転移
「頼む俺は誰にも話さない。ロジャーにも公爵家の息子については話していない。だからロジャーと家族を返してくれ。」
すがりつくように頼み込んだ。
「もういい。やれ。」
女に向けてそう言った男の目は完全に興味を失っていた。
「はーい。行くよDランク。」
そう言うと女は右手をかざした。瞬間炎の槍が3本女の前に現れた。
「なっ、中級魔法のファイアランスを無詠唱で!?」
驚愕するのも束の間、女が手のひらを軽く前に出すと勢いよく、3本の炎の槍が向かってくる。
持ち前の素早さを活かして、なんとか右に回避するが、女が手を軽く動かすかだけでそれに呼応するように炎の槍も方向を変え俺を追う。体をひねり避けるが、一本の槍が俺の左足を貫く。
「あぁぁぁぁっ。」
太ももを貫いた槍がさらに内部から体を焼き悲鳴が漏れる。
「あっけないね。ちょっと素早いかと思ったけど、これも避けられないようじゃ勝負になんないわ。」
つまらなそうに女が言う。
「一応動き止めとこうか。」
女はそう続け、また炎の槍を3本出した。
左足はもう動かない俺にこれを避ける手段はなかった。右足だけで右に避けるが、先程と同じように追尾され、残った手足を容赦なく貫いた。
「あーーーーーーーーーーーーーー。」
あまりの痛みに叫び声をあげ、そのまま後ろに倒れる。
「大丈夫?」
全く心配している様子はなく薄笑いを浮かべ女が聞く。
俺は死を覚悟して女に聞く。
「ここで俺を殺したら家族だけは無事に帰してくれるんだろうな。」
「あっ、言ってなかったっけ?」
そう言って女は布の袋から血まみれの服を2着出す。頭が真っ白になった。その服は妻と娘のものだった。
「2人に何をした?何をしたんだ?」
怒りを抑えきれず這いずりながら女へ向かって行く。
「もうとっくに殺しちゃったよ。あのおばさん子供だけは助けてってうるさいから先に子供から殺しちゃった。そのあとが面白くてさ、おばさん目から血を出して許さないって。初めて見たよ血の涙ってやつ。」
「殺す。絶対に殺す。」
うわ言のように殺すと言い続けながら這いずって女の所まで辿り着く。その俺の頭を女は踏みつける。
「すごいね。そこまでの殺気初めて感じたよ。怖いからバラバラに刻んで殺しちゃおう。もう二度と動かないように。」
そう言って女はまた右手をかざす。刃竜巻。上級風魔法だ。
竜巻が徐々に大きくなる。刃のように鋭い渦が抵抗できない俺を切り裂きながら巻き上げる。
ズタズタになった俺はそのまま渦に巻き上げられダンジョンの天井に衝突した。
その瞬間、突如としてダンジョンの天井が光った。円の中に六芒星が浮かび上がる。
「転移魔法陣?そんな気配はまるでなかっただろ?発動前に殺す。」
女は素早く右手をかざす。一本の大きな炎の槍が出現し、すごい速さで俺へ向かってくる。俺の体を貫くその寸前に体が光に包まれ、次の瞬間には先程のダンジョンとは違う殺風景な部屋にいた。そこで俺は意識を失った。