起死回生
「うあぁーーーーーー。」
無詠唱のファイアーボール!?
俺は回避できずに背中を焼かれ大きなダメージを受けた。
驚愕だった。自分の能力と同等だと考えていたからそんな奥の手は無いと油断していた。
もちろん俺は現時点で魔法を使うことはできない。それにいくら初級魔法とは言え無詠唱で放つということは中級の魔法使いと同義だ。この世界では魔法が使えるということはそれだけでエリート。中級魔術師であれば宮廷魔術師となって一生の暮らしが保証される。その日暮らしの冒険者とはえらい違いだ。機械音声が直近で目覚める能力を付与すると言っていたことを思い返す。
「俺が魔法を使える可能性があるということか。」呟きながら起き上がるが、体に力は入らない。
ロート・ルクスは既に次のファイアーボールを放とうとしていた。あいつに勝つには距離を詰めて近距離での泥試合に持ち込むしかない。俺には遠距離の攻撃手段は何もないのだから。
一歩目、放たれた炎の球に正面から突っ込む。二歩目で左に踏み込み直撃を避けるが、右の脇腹をかすめ少なくないダメージを負う。それでもそのまま前に進み右拳を振り抜く。ダメージを負ってまで前に進むとは思っていなかったのか、左頬を捉えた。相手の意識を上に向けさせたところで左足で足払いに行く。
これはバックステップでかわされ、逆に左頬を痛打される。が、圧倒的不利な今の俺にとって後ろに下がることは負け即ち死を意味する。
そのまま腹をめがけて蹴りを繰り出すが、これもかわされる。相手にして初めて分かるがこのスピードは厄介だな。万全の状態であれば当然張り合えるが、魔法によるダメージを抱えた俺では徐々に攻撃を当てることが難しくなる。
意を決した俺はガードを固めさらに前進。相手の左拳、右拳がガードの隙間から俺の顔面を的確に捉える。もう満身創痍だが、そのまま倒れるように相手の腰に抱きつくと、そのまま押し倒す。
前回のように馬乗りにはならず、すぐに離れ顔面を蹴りに行く。
しかし、両腕でガードされ起き上がられる。
ダメージ覚悟で向かって来られることを厄介だと思ったのか、距離を取ろうとする。
それは俺が許さずまた前に出る。ただダメージの少ない相手の方が早く、距離をとられてまたファイアーボールが放たれる。
やむなく右に回避する。なんとかかわしたその瞬間二つ目の炎の球が俺に直撃する。あぁ、これで終わりか...。
「いや、負けられねえよ。家族の仇をうつまでは、死んでも死なねえ。」
意識を失いそうな所をやっと堪えていると、俺の体が光に包まれた。次の瞬間今まで負ったダメージが嘘のように消えていった。
戸惑いながらも、勝機はここしかないと再び前に出る。
ファイアーボールでの迎撃はなく、左拳が飛んでくるがガードを固めさらに腰を一段下げかわす。そのまま懐に潜り込み左腕を下から上に振り上げる。
相手のアゴを打ち抜き顔が上がったところへめがけ右拳を振り抜く。相手は後ろに倒れ込む。そこへトドメと顔面をボールのように思い切り蹴る。
ゴッという音が鳴りロート・ルクスは動かなくなった。