クエスト始動! イケメンAIと共に
「僕の名前はキバ。始めたてのプレイヤーをサポートするAIキャラさ。短い間だけどよろしくね」
急にやってきた謎のイケメン、キバさん。
大学生くらいの感じで、日曜日の朝に主役やってそうな感じのルックスのAIキャラ。
「ど、どうも……」
正直、さっきの一件もあったので一瞬その手を取るのに躊躇したけど、何も仕掛けてくる様子はない。
それにさっきの初心者狩りは遭遇時から明らかに嫌な予感が漂っていたが、キバさんからはそれは全く感じられない。だから特段、初心者狩りっぽい感じもしない。
つまり本物のサポートAIってことでよさそうだ。
キバさんに差し出された手を取って握手。その相手はAIキャラ、でも私は手の中に人肌の温もりを感じた。本当凄いな、最新のVRは。
「分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」
そう言うキバさんは自信満々。
私は強くなりたい。あの人に辿りつくために。
そして憑依したい! そのためにこの世界に来たんだから!
その条件を同時に満たす方法は、一つ!
「【性癖】ってどうやったら使えますか!!」
「【性癖】か。いいねぇ。自分の癖に正直なヤツは伸びるよ。ちょうどいいところがあるからついてきて」
さっすがAI! 痒い所にピンポイントで手が届く!
「ほら、陽彩も行こ!」
不思議そうに首を傾げている彼女の手を引いて、私はキバさんについてゆくのだった。
◇
キバさんに導かれること数分。
私たちは彼に導かれ、喫茶店のような建物の前にいた。
「ホントにここで合ってます?」
「もちろんさ」
私の疑問を軽くいなしてキバさんは店の中へ。
「いらっしゃいませ!」
「三人ね」
「はい! あちらの空いているテーブルにどうぞ!」
店に入った私たちの接客をしてくれたのはロリ巨乳なうさ耳メイドさん。その脅威の胸囲には目を引かれたけど、それ以上に私の目を引いたのは彼女の着ているメイド服。
だって、イラストなんかでよく見る露出多めのエッチなメイド服じゃなくて、長袖にロングスカートで純白エプロンという超本格的なクラシカルなメイド服だったから。
珍しくてつい見ちゃった。
それに彼女のうさ耳、本物みたいにリアルだ。
「ここは僕が出すけど、何飲む? ちなみに、ここの紅茶は絶品だよ?」
「そんなことより、ここのどこが【性癖】にちょうどいいんですか?」
「それはだね。周りを見れば、わかるよ。すいませーん! 紅茶三つで」
周りを見ればって言われても……。
陽彩と一緒にしぶしぶ周りを見てみると人が多い。というか人以外も多い!!
タキシードを着てシルクハットを被ったイケ猫(イケメンな猫)さんがOLっぽい人にアーンしてあげてる。カウンターでパフェを頬張っているのは悪魔の羽が生えた、藍色肌で和装のお姉さん。それに、おねショタカップル、ロリロリコンビ、モフモフさんに、銀髪ロン毛碧眼軍服姿の青年がいたり。
このお店のありとあらゆる場所に性癖が溢れかえっているではないか!
ただ、やたら筋肉質の人も多いのは何でだろう? みんな筋肉フェチなのかな?
「いろんな人がいるんですね」
「そうそう。ここはこの『はじまりの町』の中でも人気の店でね。プレイヤーもノンプレイヤーキャラクター」も集まってくるわけ」
「NPCもお店を使うんですか?」
「ああ、使うよ。訳アリな奴がな」
キバさんがニヤリと口角を上げると、それから少し経って何かに気づいた陽彩が私の肩をツンツンしてくる。
「ルナさん。あの人、何やら困ってるみたいです。少し、お話を聞いてきてもいいですか?」
陽彩の目線の先には木製のグラスを持ったまま机に突っ伏す、おハゲさんがいた。なんか、『ダメだぁ』とか『どうすりゃいい』って呪文みたいにブツブツと呟いている。
確かに、相当訳アリみたいだ。
「いいね、君のバディ。なかなかに頭が切れるし、目の付け所もいい」
感心した様子でキバさんは陽彩を褒めてくれる。
「人が集まるところには、情報も、困りごとも、厄介事も集まるもんでね。彼もそんな一人。話を聞いてくるといいよ」
「でも、機嫌の悪いプレイヤーさんだったら怒られないですか?」
「大丈夫。彼はNPCさ。彼をジッと凝視してごらん? プレイヤーかそのバディなら頭の上にネームタグが出るけど、彼は出ないから」
言われるがままおハゲさんやその周りを凝視してみると、他の人たちにはタグが浮かぶけど確かに、彼のネームタグだけない。ってことは、確かにNPCみたいだね。
「オッケー。聞いてきてもらってもいい?」
「はい!」
パシってすんません! でもこんな陰キャのお願いも、陽彩は苦い顔一つせず了承してくれた。その、誰にでも注がれる委員長キャラの慈悲がいいよねぇ。
彼女がおハゲさんと話している間に店内を見回してみると、タグと付いてない人が七対三くらい。
あれ? キバさんの頭の上にも【キバ】って浮かんでない? 色は他の人と違うけど。
「キバさんの頭の上にも――」
「僕は特別さ。はぐれてしまったらよくないだろう?」
そんなもんかなぁ、と思っていると陽彩が戻ってくる。
「ルナさん! あのお方はどうやらこんなことで悩んでいたようです」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【クエスト】:モンスターを追い払え!
『俺は町から少し外れた所で農業を営んでいるんだが、最近モンスターが多くて仕事にならねぇ! タダとは言わねぇから、どうか力を貸してくれ!』
【目的】始まりの森のボスモンスターを倒す
【報酬】10000G
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
陽彩はそう書かれたウィンドウを呼び出して私に見せる。
「お受けしますか?」
「おおっ! クエスト!」
「そうそう。町のNPCには悩み事を抱えてる奴もいてね。たまに『クエスト』という形式でプレイヤーに頼んでくることがあるんだ。……ここだけの話、受けるも受けないも自由。さぁ、どうする?」
「まさか、このために私たちを?」
「ああ、そうさ。使ってみたくないか? 【性癖】」
「もちろんですとも!!」
決意を胸に私はおハゲさんの背中をポンポン叩く。
「おじさん! 依頼、やりますよ!!」
「本当か!? 助かるよー!!」
ちょっとお酒くさい。ヤケ酒しちゃうほど、困ってるってことは頑張らなくちゃね!
「じゃあ、早速――」
意気揚々と出発しようとする私の腕を、おハゲさんがガッと掴んできた。酔っ払いのそれとは思えないくらい鋭い目をして。
「くれぐれも気をつけたまえよ」
「わ、分かりました……!」
私はおハゲさんの変わりようと、心を串刺しにするような視線に萎縮してしまう。
「頑張ってなぁ!!」
人が変わったように、また酔っ払いモード。
「ルナさん、行きましょう!」
美味しい紅茶を胃の中へ流し込み、陽彩に手を引かれるがまま、私はクエストの現場、始まりの森フィールドに向かうのだった。
「面白かった!」「刺さった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、是非とも『ブックマーク』と下にある『評価』をポチっとしてみてください!
皆さまの応援で、物語がもっと性癖マシマシに強くなります!!