コピールーム
目を覚ますとそこは何もない部屋だった。四方を白い壁に囲まれており、見る限り出口はどこにもない。天井も高く10m以上ありそうだ。
ここはどこなのか。俺はあの女に刃竜巻で殺されたはずだった。ここに来る前の記憶では体中切り刻まれ、確実に死ぬ状態だったはずだ。それがなぜか今は体に傷もなく、痛みもない。
「あぁ、これは天国かな。それなら家族に会わせてくれれば良いのに。」
そう呟きながら再度辺りを見回した時だった。
「コピールーム。コピーを開始します。」機械的な音声でそう告げられ、俺の体が光に包まれた。ここへきた時と同じ光だった。そういえばあの女が転移魔法陣と言ってたな。ここは天国じゃなく、なぜか俺はまだ生きている?そして今の音声は?そんなことを考えていると俺の前方に光が集まり人型を形成していった。
光が収まるとそこにいた人物に俺は驚愕した。黒髪に二重の柔らかな目、筋の通った鼻。体は鍛えられていることが一目で分かる。
誰よりも俺がよく知っている人物。そうロート・ルクス。俺自身だった。
「潜在能力から直近で目覚める可能性の高い能力を推定。コピーに付与します。」
もう一度機械的な音声で告げると、もう1人のロート・ルクスがもう一度光に包まれた。
しかし、驚いたままではいられなかった。そのロート・ルクスはすぐに俺に襲いかかってきたからだ。
軽いステップで距離を詰めると左拳を顔面に素早く打ってくる。俺はバックステップでそれをかわす。
「ちょっと待ってくれ。俺だよな?何で襲ってくるんだ?それにここはどこなんだ?何で俺が2人いるんだよ?」
次々に疑問をぷつけるが、もう1人のロート・ルクスは何も答えずに、もう一度距離を詰め、左拳でジャブを放つ。と思い身構えたところ、左拳は止まり、右足でローキックだ。俺がよく使うフェイントだった。左拳に集中していた俺は自分のフェイントにまんまと引っかかり、ローキックをくらう。痛みをこらえながら、バックステップで距離を取る。
俺と同じ能力で襲ってくるもう1人のロート・ルクス。やらなきゃやられる。状況を理解した俺は戦う覚悟を決める。愛用の短剣は転移前に投げ捨てたままでここにはない。お互いに素手の戦いとなる。負けるわけにはいかない。ここを出て家族の復習を果たすまでは。
俺は覚悟を決め、右足のステップで一気に距離を詰め左手を突き出すと見せかけて右足のローキックを放つ。流石に引っかからずに、ロート・ルクスはバックステップで後ろに下がるが、俺はそこへもう一歩踏み込み距離を詰める。ロート・ルクスは左のジャブを入れるが、敢えて顔面で受けながら、両手で左肩と右脇腹あたりの服を掴み、グッと引っ張る。ロート・ルクスは体勢を崩し右足一本で踏ん張る。その右足を足払いで崩す。倒れたロート・ルクスにすかさず馬乗りになり顔面を殴りつける。二発三発と殴って行くと背中に熱を感じ振り返る。ロート・ルクスから炎の球が放たれる瞬間だった。