最高で最悪なゲームスタート!
3/30 前半部分を改稿しました
1/1 後半の台詞を改稿しました
光が収まり目を開くと、私と陽彩は大きな噴水がある広場に立っていた。
足元は石畳、目に見える建物は全部石造りで三角屋根。顔を上げれば刃物みたいに尖った峰の山、群青色で塗りつぶしたような空、綿菓子のように白くてふわふわな雲。陽彩と一緒に少し歩いて裏路地に入り込むと、絵画の中に入り込んだみたいで凄く風情がある。
これぞ、欧州ファンタジーって感じ。これを作ったデザイナーさんは相当ファンタジー好きか、ヨーロッパ好きなのだろう。街並みの再現度や語りつくせないほど細かな作り込みは変態の域に達している。
風はさわやかで冷たく、日差しは柔らかく暖かい。
風に乗って小麦が焼ける匂いや、楽し気な人の声が私に届く。
最新のVRって凄いね。いい匂いを嗅いでいたら、お腹まで空いてきちゃった。
と思えば、街ゆく人々の中には宙に浮く半透明のウィンドウという、全く景色にそぐわない近未来的システムデバイスを展開している者もいる。
その両者が共存しているにもかかわらず全く違和感のないのを見ると、そういうところもVRゲームらしいなという感じがする。
そういえば、結局のところ私の数値ってどうなってるんだろう。測定が終わるや否やこの世界に飛び込んだもんだから、その辺が少し、いや大分気になる。ここらでいろいろ確認してみますか。
そう思い、私はとりあえず目の前を見る。
ゲームの基本はまず画面を見ること。この場合画面は視界ということになるけど、昨今のゲームは画面を見れば、説明がなくとも直感的に必要な情報へたどり着けるようなデザインになっているからだ。
視界にあるのはファンタジー世界、そして視野の端ギリギリに配置されている丸いアイコン。そのアイコンを注視すると、目の前に半透明のウィンドウが展開された。
そのウィンドウの中には『アイテム』、『フレンド』、などさまざまな項目があるが、私はとりあえず『ステータス』を確認してみる。
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プレイヤーネーム:ルナ
バディネーム:陽彩
【性癖力】:基礎性癖値×好きレベル
【巨乳フェチ】:50×10=500
【ブレザー服】:50×10=500
【憑依】:200×10=2000
【変身】:200×10=2000
【総合性癖力】:5000
【RANK:1】
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ええっと……? 細かいのがいろいろあるな……。一個ずつ確認していこう。
『基礎性癖値』はどれぐらいその性癖がヤバいかを表したもので、『好きレベル』は私自身がどれくらいその性癖を好きかっていう度合いによって決まるんだったっけか。そんでもって、その数値の合計が『総合性癖力』で、これが私の体力や攻撃、防御の値になるって話だったな。
でも、総合性癖力5000ね。果たしてこれは高いのか低いのか。
それを考えるにあたって、私は一つ気づいた。
ていうか、この数値ってとどのつまり変態度の指標でしょ? だって計算式がそう物語ってるもん。
私はおっぱいもブレザーも好きだけど、そこまでなる覚えは全くないんですが!? 計算間違ってない? というか【憑依】と【変身】の基礎性癖値が妙に高いのも腑に落ちない。この辺も普通に普通の方だと思っていたけど、一般的な性癖の【巨乳フェチ】との基礎値の開きを見るに、だいぶ特殊性癖だという烙印を押されたことになる。
確かに私はこれらの性癖大好きだよ? でも、こう客観的に数値化されると私ヤベぇじゃんって感想しか出てこなくて、なんともいえない複雑な気持ちになる。
そんな気分の中、振り向いて陽彩を見ると、彼女は日差しを受けてキラキラと輝いていた。
髪の毛はしっかり手入れしてるんだろうなってくらい艶々だし、はにかむだけで表情はキラキラしてるし。腕を組むようにして身体の前に回された腕が胸を強調して、無自覚にえっちさを振りまいていた。
その流石とも言える、隠れアイドル系美少女ぶりに、私は言葉を失って見惚れてしまう。
まとうオーラから違うし、私と同じ人種とは思えません。でも、だからいいんだけどね!
「ルナさん!」
「ひゃい!」
鈴を転がすようで少し落ち着いたトーンの、私の癖にドンピシャな陽彩の声に思わずびっくり。
だって彼女を作るにあたって、思い描いていたキャラクターボイスの声優さんにそっくりな声だったんだもん。
そんなところまで私の好みに作っていただいていいんですか? なかなかにメイン級の人を想定してましたが、そこを再現していただけるとは!
フェチフロ、最高。そう思う頃には私のステータスに関するモヤモヤは全部ぶっ飛んでしまっていた。
「あの、ルナさん?」
「はいっ! 何でしょう!」
彼女の呼び声でようやく意識が戻ってくる私。
「私は陽彩、と申します。どうぞよろしくお願いします!」
新学期に初めてのホームルームで自己紹介する感じで、陽彩が挨拶してくれる。
ハキハキとしいていて、それでいて丁寧で、この子がクラス委員をやってくれるんだろうなってみんなに思わせるような挨拶。
そんな挨拶に惚れ惚れとしていると、『ピコン!』という甲高い音が鳴り、視界の端に赤いビックリマークのアイコンが出現。そのビックリは点滅に合わせて、大きくなったり小さくなったりを繰り返している。
見ろってことだろうと思いアイコンを注視してみると、目の前にメッセージウィンドウが飛び出してくる。
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【称号:新たな世界へようこそ!】
『フェティシズム・フロンティア・オンラインへようこそ! ささやかではございますが、称号達成報酬をお送りいたします! 良きVRライフを!!』
【100000Gを入手しました】
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10万! ラッキー!! 太っ腹!!!
これがこのゲームのスタート報酬なのね。じゃあ、これでいろいろやりくりしろってことか。
まあ、それはそれとして。もう一度陽彩の身体を隅々まで眺めてみる。
ぐへへ……! いい身体してるじゃん。清楚な顔して持ってるもの持ってるってのが堪らなくいい。この全身ムチムチな隠れエロスさんめ!
さてさて、こんな子に取り憑いてあんなことやそんなことができると思うと、お姉さん興奮してきます……!
あんなことやそんなことって何かって? そりゃもちろん、身体のいろんなところを揉んで感触を確かめてみたり、この子が知らないいろんなこと身体に教え込んだりですよ。
でもどうしたものか。【憑依】の【性癖】も無事入手できて準備万端なわけだけど、ただどうすりゃスキルが発動するかがわかんない。なんか餌を目の前に『待て』って言われてるワンちゃんの気持ちが分かる気がする。
念じるだけじゃ発動しないっぽいんだよね。もしかして直接触れないと発動しないタイプ? とすればさりげなくうなじに触れるのが──
「なぁ、姉ちゃん」
後方から人を呼ぶ男の声がする。うるさいな、忙しいから後にしてくれ。
「おーい! 聞いてる?」
聞こえません。いい加減にせんと怒るぞ。
振り向いてみると、そこには金髪で筋肉ムキムキマッチョマンのお兄さんがいた。
……やばっ。な、な、な、なんでもないっす。
彼の醸し出す威圧感に圧倒されたのと、まさか私なんかに用はないだろうと思って、私はすぐさま回れ右。
しかし、
「姉ちゃんたちってば!」
呼び声は止まない。
最悪なことにこの男が呼んでいるのはどうやら私たちらしかった。
この手の連中に呼び止められて、私は今までろくなことにあった試しがない。
コンビニから出たときなんかは、やれ「俺さ、腹減ってんだよね?」だの、学校からの帰りに自転車に乗ろうとしたときなんかは、やれ「疲れちゃってさぁ、ちょっとそのチャリ貸してくんね?」だの、明らかに弱そうな見た目の奴を選んでたかってきやがる。
経験則上、今回も嫌な予感しかしない。とはいえ、そういう連中を完全に無視する度胸もないので、もう一度振り向いて呼び声に答えてみることに。
「な、なんですか?」
「見た感じ、君らこのゲーム始めたばっかりでしょ? だったらさぁ、俺と楽しいことしない?」
うわ! ナンパかよ!!
しかも君らとは言ってるけど、狙いは明らかに陽彩だ。だって、向こうの言葉に答えた私を見向きもせず、コイツは陽彩の方だけをじっと見つめてるし。
でも、陽彩は私のバディなんだ。私が憑依する前に、こんな奴に手出しさせてたまるか!
「そ、そういうの、間に合ってるんで!!!!」
陽彩の手を引きこの場から離れようと一歩踏み出すも、マッチョ男に回り込まれて行く手を遮ぎられる。
「だったらさぁ」
そう一言呟き、私たちの前に立ち尽くすマッチョ男。その姿は逆光になってるせいもあって、めちゃくちゃ怖い。
彼の言葉からは今までのチャラついた感じが消え、機嫌の悪そうな感じの低い一本調子に。
肌で感じる嫌な予感。
その予感はすぐさま的中し、マッチョ男はすぅと一呼吸吐いて、私たちへ向けて怒鳴る。
「その10万、置いてってもらおうか!!!!」
その台詞を皮切りに、目の前のマッチョ男と瓜二つな筋肉隆々の金髪黒タンクトップ連中が現れ、いつの間にかに私たちは取り囲まれてしまっていた。
「逃げられるなんて思うなよ? 10万でいいって言ってるんだからさぁ、素直に置いてってくれよぉ。楽しいゲームでさ、いきなり死ぬとか嫌でしょ? 俺らも、できれば始めたばっかの子にそんな思いさせたくないわけ。だから、素直にお兄さんたちの言うこと聞いてくんねぇかな?」
こいつら、初心者狩り……!
しかも、明らかに手馴れている! 慣れ切った段取り、統率の取れた陣形、昨日今日始めましたってレベルじゃない!
「なぁ、どうすんだ?」
私たちを取り囲む連中が一歩、また一歩と迫ってくる。
前に四人、後ろに三人。
マズい! マズい! マズい!! 全然逃げられそうにないじゃん!
完全にテンパってマジで何も思いつかない。
そんな私に陽彩は、
「大丈夫。私がいますから」
と囁き、彼らの前に躍り出た。
「大丈夫って……。でも……!」
「ほう、俺らと性癖決闘るってか? 10万出せば誰も傷つかずに済むってのになぁ!」
リーダー格のマッチョ男が陽彩を睨みつける。
しかし、陽彩は引かない。
一触即発。
どうすれば……、どうすれば……!!
そのときだった。
カツン、カツン。
石畳を叩く足音が一つ、どこからともなくやってきた。
そして、
「おい。誰の女に手出してんだ?」
誰かの怒鳴り声が裏路地に響き渡る。
「うるせえ! こっちは取り込み中なんだよ!!」
その声に反応して吠えるリーダー格のマッチョ男。
「関係ない奴はどっか行き――」
彼はそう言いかけた瞬間、
「ぶべぇっ!」
情けない声を上げて顔面から転んだ。というより、はっ倒された。
そして情けなく地に伏した身体を、革のブーツがずしんと踏みつける。
「誰の女に手ぇ出してんだって聞いてんだよ!」
このごたごたに何の躊躇もなく文字通り踏み込んできたのは、見上げなきゃ顔が見えないくらいに長身な一人の女性。
ブーツからすらっと伸びる、引き締まった美しい褐色の脚。その脚の長さを余すことなく知らしめる、ジーンズ生地のホットパンツ。薄っすらと腹筋の浮き出るセクシーなお腹。一本筋の通った鼻に、切れ長ながらも猛禽類のようにギョロリとした力強い瞳が作り出す、女優さんのような美しい顔立ち。浅黒い肌に映える、キラキラ輝きを放つ銀色の髪。
――そして、私の脳裏に焼き付いてるのと全く同じの、タンクトップに覆われた、大きさ、形、ともに文句なしの双丘。
「えっ……!? えっ!」
彼女は真新しい真紅のロングコートを身に着けていて、その印象はあの映像とはかなり違っていた。それこそ、別人みたいに感じる。
だけど、私たちの目の前に現れたその人は、――その胸は――紛れもなく、フェチフロのCMに出ていた、私の憧れの女性だった。
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