「同じ想いがひらく道」
「あの暴走は内側から制御できる」
一人で戦って止める以外に【性癖】によって暴走する龍子さんを止める方法はないと言い張るフブキに、陽彩はバシッと言ってやった。
そうか……それなら!
私は陽彩のその言葉を聞いてピーンと閃く。
「私と陽彩でもう一度龍子さんの中に入り込んで抑え込めばそれで――」
「馬鹿を言うな」
私的にはナイスな提案だと思ったが、酷いことにフブキは鼻で笑って遮った。
「あなたたちが完全に制御できていたとしたら、あの子は暴走していない。中身が力不足だったからあの子は暴走した。それにあなたたちは龍子の精神から追い出されたからこうやって元に戻ったんじゃないの? それでどうやって精神に入り込む気?」
「それは……」
「訂正してくんない? ルナは制御できていた! 力不足なんかじゃない!!」
陽彩は私を庇い、フブキへ勢いよく言い返す。でも、言われていることが完全に的外れな煽りというわけでもないから、それでも私を庇ってくれる陽彩に対して少し申し訳なさがある。
確かに、フブキさんの言ったことの後半、憑依が解除してしまった部分に関してはその通りだ。ただこうなったしまったとして、精神に入り込む方法が無いわけじゃない。それに暴走の制御に関しては、陽彩が言うように実際私はできていた、と思う。
フブキさんの言うように、龍子さんの暴走は私の力が及ばなかったせいかもしれない。ただ、何か変な注射器が肩に刺さったこと――私の及び知れないことが要因として絡んでるかもしれないことは事実なんだ。
と、言いたいところだけど、フブキさんからこう、ガツンと強い態度で言われてしまうと、萎縮してしまって言いたいことも言うべきことも何も言えなくなってしまう。
私の気の小ささというべき悪い癖が出て、なんか嫌になる。
「だったら言うけど、アンタ言ったよね? 暴走している龍子と渡り合えるのは全力の私だけって。そのボロボロの身体で全力で戦えるわけ?」
「こうなったのは誰のせいだか」
「話を反らさないで。で、どうなのさ? できるの? できないの?」
私がまごまごしている間に、陽彩とフブキの話し合いは言い争いの寸前。その間にも龍子さんは暴走し続け、被害は増えるばかり。それに龍子さんの高笑いも、もはや唸り声と区別できないほどになってしまっている。
今こそ協力すべきで、こんな言い争いをしている場合ではない……! それに私の中で、協力できればいい感じになりそうなアイデアも浮かんだってのに……!
「やるのよ! できるかどうかなんて関係ない!」
フブキは凛とした表情で言う。しかしその表情の奥には若干の苦しさが透けて見えている。
「それじゃ中途半端に龍子を傷つけるだけでしょ。それで抑えきれなくて負けたら誰も救われないじゃん」
「とにかく、もうあんたらは引っ込んでて!」
言い合いも、龍子さんの勢いもこの場の全てがヤバい方に進んでいってる。このまま拗れ続けると、私のアイデアも含めて全てが修復不可能になってしまう。そんなのは嫌だ。
『龍子さんを救いたい』その想いはみんな同じはず。でも陽彩とフブキは譲らない。
だから私が……この場で二人を繋げなきゃいけないんだ!
「あの!!!!!!」
喉の奥から声を振り絞る。陽彩も、フブキも、そして思ってたよりも倍くらい大きな声が出てしまい、私も驚く。
フブキはそんな私の口を塞ぎ、陽彩の手を引いて、私たちを手身近な建物の柱の陰へと担ぎ込んだ。
「そんなにデカい出してあの子に気づかれたらどうするの! 今は目標がないから本能のままに周囲を破壊し尽くしてるだけで、ターゲットになったら一目散に向かってくるわ!」
「ご、ごめんなさい……。でも、龍子さんを助けたいなら二人も言い争っている場合じゃないでしょう! それに私の話をちゃんと聞いてもらいたかったんです」
「ルナ……」
「分かった、聞くわ。でも、手短に。今ので気づかれるのも時間の問題だから」
「龍子さんは私たちが内側から――」
「でもそれは――」
「黙って。まだルナの話は終わってない」
「確かに私たちが戻ってしまったのは、龍子さんがとても強い意思で私たちを追い出したからで、再び彼女に憑りつくのはかなり難しい。でも、不可能じゃありません。そのためにもあなたの力を借りたいんです」
「私の力?」
フブキは首を傾げる。
「強い意思で心をガードされてしまっても、心にちょっとでも隙があれば私の【性癖】で再び憑依することができます。その隙は驚きとか、恐怖とか、焦りとか、油断とか、魅了とか、ぶん殴ったりして放心状態になる瞬間があればあればどんなものでもいいんです」
「それで私の力を借りたいと」
「そうです」
「だったら、私が全部ねじ伏せればあなたたちの出番なんか要らないでしょう」
「さっきの戦いでお互いにかなり消耗してしまっているのは一目瞭然。でもそれなら、常に全力な必要はなくて、一撃、一瞬だけ龍子さんを力で凌駕してくれればそれでいいんです」
「ねぇ……」とフブキは声を震わせる。そして彼女は怒りや焦り、苦しみ、不安、様々な感情が入り交じってドロドロの排水溝のように濁った目で私を見て、手元の小石を握りつぶして言った。
「あなたも私にはできないと、私にはあの子を救えないとそう言いたいわけ!?」
誰もそんなことは言っていないし、思ってもない。そう思っているのはきっとフブキ自身。彼女の中の彼女が自分をそう責め立てているんだと思う。
きっとフブキはその強さゆえ、この状況の全体像を客観的に理解している。だからこそ、もっとなんとかしなければという使命感が彼女の心にのしかかり、自分以外何も見えなくなってしまっているんだ。
「そんなつもりはないです」
「だったら!」
「もう、分かってるんじゃないですか? クランの頭領にまで上り詰めたあなただったら、今の状況で龍子さんを止められるのか。自分一人の力で彼女を救えるのかどうか」
「分かっている……そんなの分かってる!」
フブキは力の限り拳を地面に叩きつける。
「だからこそ、尚更誰にも関わらせるわけにはいかない!
あの子の圧倒的過ぎる力は対峙し敗北する者に心の傷を負わせかねない。だから、その役目は私が引き受ければ、あの子だってむやみに誰かを傷つけるかもという恐怖に怯えなくて済む!!
消耗した今の私では誰かを守りながら戦うことはできない! でも私だけで戦うのなら、死ぬのは私だけで済む。それに死んだら死んだでコンティニューして何度でも挑み直せばいい。だから、あの子に誰も殺させたくないの!!」
「だったら、あなたは一番死んだらダメですよ! 龍子さんはあなたのことを、腕を褒めてくれた大切な人だって、とってもとっても心から想っています! でもそんなあなたを手にかけてたって、彼女が正気に戻ったときに知ってしまったら、それこそ心に深い傷ができちゃいますよ」
「それは……」
私の台詞に、フブキは困ったような表情を浮かべて言葉を詰まらせる。
「だから、力を貸してください! 私たちが協力すれば、誰の心も傷つかなくてよくなりますから!!」
「ルナ」という陽彩の声にハッとして気づくと、私は無意識にフブキの肩を掴んで迫り寄っていた。今更引っ込みもつかない。こうなれば流れだ、ってフブキの目をジッと見つめると、彼女は「ごめんなさい」と申し訳なさそうに目を反らした。
「今の私では正面からぶつかり合ってあの子を放心状態にさせられるかどうかすらも怪しい。こんな状態では、あなたが私に望むような働きも正直できそうにない……」
フブキの消耗は思っていたより激しい。しおらしい態度と弱弱しい声がそれを如実にものがたっている。そうならば、私たちもできることをして協力しないと龍子さんを止めることはできない。
「だったら、私たちが隙を作りますから、そこに持てる限りの全力を叩きこんでください」
「どうやって?」
「もちろん、おっぱいでパリィします!」
本当はおっパリィだけで怯ませられれば楽なんだけど、相手が理性のない力の塊みたいなもんだからそうもいかない。そういう状態の相手の精神に一番効くのは、更なる力をぶつけること。
そうするのが個人的には妙案だと思ったが、でもフブキの顔は晴れない。
「今の私が一言挟むのはおこがましいとは思うけどさ。あなた、半暴走状態のあの子の攻撃をパリィしきれなかったんじゃないの?」
そのことを知ってるとは……。私はちょっとだけ言葉に詰まる。
「大丈夫です、今度は絶対に弾ききります」
「何の根拠があってそう言うの?」
確かにあの場ではパリィしきれなかった。でも今は違う。絶対に大丈夫って言える、確かな根拠がこの胸にあるから。
「私はおっぱいが好き。でも、同じくらい陽彩が好きで、もっと言えば陽彩のおっぱいは最高に好き。そんなナイスバディを持つ大切な人が誰よりも近い所で私のことを支えてくれているし、それに胸を貸してくれる。それだけで安心できるし、自信も力も沸いてくるんです。だからあなたも胸を張って私を信じてください」
「なんか、身体だけしか見られてないような感じがするんですけどー」
「あっ……いや、そんなことないぃ……よ?」
私の反応に陽彩は頬をぷくっと膨らませるが、まんざらでもなさそうな感じ。
このやりとりを見ていたフブキはフフッと笑った。
「本当に面白いよ、あなたたち。そんなに面白いものを見せられては仕方がない。分かった、やろう」
「本当ですか!?」
「私が彼女と戦って気を引くから、隙を見てパリィして。その方がパリィの成功率も上がるでしょうし。でも言ってるように面倒はみきれない。だから、死なないでよ?」
「ありがとうございます!」
戦ってもらう以上、何もしないのは忍びないと思いアイテム欄を呼び出して漁っていると、『回復薬』が一本余っている。そこで、フブキへと差し入れをすることにした。
「あの、これどうぞ」
「申し訳ないわね。じゃあ私からはこれを」
そう言って差し出されたのは、『犬用ジャーキー』だった。互いにアイテムを手渡しするとき、ふとフブキの右腕の内側の痣のような模様が目に入った。
それは立派にハートの形をしていて――街で出会ったフブキさんに付いていたものと全く同じ形をしていた。
「グウォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
フブキの顔色が変わる。
「マズい、気づかれた」
すぐさま私はジャーキーを口に放り込み、フブキは缶に噛みついて器用に中身を飲み干しす。犬用非常食を食べたことでスイッチが入り、不思議と闘争本能に火が付いたような気がしてくる。
私は陽彩に憑依。横に目をやると、フブキさんも既に戦闘態勢に入っている。
「いくわよ、二人とも。覚悟はいい?」
「できてるよ」
”覚悟“を胸に、私たち物陰から飛び出す。
それとほぼ同時、激しい衝撃に破砕音。見れば、隠れていた柱は瓦礫と化していた。
二人と一匹、力を合わせて暴れ龍に立ち向かう──
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