人が増えるよ
「お嬢、この程度の襲撃なら余裕で守れますが、毎日来られると俺が睡眠不足で死にます」
暇なので暗に早く他に人を雇ってくれと伝えてみると
「変わりの警備が見つかれば、マーナガルムも一緒に眠れますものね」
ベッドに横になったままお嬢が声を掛けてくる。
「変わりの警備がいるなら俺がこの部屋で寝る必要はないっすよね?」
「何を言ってるの?他に貴方が泊まれる部屋を用意していないわよ」
「そうっすか…」
うーむ、体裁的にまずい気がするし、俺の理性も心配だが、いいって言ってるならいいか。
怖くて添い寝して欲しいけど恥ずかしくて言えないってこともあるしな。
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結局、その日はそれ以上の襲撃は起きなかった。逃げた刺客も落ちた刺客もすぐに捕縛されたらしく、計4人から拷問で情報を絞っているらしい。
特に漏らすことはなく死にそうですが…とは早朝に血塗れ姿でうろついていたメイドの言葉だ。
朝食後に俺とは別口の護衛依頼を受けた人物が来るとのことでメイド達は準備に慌ただしく動いている。
仕方ないので昨日使った武装の手入れをしながら護衛したいことをお嬢に伝える。
後でもいいが、使ってすぐに確認した方が楽なもんで…と言えば、すんなりと許可された。
そんなお嬢は書斎で魔道の勉強をするらしい。俺にはサッパリ才能がない分野だが、お嬢はそれなりの使い手らしい。
昨日の刺客くらいなら1:1で倒せるくらいの実力はあるらしい。
正直、そんなに強い気はしないけどな。あいつら弱かったし。
魔道は使い手が少ないし、初見殺しの感が強く、一方的に倒せる事もあれば、対策されていれば逆に一方的に負ける事もあるのだし。
その点で言えば、お嬢に必要なのは実戦経験による度胸と冷静な思考だと思うんだけどな。
俺が言っていいのか分からん。
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「お嬢、多分っすけど仕事受けた連中来ましたよ」
お嬢が本を読んでいるのを眺めていた俺の感覚にそれなりの使い手の気配が幾つかと、かなりやる使い手の気配と有象無象の気配を感じて声を掛ける。
「来た、とは?分かるのですか?」
読んでいた本をパタリと閉じてお嬢が顔を上げる。
「それなりに分かりますね。力量を隠す気は無いみたいですし」
この館周辺に余計な建物は無いし、明らかにこの館目当ての集団だろう。そして戦える気配を真昼間から出すとなれば、俺以外の傭兵と冒険者の連中だろう。
事実、そう時間の経たぬうちにメイドが面接希望者が来たことを告げるのだった。
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「マーナガルム、せっかくですし選抜を手伝って頂けませんか?」
やってきた集団を広間で待たせたままお嬢から頼まれる。
「別にいいっすよ。俺も一緒に仕事をする相手はマシな方が良いんで」
人格や個性は大切だが、同時に強さへの信用も大切だからな。
背中を預けるかもしれない相手が弱ければ、それは仕事の失敗のみならず、俺自身の命にまで関わってしまう。
「で、何人まで取るんですか?実力だけなら1人飛び抜けた奴がいますけど」
ある程度の力量以上を全員取るなら別ですが、と付け加えながら。
「そうですねぇ…予算豊富でもないですし、3人多くて4人でしょうか?」
それに、数ばかりの有象無象が居ても困りますし。と上品に笑いながら│傭兵よりの発言。こういう仕事への理解がある依頼人は助かるぜ。
「了解。どういう手順で絞込みます?」
「うーん。先に面談をして人数を絞ります。その後に戦って実力を測ります。模擬戦の相手をお願いしますね」
そういうことになった。
「人数は、3人か多くても4人でお願いします。見込みなしなら先に告げて候補に残して後で考えるならそれを伝えてください」
「そういや、模擬戦するのはいいっすけど、その間に誰がお嬢を守るんすか?」
「マーナガルムなら、戦いながらでも気を配れますよね」
はー、信頼されてるじゃねぇか俺。今日の連中くらいなら相手しながらでもできるけどよ。
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俺に来た指名依頼とは違い、大規模に女性限定で取り立てる依頼を出していたとの事で、結構な人数が集まっていた。
この街以外からも噂を聞いてかなり来てるっぽいな。見覚えの無いのもちらほらいる。
冒険者や傭兵の階級に制限は掛けていないとの事で、50は超えているだろうな。
面談自体は密偵が紛れ込まないように執事長が直接対面して行い、裏でお嬢が監視を行うというものだった。
お嬢が魔術鏡の裏から真偽判定できる魔道で二重にチェックをするらしい。
面談では立ち振る舞いや言葉遣いは審査の対象外だそうだ。知りたいのは闘い方と裏切らないかどうかで、メイドに求めることを戦士には求めてないとのことだった。
種族と得意な事だけを名乗って貰い、後は個々に対応する。
「アタイはアマゾネスだ。重戦士として護るのも突っ込むの両方得意だぜ」
「私はエルフよ。専門は野伏と弓兵。簡単な物なら魔道もできるわ。あとは種族特徴で夜目が利くわね」
「異世界から転移してきた稀人というものらしい。戦い方は魔法戦士だな。自己支援と回復をしながら戦う。」
「猫の獣人だにゃ。専門は軽戦士なんだにゃ。素早い動きで翻弄するにゃ!おやつに生魚欲しいにゃ」
「あー、俺は、牛の獣人、ミノタウロス、だ。力ある、前出て、守る。得意だ」
「人間です!狩りをしてたから短剣と弓が使えます!あと野伏も多分!」
人数の割に力量があるのは限られていた。まあの手当たり次第に集めてるし当然の事だろうけどよ。
俺が目を付けた大半は人間じゃねえが、人間より基礎性能が高いしそれを覆す力量がない方が多かったし、仕方ねえ。むしろ一人だけ光る所がある奴がいた方が予想外だった。
アマゾネス、エルフ、稀人、猫人、ミノタウロス、人間、結構な面々だったがエルフと猫人は密偵らしいので除外、4人だったら全員取れるか。実力だけで言えば稀人の姉ちゃんは一番強いのが分かるし。
ただまあ、他にも面談を合格した奴らはいるし実戦で試すしかねえか。
訓練と実戦は違うし潜在能力が高くてもそれが引き出せねえなら死ぬし。
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「では、後は実力を見ます。彼と模擬戦を行います。そして彼が実力から採用者を決めます」
お嬢に示された俺は面談の間に用意していた訓練用の木製武器を並べながら軽く会釈をする。
これから戦うってのに自己紹介はいらねえだろ。
「好きな武器使え、ある程度は合わせてやる。質問あるなら手短に頼むぜ」
「質問、私は弓を使いますが模擬戦の距離はどうするんですか?」
「遠距離専門は適当に距離開けてやる。連射数と命中数で評価してやる」
模擬戦用として庭に大きく円が書かれているのを指さす。
朝のうちにメイド達の1部が戦える場所として用意したらしい。
程々の広さに軽く掘られた歪んだ円。中央にも目印にか線が2本引かれている。
本気で訓練するなら専門の場所作りてぇな。どこに聞けば教えて貰えるかね?
「近距離なら中央でぶつかりゃいい。弓使うなら両端スタートしてやるよ。円から出たら失格な」
あくまで訓練なんで、本気でやるわけにはいかねえが全力は出す。
俺に一撃を当てられた時点で高得点やるよ。
俺が驚くような一撃でもいいけどよ。
質問はないのか、13人の合格者が好きな武器を選びだす。半分以上も面談落ちたのかよ…
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「でりゃぁ!!!」
「フェイントが1パターンしかねぇじゃねえか。不合格」
単調なフェイントから繰り出される大振りの一撃を叩き落として現実を伝える。
「おら、次」
「行きますっ!!」
宣言と共に勢いよく突きが繰り出される。勢いだけはいいし、怪物相手ならそれもいいんだが…
「突きが来るとわかりゃ盾で受けれる、槍使うなら払って体勢崩してから突け。不合格」
多少はやるようだが、どうにも未熟な奴がまだまだ多い。先達として助言だけしてやるよ。
「武器振り回しゃ当たる怪物じゃねぇんだ。少し考えろ。不合格」
次々に挑戦者の攻撃を軽くあしらいながらダメだろうと見込んだ連中を振るい落とす。円の外側に追い出しては新しい挑戦者を呼び…そして追い出す。
弱い奴から相手にしているんだから、多少は俺の動きを見て覚えて対応して欲しいんだがな。
「次はアタイが行くがいいかね?」
質問してきた弓使いの矢を全て躱して懐に潜り込み軽く叩いて失格を告げて中央に戻ると、木製大剣を構えて宣言するのはアマゾネス。採用候補の1人だ。
というか多少は誘導したが実力がある合格候補は後回しにしている。
強い奴と先に戦うの疲れるしな。
「おお、いつでも来いよ。打ち合ってやる」
「いいねぇ、そういうの嫌いじゃないよ!!」
ブンッと縦に大振りの一撃が繰り出される。
身体を捻って次の予備動作を入れつつ真横から大剣を弾く。
相手も弾かれるのを想定していたのか弾かれたまま蹴りの一撃が飛んでくる。
無論それも読んでいる俺は捻った体勢から蹴りを合わせて迎撃。
お互いに改めて向き合い斜めに振り下ろされる一撃を半歩後ろに下がって回避する。
地面に叩きつけられ土煙を上げる大剣を踏んで動きを封じる。
「お前は合否保留な」
「あれ、もっとやりあってくれないのかい?」
「まだ模擬戦してねえ奴いるしな。お互い力量分かったんだからいいだろ」
まだ本命の稀人と光る何人かがいるんだ時間も掛けられねえし疲れるからごめんだね。
「仕方無いねぇ、合格だろうし空き時間見つけて稽古を付けてよ?」
さすが戦闘種族、戦闘に関しては理解がある。
今の攻防で俺の方が強いことを知り、それでも何処まで届くか試したいとはな。けど空いてるかどうか知らねぇぞ。
「次、お前来い」
いつ行くか考え込んでいたミノタウロスに声を掛ける。
驚いた様子でこちらを見た後、何度か頷き、先ほどの勢いのある突進をしてきた。
当たる寸前に右に少し飛びながら木剣を置くように当てる。
「っ!?」
そして予想外に木剣が砕け、無傷でミノタウロスが方向転換をして再び突進をしてきた。
頑丈な肉体を利用してスタミナと速度任せの突進か…思ったよりやるじゃねえか。
武器が壊れたからと言って素手で戦おうもんなら骨が折れるだろう。
なら、やる事は…相手の勢いを利用して地面に寝て貰おう。
「ぶるぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふんっ!」
突進に合わせて飛びながら角を踏み、俺の重みで頭の向きを地面に向ける。
見事に頭から地面に突っ込み、ドォッと音を立てて崩れ落ちる。
「木剣とはいえ武器壊せる程の頑丈な身体よし、合否保留な」
「あ、ありがと、ございます?」
なぜ自分が地面に横になっているか分からない表情でこちらを見上げるミノタウロス。
模擬戦とは思ったより手こずったな。失敗すりゃ怪我してたし。
「あ、あの。よろしくお願いします!」
壊れた武器の代わりの武器を持ちなおすと狩人の女に声を掛けられる。
「弓使うのな、じゃあ距離取るから、好きなタイミングで撃っていいぞ」
狩人の女は頷くと、模擬戦エリアの縁に陣取り、射始める。
とはいえこのくらいの距離なら見て避けれるから脅威じゃねえんだが…。
距離を詰めて行く中でも的確に矢が飛んでくる。
連射速度的には十分な速度だし、狙いも1:1とはいえ正確だが。
それより脅威なのは脚を止める、躱させる目的で射られた矢と避けた先に置かれるかのように飛んでくる矢だな。今はまだ問題ないが、近づけば反射で対応しなきゃならねえ。
しかしすげえな、同時に何本か矢を持って順次番えて打ちながら打ち終われば次を、鮮やかな手捌きじゃねえか。
それでもなお冷静に矢の雨を躱し、時に打ち払い、素手で掴み、距離を詰めて行く。
しかし正面に着く前に声が掛かる。
「あ、あの。矢が無くなったので終わりにしてください…」
撃ち過ぎて矢が無くなったらしい。俺が距離を詰め終わる前に撃ち終わる量だったか?
少なくともこいつ以外は余らせて終わらせたんだけどな。
「あー、短剣での戦闘はやらないでいいのか?」
「はい、他の方との闘いを見ていたら太刀打ちできないと分かったので…」
「了解、合否は保留な」
戦えるかどうか、自分にできる事はどうか分かっているのは高評価。
4人までいいってんなら入れてもいいな。
残るは、メインディッシュの異世界から来たという稀人の姉ちゃんか。
人物名考えるのも戦闘描写入れるのもめんど、難しいね