなく、程々に強いから気絶したのだとまあ、分かるやつは分かるだろ。わからないやつは突っかかろうとする雰囲気があるが、お嬢が試験終了を告げれば今は押し黙るしかない。



「マーナガルム、あの稀人以外はどうしますか?足りなければまた集めますが」

「今の所は3人合否保留にしましたけど、全員取っていいならそのまま合格でいいんじゃないっすか?」

「合わせて4人、まあ大丈夫でしょう」


──────────────────────────────────────────


不合格組が出ていった後、気絶から目が覚めた稀人を含む│合格者《今後の同僚》に改めて合格を伝える。今日はそのまま給与や休日、更には仕事内容の情報を伝えるらしい。形としては仕官扱いだからな。早速今夜から仕事がある奴もいるらしい。俺は今夜は寝るけどな。お嬢の部屋で…。

外にいるのもなんだし、全員で1度館に戻り、詳しい話を聞いた。



まあ、俺はお嬢が話をしている間は執事長から貰ったこの館の見取り図(隠し通路付き)を見てたからあんま内容聞いてねぇんだけどな。

精々が俺が護衛組の中で一番偉いことにして指示出せるようになったくらいだ。

外部に直通が一番危ないが、罠でも作るか道を増やして迷路にするか、埋めるか…さて、人数増えたとはいえどうしたもんかね?

いや、罠作るのはまずいか?必要な時に使えなくなるんじゃあなぁ…。


──────────────────────────────────────────


 話し合いが終わったらしく、自己紹介をすることになった。

とはいえ、名前くらいしか俺が聞く事はないが。俺の戦い方や今後の指揮についても話せばいいか?

「俺はマーナガルムだ。傭兵として雇われている。試験をしてたから分かると思うが近距離専門だな」

「俺が護衛の指揮をする事になっているが、俺いない時はチナツが指揮しろ」

「基本的に俺かチナツがお嬢の傍に付く。それに合わせてレイチェルとエレボスが交代で入る形だ」

稀人が桜川さくらがわ千夏ちなつ。ミノタウロスがレイチェル、アマゾネスがエルボス、らしい。

チナツが茶髪黒目で俺より顔1個分低い背丈。レイチェルは薄いピンクをベースに所々濃い赤のある牛柄。エルボスは全体の色合いはオレンジを主としてあちこちをカラフルに染めた髪に蒼い目だ。どっちも体格は俺よりデカい。

「あの、私はどうすればいいですか?」

問い掛けてくるのは狩人上がりのゼータ。茶髪に緑の瞳、チナツよりさらに小柄。よし、全員名前覚えたな。

「ゼータは必要に応じて援護をしてくれ。基本は弓で対応していい」

実力的に俺とチナツは一緒に動かないのが一番バランスがいいだろう。

ゼータは大変だが、待ちは得意との事で問題はないらしい。

「体調とか崩す前に言えよ、何かあれば俺が入る。あと適度に自己訓練はしておけ」

それだけ伝えると引っ越しの準備だ。館はの空き室を護衛組が使う形となる。

1人1部屋とはいかずに2人1部屋だが、まあ、うまくやってくれ。女の上下関係は俺はノータッチで行きたい。

というか、俺の部屋はねえのに他の女性陣の部屋はあるのか。

誰か│俺の部屋《お嬢と相部屋》と交代しねえ?ダメ?そうか…。


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 各自、昼食を取ってから必要な荷物を持ってくるとのことで一時解散となった。

家具は大体提供されるが、まあ着替えや普段は使わないアイテムなんかがあるしな。

俺は全部乱れ箱に入れて一括管理という名の雑保管だから別にいいんだが、女って色々あるからなぁ。

お嬢は勉強に戻るという事で、手の空いている俺も付き添う。

付き添うって言ってもこれまた執事長から届けられた風呂用の革鎧のサイズ確認を整備をしてるんだが。


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 夕食時、お嬢から今後の活動について告げられる。

「昨夜の時点で暗殺未遂が起きている為、もはや国内は安全とは言えません」

政治に詳しくは無いが、政略結婚というカードを使わない│第3王女《お嬢》が邪魔になりつつあるらしい。

国王も年老いており、そう長くはないらしい。第1王女と第2王女は他国に嫁に行き、第1~7までの王子と第3王女の誰かが次の王座に着くと噂されている。

敵対派閥の過激派が強引な手を出し始めたとなれば、ここも安全ではないのだろう。


「よって、3年程学生として勉学に励みに行こうと思います」

大陸の中央部にある大陸中央中立教導院。主に貴族や富豪の子供達が好きなタイミングで入学し、大体3年ほど勉強やコネクションを獲得しながら過ごす場所だ。

その地では各国の王族が集まるゆえに、必然的に警備が厳しくなり、結果として各国より安全とすら言われる、独立した都市である。

ここで何かあれば大陸中から総批判される上に、どこも自分達は無罪と主張する為に加害者への対応が過激になる。正直に言ってここで暗殺を起こそうなどすれば、依頼者が社会的に死ぬ事になるだろう。

どこの国の政治にも関わらないと宣誓した上で宗教関係も多宗教に寛容である人物だけが教育者として学校に在籍することになる。ただただ、学問を広く平等に深めようという試みの元で異世界転生者が運営と管理を行っている。平等とは言え、金がねえ奴にはあまり関係ねえけどな。

それと在籍年数にも限りがあるとの事で、大体15歳~22歳までの間に入学を行い3年を掛けて─在籍は3年間のみ許されている─進学と卒業を行う。


 「学費は王家が持ちますので、皆さんも一緒に学びましょう?」

確かに貴族の中には用心棒や付添人、従者など、歳の近い者を学生として混ぜると聞く。

金が掛かるから普段勉強できない人間もそれによって勉強できる分、多分いい事なんだろう。

「お嬢がやれと言えば俺は仕事としてやりますけどね、歳の問題は大丈夫なんすか?」

主に俺以外が、女性の年齢なんて気にしたくねえが、年齢制限がある以上は困るだろ。

「エルボスとレイチェルは学生としては入れませんので、街の方で待機と休日に仕事をしてもらいます」

「アタイとレイチェルはまあ、後詰めだね。学校内はアンタらに任せるから、学校外はアタイ達が受け持つよ」

「了解了解、いつから行くんですか?入学時期はある程度決まってっすよね?」

確か春ごろに纏めて冬に卒業って形だからな、今はまだ春だが、間に合うのか?

「2日でお父様を説得します。1週間後には向こうに着く予定で用意を進めてください」

では、と話し終わったお嬢様は食事に集中する。俺達も飯食って仕事に戻るとするか。


──────────────────────────────────────────


 風呂用の革鎧を全員に配ると俺は一人でお嬢の部屋に戻り、隠し通路に仕掛けをする。

昨日と違い他に護衛がいるから一緒に入らないか誘われたが当然NOと答えておいた。

仕掛けつってもせいぜいが鳴子なんだけどな、解除は部屋側からしかできねえように糸を張り巡して

誰かが外から来れば音で分かるって寸法よ。とはいえ飽きるほど簡単なもんだからな。

本職雇って貰った方が良いんだが、すぐにここを経つってんなら留守中にして貰おうか。

執事長に伝えるとして、どうせ夜も寝るとは言え、同じ部屋でお嬢が寝るなら多少は気を張らねえといけねえし、仮眠だけしておくか。

部屋の隅に置いたままの乱れ箱から寝具(野営用)を取り出して横になる。

いつでもどこでも寝れるのも仕事の内ってね。


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 「おい、お前まさかここで寝るのか?」

チナツ、の声に起こされた俺は聞き返す。

「俺の部屋ねえからここで寝ろって指示出したのお嬢だぜ?」

隅で寝るくらいは許して欲しいんだが?

「隅なんて疲れが取れないでしょう。許します、隣にどうぞ?」

お嬢は自分が入ったベッドをポンポンと叩き─

え、同じベッドで寝ていいって正気か?

「本人がいいと言っているんだから良いんだろう、そこで寝ててくれ」

チナツが俺を起こしたのはお嬢の部屋で寝てるからではなく、お嬢のベッドで寝ていないから、だった。

「いいって言うならありがたく寝るけどよ…俺が男っての忘れんじゃねえぞ」

許されてるならいいんだ、許されてるなら。何かしらの花の香を嗅ぎながらお嬢によって温められたベッドの中で俺は寝るのだった。


戦闘にさらに1話掛けるかさっさと終わらせて続き行くかで悩んで寝た

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