耳がかゆい
耳の穴がかゆくてかゆくてたまらない。
特に右耳。
なんだこれは。
むずむずするというか。
もぞもぞするというか。
…病院行くか。
「ああ、こんにちは、めまいの調子はどうです。」
「落ち着いてますね。」
この耳鼻咽喉科の先生は、めまい治療の権威だったりするのでよく通っていてすっかり覚えられているのですよ。ちょうどめまいの薬が切れたので、ついでに診察してもらうことにしたのさ。
「あの、なんか耳がすごくかゆいんですよ。見てもらっていいですかね。」
「よしきた。」
診察椅子がぐるりとまわって、先生が私の耳をのぞき込む…。ついでに反対側も。
「なんともないよ?気のせいじゃないの。あんまり触ったりしないで様子見てね。」
「はあ。わかりました…。」
なんだかあんまりすっきりしないけど、なんともないなら、まあいっか。
「なんかいいお知らせあるかもね。耳がかゆくなるといい知らせが舞い込むって言うから。」
「え、何それ、じゃあ、そう思っときます、ありがとうございました。」
家に帰ると、娘がいた。
「ちょっと!!カラオケ再開したって!!!」
「うお!マジか!!よし行こう!!」
「僕もいく。」
いいお知らせキター!
このところの騒ぎで営業自粛していたカラオケ店が営業を再開させたらしい。
「耳が早いね!!」
「アプリのお知らせ入ったからね!!」
「僕歌いたい。」
さっそくカラオケに行くと、ボチボチのにぎわい。
広めの部屋をゲットして、はりきってマイクを握る!
三か月ぶり?いやもっとかも!
カラオケパーティーが始まった!!
「うおお!!粗品のカラオケ入っとる!!!」
「あたし歌うよ!!」
「歌選びたい。」
大喜びで大音響鳴り響く中、カラオケを堪能していると。
「あれ、旦那から電話だ。はいはい?今日遅くなるって言ってたよね?」
「なんかキャンセルになったー、今どこいるの。」
「カラオケがははにいるけど。」
「じゃー俺も行くわ!ピザ注文しといて!!―ブツ」
娘の歌唱が終わった。
曲の合間に、静けさが漂う。
「なんかお父さん来るらしいよ。」
ピザを注文して、しばらくすると、旦那がやってきた。ピザ屋もちょうど来たぞ。ピザと一緒に入室かい。ピザピザうるさいなあもう。
「♪ボ―エ――――ボエボエ、ボ―――エ――――――!!!」
ノリノリで歌う旦那がここに。ピザをその隙に食べる子供たち。私はというと。
あんなにかゆかった耳が今はどうだ!!
耳が、痛くて痛くてたまらない。
耳の穴に容赦なく突き刺さるボエー。
うん、ちょっと外行ってジュース買ってこよう。
部屋に戻ると、旦那の採点が画面に映っていた。
72点。
「俺さあ、歌いたい曲が女性ボーカルのばっかでさあ!うまく歌えないのがネックなんだよね!!」
耳に胼胝ができるくらいその言い訳聞いてますから。
旦那の声のでかさは宇宙一有名なガキ大将を凌駕するのですよ。
支払いを済ませて店を出ると、旦那と娘と息子は先に家路についているではありませんか。置いていくとは何事か!!道の先に三人の姿が見える。追いつこうと、走り出した。
それにしてもずいぶん歌ってずいぶん色々食べたな…。久々の歓楽は結構な出費となっちゃったんですけど!!
すごい歌声の中にいたからか、耳がぶわーんとしびれている。
まずいなあ、これじゃあいい知らせを聞き逃しちゃうかも。
「…ちょっと、それまずいって、お母さんには…」
「…秘密にしておこう…」
「…分かった…」
なんか聞き捨てならない感じの言葉が聞こえてきたぞ?!
「ちょっと!!!何言ってんの!!!!」
旦那と娘がびくついてこちらを振り返る。
息子はにこにこしている。
「地獄耳の人が後ろに!!!」
「なんも言ってない!!」
「なんかお寿司買ってあるって。」
息子以外は説教パターン突入だな…。
「さっき散々食ったのは何なんだ!!!」
「あれは食前ピザ?」
「ピザは食事だろうがアアアアアアア!!!!」
さんざん騒がしく騒ぎ立てながら家に着いたら、まーた耳がかゆくなってきたよ。
…私は地獄耳らしいですからね!!
いい知らせ、多分聞き逃すことないと思うんですよ!!
あとは知らせを聞くだけなんですけどね!!
早く私の耳に届いてほしいもんですね!!!
私は少々憤慨しながら、旦那の買ってきていたスーパーの半額のお寿司をモリモリ食べた。




