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「本能VS理性」

 私の胸に『吊腕』の彼女の爪が触れた瞬間、胸をキツめに抑えていた包帯がバチンと弾けるように解き放たれ、


爆発反応胸部装甲(ダイナマイトバスト)!!!」


 バイーンという効果音と共に、胸元からオレンジ色のエフェクトが火花のように飛び散り、おっぱいに弾き飛ばされるドラゴンの腕。

 包帯の勢いを有り余るバストに乗せ、私は無傷(ノーダメージ)でドラゴンの腕をパリィした。


「うっしゃあ!!」


 いつもより多めに巻かれた包帯に締め付けられ、無理やりに押し込められた胸。行き場を失った巨乳に蓄えられた膨大なエネルギーは外部からの衝撃で開放され、追加装甲(包帯)ごと吹き飛ばして攻撃の威力を低下させる。そして、その弱まった攻撃を安全におっぱいでパリィ。

 それが『爆発反応胸部装甲(ダイナマイトバスト)おっパリィ』。


 私の一発とっておきが決まり、気持ちいいのが身体中を駆け巡る。そのゾクゾクした爽快感に思わず身震いしてしまう。まさかここまでうまくいくなんて思ってなかったから。


 でもこれで終わりじゃないんだな、この技は!


 爆発によって花開くように弾けた包帯。この身体を縛り上げていた包帯は今度、パリィを決められて隙だらけの彼女をグルグルの掏巻き(すまき)へと変貌させてゆく。


「グヴゥゥ……!!!」


 もがけばもがくほど包帯は彼女の身体に絡まる。

 これが『爆発反応胸部装甲(ダイナマイトバスト)』のもう一つの効果。元ネタにはない、性癖(私だけ)の効果。


 通常、爆発反応装甲(ERA)には作動時に周囲に爆風や破片が及び、周囲に被害が及ぶという欠点がある。しかし爆発反応胸部装甲(ERBA)はその欠点も利点に変える。

 ダイナマイトバストは爆発により周囲に巻き散らした破片をもダメージソースとし、更には【性癖(スキル)】による特殊な効果をそこに加えることができるのだ。

 それゆえ今回は、爆発によって飛び出した包帯による【拘束(バインド)】が発動。


 追加の包帯を消費してしまったがゆえにその拘束は一時的なものではある。とはいえ追加効果としては優秀過ぎるこの効果は、通常のパリィ以上に大きな隙を作りだした。

 次の技を繰り出すのに十分な隙を。


 右脚を振りかぶり、ミイラ状の身体のど真ん中に思い切りキックを叩き込む。伸びる蹴り(エクステンドキック)を。


「ぶっ飛べぇええ!!!」


 蹴りと同時に膝下が身体から分離し、勢いそのままに彼女の身体を空高く押し上げてゆく。


 彼女を縛っていた包帯が役割を終え、はらりはらりと(ほど)ける。

 ありがとう、死してなお働いてくれて。流石、クロちゃんの包帯だ。


 あとは空の上で無防備な彼女をもう一度【拘束(バインド)】して、おっぱいチャージを叩きこむだけ! それで……倒せる!


「【拘束(バインド)】!」


 天空に投げ出された彼女を縛るべく手足の包帯を空に解き放った瞬間――


 不意に、背筋に冷たいものが走った。

 今までの快感とはまるで違う冷たさ。嫌がらせで背中に氷を突っ込まれたときみたいな、ヒヤリとした不快感。

 それにどうしてか息が詰まり、心臓を鷲掴みにされているような感覚さえ覚える。


 これは、恐怖。

 身の毛もよだつほどの恐怖……!

 私は得体の知れない何かを恐れている。それは一体、何だ……?


 ――目。

 視線だ。


 はだけた包帯の隙間から。

 龍の瞳が、ギロリと、こちらを睨んでいる。


 彼女の身体は空へと打ち上がっているから、その眼が何を見ているかなんて目視では分からない。でも肌で、感覚で分かる。

 見られている、と。


 彼女は掏巻きな上、その身は遥か天高く。それにいくら身体にドラゴンの力を宿してるとはいえ背中に翼は生えていない。だから今あの場でできることなんて何もないはず。なのに――


 彼女は私を睨み続けている。慣性に流されて三日月のように身体を大きく反らし、首だけこちらに向けているという物凄く不自然な体勢だというのに。


 とはいえもう包帯は差し向けてある。あとは彼女を捉え、拘束式おっぱいチャージで止めを刺すだけ。たったそれだけのこと。

 私の両手両足から伸びる包帯は目標を捕まえるため勢いよく宙を這う。重力に逆らい、風を切り、彼女めがけ一直線に。

 特別な操作は要らない。包帯自身が自らの意思を持っているかのように、自動(オート)で対象を補足し縛り上げてくれるから。


 やがて、彼女のもとに包帯の一端が届き、その身体を取り囲む。

 向こうにしてみれば絶体絶命の状況。なのに彼女は、その段階になっても私を睨んだまま視線を外さない。

 包帯が彼女の身体に触れようとしたそのとき、彼女はニヤリと口角を上げた。


「グラァアアア!!!!!!」


 耳をつんざく咆哮。

 それと同時に、彼女は爆発反応胸部装甲(ダイナマイトバスト)の残骸による拘束を引きちぎり、


「な……!?」


 自分を捉えようとしていた四本の包帯を掴む。ドラゴンの左腕で強引に。


 まさか……最初からこれを狙って!?


 彼女に包帯を掴まれグインと身体が振り回される。一気に崖の際が近づくも脚の踏ん張りを聞かせてなんとか踏みとどまる。

 しかし身体に繋がる包帯を掴まれて思うように動けない。


 捕まえようとしたら逆に捕まえられ、形勢が一瞬で逆転。

 私にできるのは掴まれた包帯を緩めて振り回されないように抵抗することだけ。


 状況が悪いとはいえ足が地面に付いていればまだやりようがある。でも、繋がったまま引き寄せられ宙に浮かせられるのが一番まずい。


 包帯を緩ませることによって、ピンと張っている彼女との繋がりに余裕が生まれ、たわみが生じる。これで彼女に包帯を引き寄せられても直ぐに足が地面から離れることはなくなった。


 とっさに取った対応策。この場における私の最善の選択。


 しかし彼女はそれをも利用した。

 私が作ったそのたわみ、それをグッと手繰り寄せたのだ。


 再び包帯がピンと張られ、同時に彼女はドラゴンの右脚を私へと突き出してつっこんでくる。それはすなわち、手繰った勢いを推進力に変えた飛び蹴り。


 弾丸のような速度で蹴りが迫ってくる。その上、私と彼女を繋ぐ包帯は蹴りの軌道を示すガイドラインとなり、私へと正確に攻撃を導く。


 すぐ脇には奈落が口を開けている。

 その上、蹴りが外れることもないし、避けることもできない。座して死を待つのみ。


 人間としての枠を超える読みと挙動。合理的で理性的な、この状況での最適解ともいえる行動。でも今の彼女を動かしているのは直感、いや、もはやケモノの本能と呼んだ方が正しいのではないか。


 そしてその本能が状況を一変させた。私の勝利まであと一歩でというところで逆転を許し、負けそうになっている。


 でも、ここまできて負けてたまるか。


 生物としての本能による理性的な選択が戦況を逆転させたってんなら、こっちだって生き残ってやろうじゃんか。

 理性を働かせてたどり着いた、極めて原始的で本能的な選択でもって。


 強襲が迫る。


「ガラァア!!!」


 目の前には激しい唸り声と美しく伸ばされたドラゴンの脚。

 見開かれた眼からありありと溢れ出す、彼女の本能が導き出した一撃。


 喰らえばひとたまりもないその蹴りを――


 胸を突き出しておっぱいで受ける!

 これが私の選択じゃ!!


 ――ガンッッッ!!!!


 けたたましい衝突音。

 ズシンと重い衝撃が全身を貫く。


 強力過ぎるドラゴンの蹴り。そのあまりの勢いでおっぱいにはむにゅっと足の形が沈み込み、押し負けそうになる。

 しかし、


「セイヤァァアー!!!!」


 思い切り胸を張って勢いを押し返し、派手な火花のエフェクトと共におっぱいパリィが炸裂。

 ドラゴンキックを弾き、


「うぐわぁああああ!!!!!!」


 彼女の身体を大きく弾き飛ばす。


「どうだ……!」


 ぶっ飛ばされた彼女は地面へと強かに頭を打ちつけ、勢いに流され転がってゆく。

 一方で、私はといえば気合いを入れ過ぎておっパリィの体勢のまま肩で息をしちゃっている。とはいえHPゲージは減ってない。


 あとは止めを……。


 そう思って、彼女に向かって一歩踏み出す。

 そのとき、


「あれ……」


 突然頭からサーっと血の気が引いてゆき、足取りがおぼつかずフラりとしてしまう。そして、背後へと倒れ込むような感覚に見舞われた。

 視界にはどうしてか憑依しているはずの陽彩の背中が映る。


 この感覚はさっきのとよく似ている。蹴りを見舞われたときの感覚と。

 でも、何かが決定的に違う。しいて言えば、もっとその感覚が強くなったというか。


 魂だけが身体から抜けてしまったような、強烈な浮遊感に脱力感。


『ルナ!!』


『お姉ちゃん……!!』


 二人の声が自分の内側からでなくいつもより遠いところ――身体の外側から聞こえる。

 後方へ倒れていくにつれて、私本来の身体が半透明に浮かび上がり段々と実体化していく。

 そこで私は悟った。


 これは……憑依が解けて……!?


 どういうわけか私の意思とは無関係に憑依が解けて、私は陽彩の身体から離れつつある。後ろに九十度倒れ込むころには私と陽彩とクロちゃんの身体は完全に実体化。私はそのまま地面に身体を叩きつけられると思っていた。


 でも私が倒れ込んだところに、地面は無かった。

 陽彩の身体から追い出される位置がの乱数が悪かったのかは知らないが、私は完全に崖から身を投げた形になっていた。


 重力に引かれ崖下へ自由落下していく。


「ルナ!!!!」


「お姉ちゃん……!!!!」


 陽彩とクロちゃんは叫び、とっさに手を伸ばす。しかしその手は届かず、私には彼女たちの声や姿が遠のいてゆくのをただただ眺めることしかできなかった。


 何もできない私と二人。

 しかしそんな私たちをしり目に、崖上から私を追うように黒い影が飛んできた。山肌を蹴り、勢いをつけ、私に向かってスカイダイブしてくる影。


 ――それはなんと、ドラゴンの腕の彼女だった。


「ボクの腕を!!」


 彼女は落ちながらも私に迫り、その左腕を差し伸べてくる。ドラゴンの腕を。


「どう……して……」


「いいから早く!!!」


 彼女は私の目を見据えて、力強く言い放つ。玉のように美しいまん丸な瞳で。

 私には彼女の行動の意図がまるで分からなかった。彼女が差し出すその腕はついさっきまで、私たちのことを倒そうとしていた腕だ。


 でも、気づいたときにはその腕を掴んでいた。

 ギュッと強く握り返され、腕越しに「絶対に大丈夫」という強い意思のようなものが伝わってくるような気さえしてくる。


 不思議な安心感に包まれた私の意識は、そこで闇へと落ちたのだった。


お読みいただきありがとうございました!

『ブックマーク』や『評価』での応援、ありがとうございます。また感想も非常に励みになっております!

皆様の応援を糧にこれからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

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