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「最後のピース」

 フブキさんはPON吉の言葉をバッサリを切り捨てた。優しく砕けた雰囲気は一瞬にして消え去り、困惑する幹部たちをよそに玉座より彼らを見下す目がギラリと輝く。


「我々の力を罪人たちに味わわせる総力戦なんじゃねーのか? なのに、全員で戦わないのはおかしいだろうが!!」


「いつ誰がそんなことを言った?」


「あなたは確かに『我々の実力を見せつける』とそう言ったはずだ。だとすれば、それがクランの総力戦でなくて何になると言うんです?」


「お前たちも見ただろう。一夜にしてこれだけの被害を出した龍子とそれに食い下がってみせたそっちの彼らの力を。いくら下級団員が束になって戦ったところで、その結果は火を見るよりも明らか。無為に団員たちを傷つけるより、相応の実力を持ったもの同士のタイマンの方がいいと判断したまで」


「だっ、だからといって、どうして我々が戦わないといけないのニャ? クランの実力を示したいのなら、お館様が戦えばいいのでは?」


「私が? バカを言うな。私はな、疲れている。だから私に次ぐ実力者としてお前たちが代わりに戦うのだ」


「まさか、お逃げになるおつもりで? 今のあなたはなんだかんだ屁理屈をこねくり回し、我々に厄介ごとを無理やり押しつけているだけにみえますよ」


「逃げる? 冗談も休み休み言ってもらおうか。

 それにだ、お前たちが戦う理由ならあるさ」


 フブキさんは胸元に手を突っこんで何かを取り出し、この場にいる全てのプレイヤーからよく見える位置である私たちの目の前に投げた。


「正確に言えば、戦ってもらう理由だがな」


 ぶっとい針のついた大きな注射器。大型動物の予防接種でしか見ないような巨大な注射器がカラン、と軽い音を立てて地面に落ちた。


「これが何か分かるか?」


「それって……!」


 それは私のよく見知ったもの。

 昨日の晩、私が憑依していた龍子さんの肩に突き刺さった注射器だった。


 龍子さんの暴走の引き金となった因縁のアイテム。ある意味この騒動の原因となったとも言える重要な物証だ。

 だけど、どうしてこの場でその注射器が出てくるのか、それが幹部たちの戦う理由になるのか。鈍い私には全く見当がつかなかった。


 でも、差し出された注射器を見て、幹部たちの顔色が変わった。



「さぁ……何ですか? その注射器は」


「……」


「なんですかにゃ……?」


 コンチは頬を引きつらせ、ドラ助の髭がビクンと跳ね、PON吉の表情が消えた。都合の悪いもの見てしまったと、誰も口にはしないものの全員の表情が雄弁に語っている。


「これはな、引き金だ。昨日の晩、龍子はこれを誰かに打ち込まれ、暴走させられたのさ」


「そいつが暴走したのは自身の性癖(スキル)に由来するものでしょう? それを誰かにさせられたなんて何を根拠に」


「臭いだ」


「臭い?」


 PON吉は訝しむ。


「そうだ。この注射器には麻酔薬の臭いが残っている。この周囲に自生するレアなマタタビを原料とした強力な麻酔薬の臭いが。その麻酔を打ち込まれ、意識を失った龍子は暴走したのだ」


 戦いの最中、突然腕の感覚が無くなり、龍子さんが暴走したのはそう言うことだったのか。フブキさんの話を聞いて、私は一人納得。でも、腑に落ちないこともある。


 じゃあ、一体誰がそんなことを……? 


「さっきも言ったように、この件に関して龍子は被害者だ。とすればいるはずだろう? 加害者が」


 フブキさんは玉座のひじ掛けに右手を置き、頬杖をつきながら獣たちを見つめる。その態度には彼女の余裕が溢れ出ていて、私に一つの事実を直感させた。


「フブキさんは分かっているんですね。龍子さんにそんなことをした犯人の正体が!」


 私が言うと、フブキさんはフッと微笑んだ。


「そう、その加害者の臭いもその注射器に残ってる。タヌキ、キツネ、ネコの臭いが逃れようもないほどにべっとりと。すなわち、お前たち三匹の臭いがな!」


 唐突に矛先を向けられ狼狽える幹部たち。奴らは一様に目を泳がせ、口を金魚のようにパクパクとさせる。


「な、ニャんの根拠があってそんなことを!!」


「だいたい、さっきから臭い臭いって、たかだか人間が嗅いだだけでで犯人を特定できるわけねーだろうが!」


「私はな他人(ヒト)より鼻がいいのよ」


「バカ言うな! 高々人間にそんなことができるわけない!!」


「本気で言っているのか? だとすればお前には何も見えていないようだな」


「何だと?」


「私はな、人間(プレイヤー)である以前に狼なんだよ」


 (フブキさん)は笑った。ニタァと引き上がった頬に覗く鋭い牙は一ミリの隙間もなく整然と並び、まん丸目玉の中に浮かぶ黒目は自分の遥か下方にいるキツネと、ネコと、そしてタヌキへと向けられた。


「私たちは二つ脚で生活をする獣人だ。人の形をしているが根本的に獣。だかこそ、獣人たる我々は動物としての能力を持っている。私も、貴様らも、ここにいる皆が例外なくな。

 犬科の動物は嗅覚が鋭く、鋭さは人間の四千倍とも言われる。その特性は狼たる私にもしっかりと受け継がれているんだ。だからこそ、誰がこの注射器を用意し使ったのかも、その裏にある陰謀も、私にはハッキリと嗅ぎ分けられるんだよ」


「陰謀……ですと?」


「龍子の暴走、それにこの審判も、全てはこのクランを乗っ取るためにお前たちが仕組んだこと。違うか?」


 全て仕組まれてた……?


「私を含めたクランの全員が一堂に会する謁見の儀で龍子を暴走させる。それさえできればオーケーだったんだ」


「どうしてボクを……?」


「心配しないでいいぞ、龍子。ちゃんと教えてあげるさ。

 簡単な話だ。暴走した龍子が誰にも手をつけられないということは、自らの奴隷としていいように使っていた貴様らが一番よく知っていたはず。だからそこに目を付けたんだろう? 

 全員が集まる謁見の儀で龍子を暴走させれば、必ず私が出張る。それで私が龍子に負ければ、クラメンに負けた軟弱者として(おさ)にふさわしくないと事後の審判で弾劾できる。逆に私が龍子を抑えた場合、このように暴走の責任を私に追求して追い詰め辞めさせる、もしくは自分たちの都合のいいように組織を作り変えようとした。違うか? もっとも多少のイレギュラーはあったが」


 相手を見下し、勝ち誇った笑み。幹部連中が常にフブキさんに対して向けていた視線を、フブキさんはそっくりそのまま返した。


 まさか、策を弄して追い詰めようとしていたその相手に、そんな視線を向けられると思ってなかったんだろう。幹部たちは全身の毛を逆立てて、縮こまり小さく震えている。あれだけイキり散らしてたヤツらが子犬のように震えているのを見てると、面白くて笑いそうになってしまう。


「他人を化かすことだけを考えすぎて自分たちに与えられた性質も忘れるとは、何ともお粗末な話。それで私を出し抜こうなんぞ片腹痛い。

 分かったか? これが貴様らに戦ってもらう理由だ。この審判が貴様から私への挑戦というならば、この『試練』は私から貴様らへ対する答えなんだよ。対価を払わずに望んだ結果だけを得られるなんて思うな。自分が誰より優れていると信じて疑わない間抜け共め」


「間抜けはあんただ。誰がそんなもんを間に受けるとでも? アンタの言い分に私たちが応じる必要ないんですよ」


「まぁ、そうだな。何も無いのでは張り合いもでまい。もし、貴様らが試練で龍子たちを負かすことができたら、今回の件は不問にしよう」


「嫌だと言ったら?」


「戦わないというのなら私の命令に背いたとして、クラン員総出で貴様らを再び牙を剥く気力も失せるくらいボコボコにするだけ」


「通るかそんなもん!!! そんな割に合わないことが許されんのかよ!」


 表情を歪ませ、必死に抵抗するPON吉。それに合わせるようにコンチもドラ助も喧しく叫ぶ。

 しかし、


「通るんだよ」


 フブキさんはその騒ぎを一言で叩き斬り、言葉の圧で幹部たちを圧倒してみせた。


「目上の者には絶対服従。それが貴様らが持ち込んだ掟だからな」


 完全に流れが変った。さっきまで幹部たちが掌握していた空気を、フブキさんは自分の元へ手繰り寄せ、さらには幹部たちを追い詰めるところまできた。


 こうなったのは注射器という決定的な証拠があったことが大きいけれども、それ以上に効果的なタイミングで切り札を出し、鮮やかに幹部たちを追い詰めて自らの計画に嵌めたフブキさんの実力が大きい。

 そんな彼女の手腕に、私はつい見入ってしまう。


 追い詰められてギリギリのPON吉。しかし、ヤツ自身はまだ諦めていないようで、またみっともなく喚き散らす。


「掟? ああそうか、掟か。ならば私たちの言うことも聞いてもらわないと通らない。おい、お前たち。私たちに代わって罪人たちを倒すのだ!」


 PON吉の魂の訴えも虚しく、最初から何も聞えていなかったかのようにクラメンさんたちは誰一人として反応しない。


「ふざけるなよ……! 耳尻尾とかいうケモナーとして下級の分際で、我ら完全獣人に逆らうというのか?」


「勘違いしてるようだから教えてあげるけど、単にアンタらの人望がないだけっしょ」


「なんだと!?」


 陽彩がぶっこんだ超ド級の火の玉ストレートに、秒速で反応する幹部共。ヤツら口々にやんややんやとがなり立てるも、もはや負け犬の遠吠えだ。


「これで貴様らがどうすべきか分かったんではないか?」


「おい、フブキさんよぉ。あなたさっき言いましたよね。戦って勝ったら、この件は水に流すと」


「ええ」


「だったら、無罪の人間にありもしない罪を吹っ掛け、名誉を貶めたってことだ。そんときは、お前責任取れんだろうな?」


 いくらなんでもそれは理屈が厳しい。頭悪い私でも無茶なことを言っているのは分かる。


「そのときはいくらでも責任をとってあげるわ。あなたたちの好きなようにね」


 だけど、フブキさんはそんな無茶な提案も飲み込んだ。


「上等だ!! だったら、全員家畜に堕として、身体が壊れようと心が使い物にならなくなろうと好き放題使ってやるよ。ログインしなきゃいいなんて思うなよ? リアルでも特定して地獄の果てまで追っかけてやるからな! 覚悟しやがれ!!!!」


 そう言うとPON吉は吹っ切れたようにこちらを睨み、


「やってやんよ……! やってやんよ!!!」


「最後に笑うのは俺たちだニャ!!!」


 コンチとドラ助もそれに続くように、爪や牙を見せる。

 その瞬間、フブキさんがパチリと指を鳴らしたかと思うと、私たちを縛りつけていた鎖が解けた。


「さぁ、あとはあなたたち次第。くれぐれも私を失望させないでおくれよ」


 フブキさんは計画の仕上げを私たちに委ねた。幹部たちに裁きを下すため綿密に組み立てた計画の、大事な大事な最後の一手を。


『終わり良ければすべて良し』って言葉があるように、たとえ序盤が上手くいかなくとも最後さえよければなんとかなる。でも、逆を言えばどれだけ上手く作戦を立てて相手を追い詰めようとも、最後で決めきれなければそれは負け。


 だからこそ締めが最も重要なんだ。


 幹部たちを懲らしめるのなら、掟の力を使って問答無用にフブキさんがヤツらを裁くのが一番確実な方法だ。絶対権力として君臨する彼女が一言命じればそれで全て事足りる。

 でもフブキさんはそうしなかった。幹部どもの心を完膚なきまでに折り砕くため、理詰めで逃げ道を丁寧に潰し、ヤツらが自分たちのために作り上げた『掟』さえも利用し、ヤツらと真っ向から戦ったのだ。


 その上で、フブキさんはあえて私たちを最後のピースに添えた。虐げてきた対象に自らが裁かれるという屈辱を味わせるため。完全なる勝利のために。


 私たちがしくじれば計画は全部パー。責任もフブキさんからの期待も重大。とんでもないことを押しつけられてしまったものだ。

 しかし、それだけのことをフブキさんは任せてくれた。私たちと龍子さんならできると、そう信じて彼女はこの作戦を組み立てたのだ。


 結局のところ、フブキさんは私たちを駒として利用しているという事実には行き当たってしまう。そもそも、ここに来たのもフブキさんがキッカケだし、思えばそこからずっと利用されてばかり。

 だけど、彼女が私たちを信頼して起用してくれるなら嫌な気はしない。それにあの幹部(クソ野郎)どもを思い切りぶちのめせるというなら、利用されるのも悪くない。


「さあ、悪人ども。お前たちが虐げてきた者の悲しみ、痛み、苦しみ、そこに陽彩やクロちゃん、そして龍子さんへの暴言、暴力、もろもろ含めてきっちり返してやるから」


「我々は身も心も獣に捧げた真のケモナーだ。ケモミミ、シッポだけなどという劣った奴らを支配して何が悪い! それに、半獣人なんていうケモナーの風上にも置けない奴には何をしたっていいんだよ。だから、我々は何も間違っていない……!」


「お前たちは間違ってる。個人が何を好きか、そこに優劣はない。ケモ耳や尻尾だけのケモナーとしては少し物足りないかもしれないところを好きだろうが、どっぷりケモナーだろうが、互いに認め合い、好きなものを愛でる。それが愛好会(ファンダム)だ。

 それを私利私欲のためにかき乱して、同じ性癖をもつ仲間同士が集まる憩いの場を壊し、さらには龍子さんを傷つけたお前たちを私は絶対に許さない」


「許されようが許されまいが知るか。勝てばこのクランの全てが手に入る! 私たちはてめぇらぶっ倒して勝ち取るだけ」


「まぁ、そもそも頭の悪そうな人間に、気持ち悪い化け物、半獣人(はんぱもん)に負けるわけないけどニャ!」


 幹部たちの声がとても遠くに聞える。


 自分たちのために多くの人を見下し、なお他人を、私の大切な人を傷つける。それが極限まで追い詰められて露見した、ロールプレイでもない正真正銘奴らの素なのだ。

 そんな彼らが空虚で、哀れで。

 どれだけ騒ごうとも、その声はもはや私の耳を右から左に抜けるだけだった。


「もういい。これ以上あんたらの顔を見るのもウンザリ。三匹まとめてぶっ倒す」


「一番使えなさそうなヤツがデカい口を叩くなぁ。見るからに普通の人間でしかないお前に何ができるというんだ?」


「そりゃもちろん、信頼できる仲間と心も身体も一つにして戦うだけさ。

 いくよ、陽彩、クロちゃん、龍子さん!」


 左を向くと、クロちゃんと陽彩は優しく微笑み、頷いてくれた。しかし、逆の方に立っていた龍子さんは不安げな表情で私を見ていた。


「それは駄目です。だって、また暴走してしまうかもしれないんですよ! もう、私の身勝手な性癖に皆さんを巻き込みたくないんです……」


 龍子さんは龍の腕を隠すように抑え、俯きながら寂しげに言った。

 彼女の暗く悲しげな顔をからは、これ以上自分の都合で他人を傷つけたくないという思いが痛々しいほどに伝わってくる。


 でも、私は彼女にそんな顔をしてほしくない。龍子さんには笑顔でいて欲しいんだ。


「大丈夫。言ったでしょ? 私たちはどんな龍子さんでも受け入れるって。それに今度はみんなで、誰よりも近い場所で龍子さんを支えますから。暴走だってきっと乗り越えられるはずです」


「しかし……」


 そう言うと、龍子さんは再び目を泳がせてしまう。

 そんな彼女の腕を私は取った。誰にも触れさせ傷つけまいとひた隠す、龍の腕を。


「私は龍子さんの腕が、ううん。あなたが欲しい。だから、力と身体を貸してくれませんか?」


 私の言葉に、龍子さんは瞳を潤ませていた。宝石のような龍の瞳にはうるうると輝くものが溢れ、普段はキュッと結ばれているはずの唇は半開きのまま。

 凛々しい顔とのギャップに心を打たれてしまいそう。


 龍子さんは普段の彼女からは想像もできないような表情を私に見せ、そして笑った。その笑顔は爽やかで、眩しくて。やっぱり、龍子さんは笑っている方がいい。


「不束者ですが、よろしくお願いします」


 龍子さんは私の願いを快諾してくれた。

 彼女が一緒に戦ってくれる。それ以上に心強いことはない。


「んで? 奴らをぶっ潰す策はあるん?」


 陽彩が軽ーい感じで聞いてくる。


「もちろん」


 私は自信たっぷりに答える。


 とはいえ、それは一つの賭けだ。成功するかどうかは全くの未知数。我ながら行き当たりばったりにもほどがあるとは思う。

 でも、これなら絶対に奴らを倒せる。今はそう思わずにいられない。


「クソみたいな茶番は終わりかぁ?」


 クソみたいなタヌキが横やりを入れてくる。

 まったく、感動的な雰囲気が台無しだ。どうしてくれようか。


「さぁ、みんないくよ!」


 そんなもん、一発分からせるしかないよね。


 龍子さんが私の顔を見る。


「ルナさん。ボクはどうしていればいいんです?」


「手を、このまま繋いでいてください」


 無言で頷く龍子さん。


「クロちゃんも、手を!」


「うん……!」


 私は両手で龍子さんとクロちゃん、それぞれと手を繋ぐ。

 龍の手とゾンビの手、それぞれ違う感触。二人の腕は彼女たちの想いの形であり、心の現れだ。龍子さんとクロちゃんは全く違うし、当然私ともまるで違う。

 だけど、私たちはこうして手を取り合い、心を一つにすることができる。だったら、身体も一つにすることだってできるはずだ。


 それが私の賭け。龍子さんとクロちゃんに同時に憑りつき、さらに陽彩の身体に潜り込んで行う、多重憑依変身(トリツキチェンジ)

 ゲームの仕様上できるかどうか定かではないけれど、私の性癖(スキル)と陽彩の身体、そして心を一つにしてる仲間がいるんだ。できない理屈がどこにある。


「いくよ、陽彩!」


「マジぃ!? 三人同時なんて、ウチの心ガバガバになっちゃいそうなんですけど!」


 口では嫌がっているけど顔は満更でもない感じ。まったく、身体は正直だねぇ。

 それじゃあ、遠慮なく!


「【憑依】発動!」


 私と手を繋いでいる二人の身体が半透明の霧状になり、陽彩の身体へと吸い込まれてゆき、


「からのー、多重憑依変身!!!」


変身(イメージチェンジ)】を発動すると、陽彩の身体が眩い光を放ちだす。


 腕腕脚脚身体胸。


 全身という全身が輝きだし、やがてこの身体を完全に覆い隠してしまう。


 始まった。その瞬間に心の中でガッツポーズ。

 陽彩の変身が始まったということは私の無謀が世界(ゲーム)に承認されたということ。つまりは賭けに勝ったのだ。


 さて、どんな姿になるのやら。今度は()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()、私は期待と興奮に胸を躍らせていた。


 心臓が鳴る。ドクンと、壊れてしまいそうなほど、大きく強く。そして一つ脈を打つたびに左腕と右脚は熱く疼く。


 これは予兆。龍子さんと一つになった証。


 刹那、身体から放たれている光がその形を変える。辺りを照らす眩い光は細く帯状に変化してゆき、繭のように身体を幾層にも包んでゆく。


 これも予兆。こっちはクロちゃんと一つになった証。


 半分の手足に自然と力が入る。でも、逆の手足は感覚が消えてゆく。


「うぉおおおお!!!」


 身体の奥底から際限なく力が湧き立ち、叫ばずにはいられない。


 身体が書き換えられていく。じわりじわりと蝕むように、しかし烈火の如く急激に。

 普通ならあり得ない変化だけれども、陽彩の身体を好きに弄り回してると感じられて、この感覚が堪らない。


 ジュクシュク、グチュッ。

 右腕と左脚が色艶を失い腐ってく。光の帯は包帯となり、朽ち果てそうな身体の肉を縛り上げる。

 ピチピチJKの綺麗な手足は防腐処理とは無縁の月日に曝された死体の手足へ早変わり。


 メリメリッ、バキッ。

 左腕と右脚の皮膚を突き破り、黒光りする大きな鱗が生えてきた。

 グバッ。

 鱗は手足の付け根の方から段々と末端の方に押し寄せ、やがて指先まで完全に覆い尽くす。手のひらや足裏は岩肌のように変貌し、一瞬にして乙女の半身はドラゴンに変化。

 見れば惚れ惚れするような、龍子さんの腕と脚だ。


 しかし、そのドラゴンの手足を、どこからともなくやってきた光の包帯がガチガチに【拘束】。テーピングのように縛り上げると、そこで光が爆ぜた。


 みんなの心が一つになって、みんなの身体も一つになった。

 いつもより多い四人での憑依。龍子さんとクロちゃんが一緒にいてくれるおかげで、いつもより心がポカポカと温かいようなそんな気もする。


 包帯でガッチリ拘束された左腕を動かしてみると、見た目に反して案外普通に動く。手を開いたり閉じたりするのも問題なし。


 一つの身体に魂が四つも入っていて上手く身体を動かせるかというのも心配ではあった。しかし、この分なら問題なく動かすことができそうで──問題なく奴らをぶん殴れる。


『マジでさぁ、ルナ容赦ないよねぇ。ウチの身体どうなっちゃうん?』


「まぁ問題ないでしょ。こうして上手くいったんだから」


『あの、こんなに密着してしまうと、いろいろと……!』


『えへへ……。みんな、一緒……!』


「なっ、何をしたニャ!?」


変身(イメージチェンジ)】した私たちの姿を見て、幹部たちは見たものが信じられないといったご様子。慌てふためき、驚きを隠せずにいた。


「一体なんなんだよ、その姿は?」


 確かに異様な姿だ。


 左腕と右脚は荒々しく力強いドラゴン。右腕と左脚は包帯ぐるぐる巻きでそこからチラ見えする素肌は青黒く生気のまるでないゾンビ。陽彩のすべすべで色白な手足はまるで怪物のように変貌してしまった。

 髪の毛だって右半分はボーイッシュな黒髪ショートだし、逆サイドは左目を覆い隠しているグレーアッシュのショートボブだ。


 元の陽彩の姿とは大きくかけ離れ、変わらないのは制服の中から弾け出しそうなほどに自らの存在を主張する大きなおっぱいくらい。


 チグハグで統一感はまるでなし。人によっては気持ち悪いとさえ思うかもしれない。


 でも、それがいい。龍子さんとクロちゃんの姿が混ざり合っているこの姿こそが、異なる他者を信じ、互いに認め合うことで生まれた奇跡の姿なのだから。


「名付けてギャル陽彩『ゾンビドラゴン形態(フォーム)』ってとこかな」


「し、しかし……! お前たちがどんな小細工を使おうと、我々には敵わない!!」


 PON吉が幹部たちの意見を総括するように言い放つ。奴らとは全く共感ができないししたくないけれど、ここにきて言いたいことは奴らと同じ。


「あんたらがどんな手を使おうと、私たちは負けない」


 苦しい目に合わされたみんなのため、そして何より龍子さんのため。私たちは絶対に勝たなければならない。

 私は幹部たちをギッと睨んで言い放つ。


「御託は十分。さぁ、試練を始めようか!」

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