「半人半龍の女」
少しして、爽やかな風に髪の毛を揺らされながら、颯爽と龍子さんは帰ってきた。
その手には何も持っていないものの、収穫はかなりのものだったらしく彼女のインベントリには採集した果物が大量に入っていた。
ゲームのアイテムらしく『爆裂イガグリ』なんておっかないものや、『モモ白白』なんてくだらないお遊びネーミングのものばかりだったけど、せっかくだから他のものよりレア度の高い『胸峰』ってブドウを貰うことに。
アイテム説明文に『大きくたわわに実った珍しい果実、その実は溢れんばかりのみずみずしさを湛えプルンとジューシー』って書かれたら食べたくなるじゃん?
龍子さんは私だけじゃなく、クロちゃんや陽彩にも果物をあげたみたいで、結局車座になってみんなで頂くことに。一斉に手と手を合わせていただきますなんて、なんだかピクニックに来たみたい。
龍子さんも陽彩もクロちゃんもみんなで楽しそうに談笑しながら食べている。
ついさっきまで互いに殺し合いをしていたとはとても思えない。
貰った胸峰はお盆様にお供えする巨峰より何倍も美味しかったけど、やっぱり今までの境遇と彼女の行動とのギャップが気になって、ついつい私は上の空。
「お口に合いませんでしたか?」
「あっ、いや! これ、すんごく美味しいです!」
「それは良かった! 採ってきた甲斐がありました」
「でも、どうして龍子さんはここまでしてくれるんですか? さっきまで、というか今もその……いわば敵同士なわけじゃないですか」
「さっきも言ったようにちょっとした足止めですよ。あとは……」
そこまで言うと、龍子さんは愁いを帯びた表情で自分の左手を見ながら、少し黙り込んでしまった。
「……償い。ですかね」
「償い?」
「ええ。あなた方にはこの腕のせいで負わなくていいダメージまで負わせてしまいましたから。だから、深いことは気にしないでください」
龍子さんは笑顔を作って左手でリンゴを頬張る。どことなくぎこちない笑顔で。
しかし、私はそれとは別のことが気になっていた。
彼女が手に持つリンゴの燃えるような赤、そしてドラゴン腕の艶やかな黒が作り出すコントラストに心を奪われ、思わず私の目線は釘付けになってしまっていたのだ。
やっぱ、あの腕カッコいいなぁ。色も形も。イケメンな顔と合わせて見ていると胸の内の方がサワサワしてくるというか、あの手で素肌を撫でまわして欲しい……って何考えてるんだ、私は。
自分がどうしてそんなことを考えてしまっているかは定かではないけど、何かに目覚めそうになるくらいかっこいいのは確かだ。
にしてもあの形、どっかで見たことある気がするんだよ。どことなく懐かしい感じがするというか。かなり昔にだけど、大好きだった何かに似ているような。なんだったかな……。
「何か、付いてますか?」
「龍子さんの腕ってドラゴンであってます?」
「ご名答です。気持ち悪い……ですか?」
「いやいやいや! そんなことないですよ! アレみたいですっごくいいです! えっと、ええっと……」
彼女の少し寂しげな表情を晴らすべく適切な例えを脳内で探していると、ある一つの古い記憶に行き当たった。
「ミラバ・トリトン」
半ば無意識にぽろっと出てしまったその言葉。昔やっていたゲームに出てきたドラゴンモンスターの名前。確かに思いだしてみるとよく似ているような気はするが、まさかそんな訳ないとは思っていた。けど、私の言葉を聞いた瞬間龍子さんは目を大きく見開き、驚いているようだった。
「ご存知なのですか!?」
「ってことは!」
「はい! ご推察の通り、というか恥ずかしいんですが、この腕って実はミラバ・トリトンの腕をモデルにしたんです!」
「マジですか!? うぇ、も、もっと近くで見てもいいですか?」
「もちろんですよ!」
はぁー! あのミラバ・トリトンの腕だぁ! 通りでかっこいいはず。やっべーよ! この腕に触られたら、私どうなっちゃうんだろう……!
「ミラバ・トリトン……?」
「なにそれ?」
もう興奮を抑えきれない私とは対照的に、クロちゃんと陽彩は事情が全く分かっていなさそうだ。
「ミラバ・トリトンっていうのはね? 昔に出た『バケモンハンター2+』って多人数狩りゲームに出てきた超強いラスボスのドラゴンのことで、コイツがマジでカッコいいのよ! それに加えてこのモンスターの素材から作れる武器も凄くデザインがよくて、中にはこんな風にドラゴンの手をそのまま切り出したみたいな装備もあって。ってことは……!」
「はい! ボクはまさにあのガントレットと脚防具にずっと憧れてて、いつかこんな手足になりたいなって! 正直言えば、半分くらいあの身体になりたかったんで、思い切って半人半龍になってしまいましたが」
「へ、へぇー……」
「お姉ちゃんたち、楽しそう……!」
「こんなところでバケハンの話ができるとは! 久しぶりだー、懐かしい!」
「ボクもです。それに同じ女性とこの話ができるなんて珍しいですね」
そうそう。バケハンは血とかブッシャー出るような、男性向けゲームだったからねぇ。
「いやー。女の子でプレイしてるの私だけだったんですけど、こんな風に話を聞いてくれる友達がいたんです。その子普段全くゲームとかしない優等生だったにも関わらず、ぼっちでゲームしてるような陰キャの話も『面白そうだね!』って、楽しそうに聞いてくれてて! それ以来ですよ、ほんと」
「いい、お友達さんですね」
「でも龍子さんもほんといい腕にいい脚してますよ! 欲しいくらいにカッコいいです!!」
「カッコいい……?」
「もちろん! ね? 二人もそう思わない?」
突然話を振られて戸惑い気味ではあったものの、クロちゃんはにっこりとした笑顔で、陽彩はまんざらでもない感じで答えた。
「うん……!」
「ま、いい趣味だとは思う」
それを聞いた龍子さんは少しの間固まっていた。その目尻には煌めくものが一粒。
「だ、大丈夫ですか? 何か気に障るようなこと……」
「いや、こんなに楽しいなって思えたのは久しぶりなもので少し……。いや、今のクランに入ってからは初めてだ……」
龍子さんは感情をかみしめているかのように、ドラゴン腕に触れながらしみじみと眺めていた。
「それに、この腕をカッコいいと言ってくれたのも」
私の心に引っかかる龍子さんの言葉。なぜなら、彼女のその台詞の中に聞き捨てならないような単語が一つあったから。
「初めてってそれはどういう?」
「言葉の通りです。あの組織において私のような立場のクラン員には、楽しむことなんて許されていませんから」
「楽しんじゃダメなの……? ゲーム、してるのに……?」
クロちゃんも不思議そうな顔をして、質問をぶつける。
「まあ、疑問はごもっともです。が、それがクランの掟なのです」
「さっきのキツネの態度といい、今のこれといい、龍子さんがいるファーリーファンダムってクランは一体どうなって……?」
「それを話すことはやぶさかではないですが、やや入り組んだ事情についてお話しなければなりません」
龍子さんはそれまでの少し緩んでいた表情を引き締め、至って真剣なトーンで言い放った。
「皆さんは、ケモナー深度レベルってご存知ですか?」
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