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風呂と襲撃

とりあえずヒロインは脱がせってばっちゃが言ってた。

 結局止め時を失った会話は夕食まで続いた。

なに、よくよく考えれば同じ部屋とは言っても俺は寝る訳ではないし、お嬢の方に注意を払いつつ眠らないようにしていけばいいんだろう?連続で徹夜は流石にキツいが交代制と依頼書にはあったし、まあ3日くらいなら何とかなるか?喰いすぎると眠くなるので腹八分で収めつつ今後の算段を付ける。

そして食後に席を立ったお嬢の後を追う。今夜はこれくらいで終わりか?


 「マーナガルム、私は高貴な身分で誰かに世話をさせて過ごしてきました」

こちらをちらちらと見ながらお嬢が話掛けてくる。

「なので、もちろん、お風呂も一緒に入ってくださいますよね?」

あ、爺さんが白目向いて気絶した。

「ははぁ、世話をするって言っても同性でしょう?男に素肌をみせるもんではないですよね?」

「ですが、依頼書には片時も離れずに守って下さると…一緒に入らないと守れませんよね?」

今日1日話をして思ったが、お嬢は結構強情なところがある。

一度決めたら出来る限り変えたくないのか、そもそも言った事ができなかった事がないのか。

しかし流石に俺も男だし、理性がある。最近は世界的に毎日風呂に入る文化が広まっているらしい。

もし仮に毎日裸を見る事になると…流石に手が出てしまう可能性が高い。そしてそうなったら待っているのはよくて処刑だろう。どうにか穏便かつ納得させて辞退しないとまずい。

「よく考えた俺は護衛が本業なんで、武装は解けないですし一緒に入れませんよ?」

「……浴室内にいるのはいいのですね?ではそれで」

…あれ?言質取られてる?いや、そうは言っても執事長は…気絶しているがメイド達が止めるだろう。

「お嬢様、流石のご慧眼です。ではそのように」

「マーナガルム様は武装して入浴すると当番の者に伝えて来ます。では失礼して」

「マーナガルム様が仰った通り、一緒に入浴は難しくとも同室は問題ありませんね」

メイド達は真顔で主を讃えていて微塵も役に立たなかった。


──────────────────────────────────────────


 すべての準備が終わるまでの間にメイド達から見捨てられた執事長の爺さんを必死に介抱したが気絶から覚める事はなかった。

そしてメイド達にまとわれつかれながらお嬢と一緒に浴室に入るのだった。

この館の風呂は露天風呂らしく夜風を浴びて星を見ながら入れるのが売りらしい。

その分、外から襲撃しやすいから、ぜひ警護を、というのがお嬢たちからの言葉だったが。

お嬢が脱ぐ前に風呂場で必要そうな武装を用意しておく。ぶん回しやすい片手剣に盾代わりになるマント、金属鎧は錆が怖いから脱ぐ。革鎧は…後で手入れすれば大丈夫か?足場は、素足の方が動きやすいか?お嬢やメイド達に見守られながら俺も武装を整える。別に裸になるわけでもなし、ジッと見つめられると居心地が悪いんだが…


俺の武装が終わった事を確認するとメイド達がお嬢を取り囲み慣れた手付きで衣類を脱がせにかかる。

異性がいるという恥じらいをもう少し持って欲しい。それとも、これがいわゆる高貴な身の在り方、何だろうか?

「マーナガルム様、お嬢様が脱ぐ時も警護は必要ですからね」

「マーナガルム様、あまり距離を取らないように。もっと近くで」

「マーナガルム様、外に気を払い過ぎずにちゃんと見ててください」

考えつつ見守っているんだが、メイド達がやたらとうるさい。言われんでも仕事だから見るっての。眼福眼福ってな。

「マーナガルム、私をしっかり見守ってくださいね?」

当然のような顔でお嬢からも声を掛けられる。任せとけ、バッチリ記憶してやるぜ。

まあ、そうは言いつつも意識は外に向けてはいるんだがな。勿体ないが仕事だし。

「あの、マーナガルム…そんなにジッと視られると、少し照れます」

白い肌を照れからか赤くしながらお嬢に言われる。言葉では謝罪をしつつ役得を味わうのだった。


 メイド達が無言でお嬢の全身を洗い、湯に入りながら俺を見ているのを視界に入れつつ周囲に警戒を払い続ける。

この場所だと、壁をぶち破って襲撃と空からの襲撃、どちらもあり得るな。

館の中からは遠回りすぎる。先に忍び込んでここで潜入されていた場合はどう対応するか。

その場で考えずに行動する方が得意だが、想像をしておくに越した事はない。イメージ出来ていればより素早く動く事ができるからな。


──────────────────────────────────────────


 意識を外に飛ばしつつ楽園のような風呂の時間が終わる。

お嬢はすぐに眠るとの事で丁重に部屋までエスコートをする。

部屋は二人以上で寝てもまだ余る程の大きなベッドとサイドチェスト。壁にバルコニーがあるくらいだ。

正直、思ったより殺風景で驚いた。ただ、これくらいの広さで家具が無ければ3人くらいを相手にしても十分に戦えるだろう。3:1などやりたくはないが。


腕を掴まれ同じベッドで寝るよう声を掛けられるが丁重に辞退をしてバルコニー側の様子を見る。今はもう暗く見えにくいが、月明かりで微かに地面が見える。三階にあるだけあって大分高いが、登れる奴は登ってこれるだろう。定番とは言え注意すべき場所の一つだ。内側から突破された場合は騒ぎが大なり小なり起きるだろうし、他に警戒すべきは、裏切り…隠し扉とかないよな?明日確認しておこう。

「失礼、マーナガルム様。いらっしゃいますね?お嬢様は寝ましたか?」

「ああ、爺さん。お嬢は、今さっき寝た所なんで、話でしたら小声で」

ノックの音と共に爺さんの声が聞こえてくるので場所を移動しドア近くに立つ。

「マーナガルム様、まずはお礼を、お嬢様の無茶に答えていただきありがとうございました」

「律儀だな、爺さん。それが俺の仕事なんだから別に礼なんていらないぜ?」

むしろ怒ると思っていたと笑いながら呟く。


「理性を保っていらっしゃいましたし、仕事への意識もあったと報告を受けていますので」

「そりゃそうだ。仕事はこなすな。役得は味わうけどな。嫌なら早い所、女性の交代を用意してくれ」

割と切実に頼む。風呂も部屋も毎日一緒なのは嬉しいが警戒すべき事が増えて疲弊するし、何より時間がたてば徹夜で理性は脆くなる。



「無論既に依頼を出しています。早ければ明日にでも。他に必要な物はありますか?」

「仕事が早くて助かる。必要な物、ね…この屋敷の見取り図ある?隠し通路乗ってる系」

「逃げ道から襲撃ですか…考えにくいですが、用意はしておきます」

「あとはそうだなぁ…風呂の水分で湿気るからさ、専用の武装を用意しておいてくれねえか?」

「…継続して入浴に同席すると?」

「お嬢の言葉っぷりから常に拒否できねえだろ。それに、守る側が女であっても武装は必要さ」

武装は気を引き締める為にも必要だと俺は思う。裸なんて気が抜けちまうぜ。

「ふむ…革製でよい物がないか確認しておきます」

では…と爺さんが去って行く足音が聞こえる。

さて、今夜は不寝番。今の内に他に必要な物がないか確認しておくか…。


──────────────────────────────────────────


 月に薄っすらと影が掛かり、夜が更けてきた頃、微かな物音が外から聞こえてくる。バルコニー側から、音を立てずに行動しているような…?

静かにバルコニーに出て目を凝らす。真っ暗で無ければ案外見えたりするもんだが…いた、シルエットだけだが一人、誰かが柱を伝っている。流石に悪戯か何かではないだろう。

「依頼初日から、ご苦労なこって…襲撃!!!」

ぼやきつつも館中に響くように大きく声を張る。同時にバルコニーから上がり切った相手を下に蹴り落とす。

俺一人で守る以上は下に降りて追撃を掛けるのは無しだ。この部屋でどこから襲われても守り切る。

起き出したお嬢を視界に入れつつ部屋の全方向に注意を向ける。

下では物音で起きたのか俺の声で起きたのか知らないがメイド達がドタバタと動き回り叫んでいる声が響き渡る。緊急事態と判断されたのか館中の魔道具が起動して明かりを放ち始める。

「…そう、さっそくですが仕事をお願いします。マーナガルム」

「あいあい、お嬢。任しときな。俺を買った事は間違いじゃなかったと教えてやるぜ」

起き出したお嬢と軽口を叩きながら警戒を怠らない。

「それと、我儘で申し訳ありませんが、殺さないで戦えますか…?」

「ん?追撃する方が危険なんで最初からその予定っすよ。背後関係洗うのも大事でしょうし」

止めを刺しに行ってお嬢が守れない方が問題なので殺さないで留めるのは問題ない。

背後は吐く気はしないが、やれることはやった方がお得なんだろう。

この部屋から出ないで徹底防衛、やってやるぜ。沈黙がしばらく続き─地面に落とした奴は登ってくる気配はない─

そして、入り口のドア側から僅かに軋む音を聞いて俺は移動。

突然大きく開かれたドアから3人の人影を確認しつつ一人を蹴り飛ばす。

「ノックの仕方知らねえなら俺が教えてやるぜェ!」

「ッ!?」

蹴り飛ばした奴は壁にぶち当たって推定気絶ダウン中っと…残り2。どっちも片手剣か。

仲間が吹き飛んだ事に驚いて固まっていたので片方の脚に短剣を投げて、牽制のつもりだったが綺麗に刺さった。

破れかぶれになって突っ込んでくる最後の1人の突撃を、後ろに下がって回避。

勢いを利用し向きを反転し、お嬢を視界に入れながら、持っていた片手剣を優しく放り投げる。

そのまま無手で突っ込み、腰に提げていた鞘で殴打して、確定気絶ダウン

投げた武器を拾って脚に短剣が刺さっている刺客を見るが、既に戦意喪失でびっこひきずりながら逃走中。

…逃走?刺客にしては妙な動きだが、いなくなるなら都合がいいか。

時間を稼いでればメイドか執事長か応援を呼ぶだろうしな。


 戦闘が一時落ち着いたからと言って油断はできない。第二陣第三陣おかわりが来る可能性もあるし気絶から復帰すればまた襲ってきやすいからだ。

とりあえず気絶した刺客二人にはお嬢から布団を借りて載せておく。起きたら分かるし動ける前に叩きのめせるだろう。


 「本当に、お強いですね」

俺の動きを見ながら何かあれば魔術を行使しようと準備をしていたお嬢がぽつりと零す。

「まぁ、本職なんでね。それに、刺客にしては妙に弱かったんすけどね」

弱い、というよりは戦闘慣れしていないと言うべきか、仮にも王族を狙うにしては質が悪い印象だった。

特に不意打ちを受けて動きが止まるのは、下の下だろう。暗殺者としてどうなんだ?


──────────────────────────────────────────


 布団の下で起きる刺客を定期的に気絶させていると、メイド達が縄を持って現れ、気絶した刺客を布団ごと縛ってどこかへ運んで行った。どこかは知らねえが一通り拷問に掛けて処刑だろうな。


「お嬢、寝てて大丈夫っすよ。何かあったら音しますけど、寝れねえのはきついでしょう」

「いえ…襲われた恐怖で、寝れないのですよ」

「あー…それなら、ごゆっくり?」

と、思い出してお嬢に声を掛けたが、意外な返答が来た。

そうか、ビックリして寝れねえなんて事があるのか。

気分を落ち着かせて寝るって言っても落ち着かせ方なんて知らねえし、どうしたもんかね?

お嬢は布団(メイドが新しい物を運んできた)に包まりながら、こちらをぼんやりと見ている。

特に目に毒な事でもするわけでもなし、気にすることもないか。

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