脱出
「残念ね。本当はもっともっと苦しませて殺してあげたいけど、時間もないし。それに身体にあまり傷をつける訳にはいかないから。」
背中に悪寒が走り近くにいるだけで自分が闇に飲まれるような感覚に襲われた。この先にいる男と女は自分とは隔絶した実力を持っている。戦えば肉食動物に狩られる草食動物のようにアッサリと殺されるだろう。
おそらく公爵家の息子は殺された。そしてここにいることが見つかれば俺も確実に殺される。
恐怖に呼吸が乱れ、心臓の鼓動が大きくなる。
落ち着け。俺は誰だ。万年D級冒険者のロート・ルクスだ。
まずは呼吸を整えるぞ。深く息を吸え。
自分に言い聞かせながら、一つ一つできることを思い浮かべることで思考をクリアにしていく。
奴らの目的が公爵家の息子を殺すことなら目的は達成された。後始末が終わればこちらに引き返して来るだろう。すぐにかつバレないようにこの場から離れなくては。
「早く例の奴を。」男が言う。
「分かってるって。相変わらずアンタは堅いねー。」
女がそう答えた後、ズルズルと何かを引きずるような音がする。何をしているかは分からない不気味な音に緊張は高まる。
が、今しかないだろう。そう思い走り出した。
スキル忍足によって足音をたてることなくその場から立ち去る。
「ギギッ。」
その時最悪なタイミングで魔物が現れた。最大限の注意を奴らに払っていたせいだろう。ギリギリまで気がつかなかった。魔物との距離は1m。
「このタイミングはないだろう。」