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「VS【暴走】龍子さん!!」

 その心は破壊衝動の塊、その存在は全てを喰らいつくす龍そのもの。

 それが本気の龍子さんと対峙して思う第一印象だった。


 龍子さんの雄叫びに気づき、陽彩(ひいろ)に憑依した私とフブキさんが石柱の影から左右に分かれて飛びだした瞬間にはもう、龍子さんの左腕がその柱を砕いていた。大人二人が余裕で隠れられるほどの大きな柱も彼女にかかれば一撃で木っ端微塵。


 あまりにも速く、あまりにも強い、常識をどこかへ投げ捨てたかのような一撃。その攻撃を間近で目の当たりにして、改めて暴走した龍子さんの規格外な強さを実感し、その存在は半人半龍といえど紛れもなく龍なのだと思い知らされる。


 柱を壊した龍子さんはどデカい雄叫びを上げた。彼女の咆哮は空気を揺るがし、身体の芯へと直接ズシンと響く。手で耳を塞ごうとも聴覚へのダメージはそれなりのもので、耳鳴りが激しく頭の中に鳴り響いている。


 満月に向かって吠える龍子さんは笑っていた。その笑顔は割れたガラス片のように尖っていて、私たちに見せたにっこりと優しい微笑みとは真逆のもの。だけど、それはどこか誇らしげで、「やってやった!」と高らかに言っているような感じ。彼女が【暴走】を本当に楽しんでいるんだってのが伝わってくる。


 だからこそ龍子さんはとんでもなく強いのだ。元々の能力(ハーフドラゴン)、【暴走】のスキル効果、そして愛と、綺麗に三拍子揃ったシステムの理に適ったコンボ。それが(りゅうこさん)の恐るべき実力を形作っている。

 だとしても、私たちはそれを超えないといけない。彼女を救うために。


 逡巡していると、月に向かっていた龍子さんの顔が次の獲物を求めて下り始める。彼女の最初の攻撃のとき、私は左へ、フブキさんは反対方向の右へとばらけて避けた。だから龍子さんが右を見るか、左を見るか。それでこの先状況が全て決まるといっても過言ではない。私はフブキさんと目配せし合い、どちらになってもいいように二人して同時に身構える。


 空を眺めていた視線がゆらりと獲物の方を向く。向いたのは、左。

 獲物は……私!

 宝石のように美しい眼が獲物(わたし)を見つめ、中心にある瞳孔が縦にくっと閉じた。


 ――ヤバい。


 その視線に私の背筋が凍る。昂った闘争本能が逃げろと全力で告げている。

 すぐさま本能に従って逃げようとした。しかし、私が動くよりも先に、龍子さんは腕を開いて右脚(りゅうのあし)を引き、半身で構えた。


「ハァ……ハァ……グルルッ!」


 彼女の荒々しい吐息が途切れ、身体が微かに沈み込む。


 来る……! 

 そう感じた、瞬間。


「ワォーーーン!!!!!!!!」


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


     『鼓狼(ころう)の遠吠え』発動


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 龍子さんの雄叫びに負けぬほどの、月にまで届きそうな遠吠えがこの場を包んだ。

 なんだなんだと見回してみると、フブキさんが天に向かって吠えている。そんな彼女の周囲には赤い光のエフェクトが出現し、その光が湯気みたいに空に向かって立ち上っていた。


 すると不思議なことに、私から一切視線を外さなかった龍子さんがくるりとフブキさんの方に向き直り、攻撃の構えをとったのだ。


「今は私が引き受けた。あなたたちはその間に隠れて隙を窺え!!」


 そう私たちに告げるフブキさんは一回りほどパンプアップしているような気がした。違和感にちょっと戸惑い彼女を見ると、彼女のHPバーの横に赤い上向き矢印と目玉のようなアイコンが出ていた。


 状況とエフェクトとアイコンから察するに、どうやらさっきの遠吠えは能力変化系の性癖技(アーツ)らしい。とすると目玉のアイコンは――このゲームがオヤクソクから外れていなければ――敵からのヘイトが上昇している状態を表すもの。つまりフブキさんは自らの能力上昇と引き換えに、龍子さんの攻撃対象を自分に向けさせ、私を庇ったのだ。


「どうして……?」


「そういう作戦でしょ!」


 ヘイトを集めるということは当然、龍子さんの視線が自分に向くことになる。しかし、その睨んだだけで人を殺せそうな視線を受けても、フブキさんは臆することなく立ち向かおうとしている。龍子さんの気迫に一瞬押されてしまった私にしてみれば、「あの子を止められるのは私しかいない」というフブキさんの言葉が大げさでないと今分かった。


「頼みますっ!」


 私はフブキさんを信じ、濃霧玉を足元に投げつけ龍子さんからの視界を完全に切り、煙の効果時間内に近くの瓦礫山の陰へと身を隠した。居心地こそ最悪だけど、ここなら二人のこともよく見える。


 仁王立ちで立ちすくむフブキさんに、龍の腕と脚を目標に向け攻撃の体勢を取る龍子さん。片や巨獣、片や龍の化身。その生物頂上決戦とも呼べる戦いが目の前で始まろうとしている。そんな一大イベントに、私は課せられた責務を半分忘れてその様子を見入っていた。


「大丈夫、あなたは私たちが止めてみせるッ……!」


「ガァッ!!!!!!」


 同時。

 狼獣人と半人半龍が駆け出す。

 巨体と龍の力が激しくぶつかり合い、空気を震わせるほどに重々しい衝突音が鳴った。

 二人(二匹)はそこから互いの手を掴んで取っ組み合いに。両者とも組み合ったまま動けず、実力は拮抗しているといったところ。でも、フブキさんはかなりキツそうな表情を浮かべており、歪な笑顔を浮かべる龍子さんに分があるように見える。

 硬直したまま動けない両者。しかし、小刻みに震える筋肉が表面からは見えない水面下での激しい力のやり取りを物語っている。


 続けられる両者の力比べ。

 でも、終わりは唐突。


「フンッ!」


 フブキさんが仕掛ける。彼女は取っ組み合ったまま、龍子さんの頭を頭突いた。

 ゴッ、っとコンクリに頭を叩きつけたかのような音が聞えてくる。人の身体から出ちゃいけない音が。

 その威力は龍子さんをたじろがせるほど。痛みを堪えられず、組んでいた腕が外れ、彼女は一歩後退った。


 フブキさんはそこに攻め込み、隙だらけの龍子さんへ本気の拳を乱れ打つ。

 身体、顔、お構いなしにとにかく殴って、殴って殴る。その衝撃音は爽快感の溢れるゲーム的な感じではなく、ゴスンゴスンと生々しい。


 絶え間なく放たれるフブキさんの拳。しかし龍子さんはその合間を縫って左腕をフブキさんの脇腹に突き刺す。


「……あ゛あ゛っ!」


 堪えきれずフブキさんは声を上げた。


「ふう゛っ!」


 そこへ追撃が迫る。顔を狙った右ストレート。

 フブキさんは痛みに身体を縮めながらもパンチを二の腕でいなし、龍子さんの頬を殴って反撃。龍子さんは衝撃で一瞬後退するも、フブキさんに迫り、両者は再び組み合う。


 距離が近く、二人はほとんど抱き合っているようなもの。見る人が見れば大型犬とじゃれ合っている飼い主の関係に見えなくも無いが、両者共に大口開けて牙を剥き出し、呻りを上げて睨み合っている。

 龍子さんがフブキさんの首元へ噛みつこうとガッと頭を伸ばす。

 フブキさんはその顔を振り払うようにビンタし、それを阻む。龍子さんの顔に爪が突き立てられて綺麗な頬に赤い二本線が走るも、龍子さんも負けじとフブキさんへドラゴンビンタ。


 ノーガードの壮絶な打ち合い。二人の超ど級のバトルは迫力があるなんてもんじゃなく、強大な力と力がぶつかり合う様はガチの怪獣プロレスといっても過言ではない。

 互い身体はズタボロに傷つき、傷口から滴る血が体毛やコートを濡らす。HPゲージの残量がゴリゴリと無くなってゆき、まさに死闘というにふさわしい様相を呈していた。


 そんな状況が続いていてもなお、龍子さんは笑っていた。むしろ殴り合っている今の方が楽しそうだとハッキリと伝わってくるよう。あの龍子さんをこんなにしてしまう【暴走】というものの凄さ、それに戦いの迫力を目の当たりにして、冷や汗が頬を伝う。


 何度も続くビンタの応酬。その最中、フブキさんが龍子さんのビンタを掻い潜り、彼女の首元に噛みついた。龍子さんは呻き鳴くが、フブキさんはお構いなしに嚙み続け、そまま龍子さんを一気に押し倒してマウントを取ってみせた。


 フブキさんは馬乗りの体勢から龍子さんへと猛烈な連打を浴びせる。そして、彼女は大きく腕を振り上げた。


「いくぞぉおおお!!!!!」


 迷いなく振り下ろされる拳。

 フブキさんのフィニッシュブロー。


 を、


 ――ガシィッ


 龍の腕が掴んで止めた。

 そしてあろうことか、


「ウォゥ!!!!」


 龍子さんはマウントを取られている体勢から左腕の力だけで、自分に馬乗りになっているフブキさんを投げたのだ。


 投げ飛ばされたフブキさんは、私の隠れている瓦礫の山に直撃。墜落したまま大の字で瓦礫に寝そべるフブキさんは全身傷だらけで、赤いバフエフェクトも消え元の体格に戻っていいた。


「だ、大丈夫ですか?」


「ああ。あなたがくれた魔剤(かいふくやく)のおかげでなんとかね……。それよりも、そろそろ交代ね」


 フブキさんはそう言うと、身体を起こしながら龍子さんを指さした。

 龍子さんは戦闘体勢は崩していないものの、大きく肩で息をしている。HPゲージも半分ほど割れていて、今のフブキさんとの戦いで相当消耗しているというのが見て取れる。


「次はあなたたちの番。むしろここからが本番といってもいい。さあ、作戦通りに止めるわよ」


 フブキさんの言葉が私の気を引き締める。観戦者気分はもうお終い。フブキさんが命がけで託してくれたチャンスをふいにするわけにはいかない。やってやるさ、なんとしても!


 龍子さんは私を睨み、腰を落として爪をこちらに向けた。不思議なことに、今まで薄ら笑いだった彼女の顔から笑顔が消えている。彼女は今まではただの遊びだったとでもいわんばかりに、息を荒げ、目を鋭くしている。


「来るぞ!!」


 本気なら、それも上等!

 龍子さんの殺意に負けないよう力強く視線を返し、駆け出す。


「ガォオオオ!!!」


「うぉおおお!!!」


 私と龍子さん、スタートは同時。

 龍の力に任せた爆発的な初速。一瞬で龍子さんが目の前に。

 彼女の龍の腕は既に引かれており、攻撃の準備は既に整っている。


 状況的には向こうが有利。だけど、黙ってやられる私ではない!

 私は胸を張り、おっぱいをグッと突き出して、そのまま龍子さんに向かう。

 逃げず、避けず、ただ構えあの攻撃を受ける。普通の盾ならまず無理。でも、この(おっぱい)ならッ! 


 互いの間合いが触れる。

 龍子さんがを振るい、私が胸を強調する。


「ふん゛ッ!!!」


「おっぱいバッシュ!!!」


 私の心臓を正確に狙った突き。でも龍子さんが持つその正確性が仇となり、突きはおっぱいの判定に吸わてしまう。

 爪が胸と触れ合う瞬間、両者は反発し合い、私と龍子さんは一メートルほど後退る。


 龍子さんのドラゴン突きは予想通り陽彩(わたし)の胸に弾かれ無効化された。一方で私も全力で胸をぶつけにいったわけだが、突きの衝撃に押し切られてしまい龍子さんの体勢を崩すには至らなかった。互いの攻撃は相殺され、両者にダメージはない。


 次の攻撃へ移ろうと龍子さんを見れば、彼女は既に左腕を振り上げ攻撃のモーションを取る。そのまま私に迫る龍子さん。そんな相手に対し、私は更に突撃してあえて距離を詰め、彼女の手の届く範囲の内側へと潜り込む。互いの身体と身体が触れ合いそうになる距離にまで。

 端から見れはば攻撃を喰らいに行くようなもの。だけど、これでいい。


 私が龍子さんの攻撃モーションを視認したとき、その左手は爪を立てるようにして開かれていた。そうならば、そこから繰り出される攻撃は突きではなく薙ぎ払い。だから斬撃の内側に飛び込めばその攻撃を、躱せる。

 龍子さんの間合いの中、私は右腕を掲げ向こうの左腕に噛ませ、攻撃をブロック。


「――ッ!」


 龍子さんは私の予想外にたじろぐ。

 更にもう一つ。身体が触れあう寸前の距離ということは、胸同士も触れ合う寸前ということであり、そしてそこは既に私の領域内だということ。


「とりゃあ!!!」


 間髪入れずに身体(おっぱい)タックルで龍子さんを弾く。大質量(ゆたかなむね)の直撃に耐えかね、龍子さんは片膝を付いた。体勢を崩した龍子さんに拳を振るい更に攻め込む。しかし彼女も私の拳にタイミングよく龍の腕を重ね、私のパンチをいなして防いだ。

 もう一撃。左拳を叩きこむ。しかし攻撃が届く前に見切られ、パンチした拳ごと掴み取られてしまう。


「ぐぐぐっ……」


 人間サイドの腕で掴まれているというのに、手がミシミシと悲鳴を上げており、今にも潰れてしまいそうなほどに痛い。やはり一筋縄ではいかないらしい。

 龍子さんは私の拳を掴み、攻めを防いだままゆっくりと立ち上がる。龍の瞳に上目遣いで見上げられていた目線が対等になり、やがて見下されてしまう。それは今の力関係を見せつけられているようで、あまりいい気はしない。


 私はその辺の思いを乗せて、龍子さんのお腹を思い切り蹴飛ばす。

 蹴られた彼女は私の腕を掴んでいる手をはなし、形勢は再びフェアまで戻る。


 今の蹴りで龍子さんに生じた隙目がけ、私は殴りかかる。しかし、龍子さんは(りゅうの)脚でバックステップ。脚の爪で地面を抉りながらの回避は素早く、彼女は私の間合いからするりと逃げおおせた。

 私の攻撃を躱した龍子さんは得意の(ドラゴン)ストレートで反撃してくるも、私は陽彩のしなやかな身のこなしで何とか回避。


 そのまま私は右脚へとローキック。でも効果はほとんど無さげ。お返しにと回し蹴りがとんできて、爪先が胸を掠める。


 躱し、躱され。一進一退の命がけのやり取り。

 その間、私を力強く睨む龍子さんの視線は一切外れない。こんなにも熱い視線を向けられると気が触れてしまいそう。

 実際、陽彩がいるから大丈夫でいられて、こうして戦い続けられている。彼女がいてくれなきゃ私は気絶するかとっくにチビってると思う。それだけ陽彩は私にとっての救いなんだ。


 だから頑張れる! 憑依してる(ひとりじゃない)から!!


「ギャルパンチ!!!!」


 龍の腕の防御を縫って、龍子さんに渾身のパンチを見舞う。龍子さんはふらつき倒れそうになる。その様子を見てそろそろ頃合いだと感じたが、感じる違和感。何かがおかしい。


 もう一度龍子さんを見る。下に向かって倒れ込もうとしているが、その表情は笑顔のまま。そして――妙に左腕が上がっている。


 そういうことか……! これはヤバい……!!!

 龍子さんは左手を私の頭の上にセットし、地面に倒れるついでにそのまま振り下ろして私を倒そうとしている。なんたる超判断! 

 しかし、今の私にはもうどうしようも――


「うらぁ!!!!」


 そのとき、フブキさんが龍子さんに体当たりをかまし、龍子さんを私の遠くへ突き飛ばしたのだ。おかげで叩きつけは回避できなんとか死なずに済んだ。


「ありがとうございます」


「あの子もなりふり構わずってところね。こうなったらあの子、確実に次の一撃で決めに来る。準備はいい?」


「はい!」


 拳を力強く握りしめ、ファイティングポーズで龍子さんと向かい合う。隣にいるフブキさんも再び戦いの姿勢を見せる。


「フブキサンハ……ココウノソンザイ。……ダレトモ、カップリング……シナイ!!!」


 龍子さんはそう叫び、自慢の跳躍力で高く跳んだ。その影はジャンプの頂点で満月に重なり、彼女は空中で(りゅうの)脚を突き出し、跳び蹴りの構えを取る。

 これは同じだ。あのとき、私がパリィしきれなかったときと。

 意図的か、はたまた偶然か。奇しくも状況はほぼ同じ。ただ、今度は前と違って、失敗すれば龍子さんの想い、フブキさんの想い、そして私たちの想い、全てが終わる。


 威力もとんでもなく増してそうで、背負うものも重みを増した。普通に考えたら今度も……。そう思ってしまう私がいる。


『大丈夫、ウチがついてる』


 でも、今は陽彩がより近くにいてくれる。


「だから、必ず弾いてみせる!!!」


 龍子さんはどんどん速度を増し急降下。蹴りの威力を計算したらいくらになるのか、想像もつかない。どんどん距離は迫り、もはや蹴りから逃れられない距離となった。

 勝負は一瞬、一度きり。龍子さんと一緒に笑うため、私はこの一撃に全てを賭ける!


「グラァアアアアアアア!!!!!!!!」


「おっパリィイイイイイ!!!!!!!!」


 互いの気迫、そして胸と脚がぶつかる。

 あまりの勢いに、ぐにぐにと脚が胸に沈み込んでゆく。大きな胸は思い切り潰されて、平面へと強い力で押しつけられているように平たく、ぶにゅっと形を変えてしまう。

 痛い、優しさの欠片もない自分だけ気持ちいい独りよがりの足わざだ。それでも、私を倒してしまえるだけの(テク)はある。だけど、私はこの胸の防御力を、陽彩(この)の胸を信じている。だから、負ける気しない!!!


「セイヤァアアアア!!!!」


 堂々と胸を張り、蹴りを弾き返す。ドラゴンキックをパリィされた龍子さんは反動でそのまま空高くへと投げ出された。


「フブキさん!!」


「任せろ!!!!」


 フブキさんが宙を舞う龍子さん目がけて跳躍。そして無防備な龍子さんに対して空中で攻撃の構えを取った。


「普通なら使えない、後先無視の完全燃焼(フルバースト)だ! 【狼牙(ろうが)月光撃(げっこうげき)】」


 フブキさんの銀色の体毛がほのかに光を放ち出して、ほのかにオーラを纏うフブキさん。そのオーラは構えた腕へと集結し、フブキさんの腕を金色に輝かせる。


「【(つい)砕月(さいげつ)】!!」


 フブキさんはその腕を思い切り龍子さんへと叩きつけた。フブキさんの腕の金色はインパクトと同時に目も眩むほどの光と変わり、火薬が炸裂したかのような音が辺りを包む。

 名前の如く、その攻撃は夜空に輝く月をその手で打ち砕くかような性癖技(スキルアーツ)で、それをまともに受けた龍子さんは打ち落とされ、地面に小規模のクレーターができあがる。


「今だ! やれ!!!」


 フブキさんは叫ぶ。想いを私に託すように。

 彼女は十分すぎるくらいに役割を果たしてくれた。あとは私の番。そしてそれは私にしかできない仕事! だから必ずやってみせる!


「憑依!!」


 フブキさんが叫ぶと同時に、私は【性癖(スキル)】を発動し、龍子さんの身体へ憑りつく。


 ぐっ……。なんだ、これ……!?

 燃えるような怒りで憑依した私の精神がヒリヒリと火傷させられてゆく。破壊衝動が私の心を端の方から黒く蝕んでゆく。ここにいるだけで身体が鋭利な刃物で刻まれているよう。【暴走】した龍子さんの心の中はガラス片まみれの重油のようだった。

 なのに、ずっとこうしていたいほど心地よい。思い切り叫び出したくなるほど楽しい。ビクンと身震いしてしまいそうなほど気持ちいい。

 これが龍子さんの感じているもの。性癖なんだ。龍子さんと同化することで。、私も彼女の感じているのと同じ感覚を味わう。しかしその快楽の奥には、恐怖、後悔、自責の念がある。龍子さんの優しい心が。だから何としてでも、止めなければいけない。


 地面に叩きつけられた龍子さんの身体が私の支配を通り越して、勝手に立ち上がろうと動き出した。私は制御しようと必死にその行動に抗う。しかし、龍子さんの衝動の方が大きく、身体を持っていかれそうになる。

 これは……だいぶヤバい。思ったそのとき、


『ルナ、頑張れ!!!』


 聞えてきたのは陽彩の声援。

 その声に身体が滾る。


 ――とまれぇえええええ!!!!!


 暴れ馬の手綱を引くように、龍子さんの衝動に力いっぱい抵抗してみせる。


『ありがとうございます……!』


 どこからか、そう言う龍子さんの声が聞えたような気がした。

 瞬間、こと切れたかのように身体からスンと力が抜ける。私っが憑依する龍子さんの身体はドサッと地面に倒れ込んだ。

 同時に憑依が解除され龍子さんの傍に具現化する、私と陽彩。そんな私たちは同時に顔を見合わせる。


「やったんだよね……?」


「もちろん! ルナめっちゃ凄いよ!」


 陽彩に褒められつい笑みが零れてしまう。でもそれ抜きでも、達成感と嬉しさで舞い上がってしまい、自然と笑顔になってしまう。


「やりましたよ、フブキさん!!」


「ああ、そうだな!」


 この気持ちを分かちあおうとフブキさんを見ると、彼女も傷だらけではあるもののいい表情を浮かべた。


 しかし、いきなりフブキさんの表情が曇り、なぜか苦虫を嚙み潰したような顔になってしまった。


 フブキさんの視線の先――というか私たちの周りには、いつの間にかに牙を剥き出し爪を立てる獣人たちと、コンチ、ドラ助、そしてPON吉がいた。

お読みいただきありがとうございました!


「面白い」、「先が気になる」などありましたら是非ともブクマ、評価、感想での応援よろしくお願いします!

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