キャラメイク、アシスタントは無愛想なAI!?
8/13 ステータス値『性癖力』について追記しました!
3/30 後半部分を改稿しました
オープニングPVが終わるとそこは、見渡す限りどこまでもずーっと続く暗闇。そこに立つ私はどこからかスポットライトで照らされている。
目の前には五十二インチほどの半透明の板が宙に浮かんでいる。
『ようこそ。フェティシズム・フロンティア・オンラインへ』
このどことなくホラゲ感のある謎空間に響きわたる、いかにも機械的で無機質な女性の合成音声。
『私はお客様のキャラクターエディットを担当いたします、スターティングAIでございます』
その声に合わせて、目の前の板にギザギザの波線が現れてる。テレビなんかで見る、なんかこう……、音声を解析? してるときに出てくるようなギザギザ。
それを見てると、AIが喋っているんだなって気がしてくる。
「ねぇ! AIさんのことは何て呼べばいい?」
「申し訳ございません。プレイヤー様のエディットに余計な先入観を持たせてはいけない決まりとなっているため、私のビジュアル、及び名前は存在いたしません。ですので、ご自由にお呼びください」
スターティングAI。長い、呼びづらい!
「じゃあ、スターちゃんで」
抑揚なくご自由にとの返事。
「それではエディットを開始いたします。まずはプレイヤーネームを入力してください」
スターちゃんがそう言うと、暗闇の中から半透明のキーボードが浮かび上がってくる。
名前ねぇ。私のリアルネームは月だから、そっからもじって……、よし。
キーボードに『ルナ』と入力。
「『ルナ』様でよろしいですね?」
「オッケー!」
「それではルナ様、次は生き方を決めていただきます」
「生き方?」
なんか重い質問きたな。生き方ってなんだろう? ジョブってことか?
「はい。本ゲームではプレイヤー様自らが理想性癖のお姿になっていただける『シングル』と、理想性癖を反映させた相棒と一緒に過ごすことのできる『バディ』の二つの生き方からお選びいただけます」
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『シングル』
プレイヤー様、自らが理想のお姿となってゲーム世界をお楽しみいただけるモード
(自分のなりたい理想の姿になって世界を満喫したい方にオススメ)
シングル特典:性癖力を+100%加算
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『バディ』
プレイヤー様の性癖を反映させた相棒と共にゲーム世界をお楽しみいだだけるモード
(自分が共に過ごしたい理想の相棒と一緒に世界を満喫したい方にオススメ)
バディ特典:バディによる自律戦闘が可能
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つまり、ソロプレイかダブルプレイかみたいなもんでしょ?
そんなん一択しかないっしょ!
「問答無用でバディ、バディ、バディー! やっぱ自分の好みにびびっとくる感じの子に取り憑きたいもんね!!」
「かしこまりました。それではルナ様とバディのアバターを作成いたします」
きたきた!! 見た目のエディット!
いっぱい悩むべきところなのかもしれないけど、実はもう決めてあるんだよね。
「ルナ様は『バディ』を選択されたので、見た目は現実のお姿がベースとなりますが、各パーツごとの調整は可能でございますがいかがいたしましょうか?」
「無調整のこのままでお願いします!!」
「無調整ですか、珍しいですね。そうしますと、現実のお姿がそのまま反映されてしまいますがよろしいですか? オート調整による理想形への自動調性なども可能ですが――」
「心配ご無用! スターちゃん。私の理想を実現するにはそのままの姿が重要なのですよ」
では、とスターちゃんが呟くと、私の前に鏡のようなウィンドウが出てくる。
「ここにお写りしている姿でよろしいですか?」
鏡の中には、死んだ魚のような目、ろくに手を加えてないボッサボサの髪と眉毛、日に当たらなさ過ぎて真っ白になった肌を持った干物女の姿が。
凄いなVR。この根暗女をここまで再現できるとは恐れ入った。
でも、これがいいのよこれが。このカーストの底辺感漂う陰キャな感じが。
「体型もそのままでよろしいでしょうか?」
宙に浮かぶ鏡が下にみにょーんと伸びて立派な姿見に早変わり。
うーん。歳のわりにちんちくりんで貧相な胸と尻も直せるけど、どうしよう。悩むー。
……でも、憑依したときの体型ギャップは大きい方が興奮するし。それに慣れない身体を動かしてる方が乗っ取ってる感出るじゃん。
決まり。
「オッケー、そのまんまで」
そういうわけで、私のアバターは現実の姿と寸分違わぬ姿へと落ち着いた。
そうはいっても別に私はナルシストというわけではない。
ただ、憑依している最中に元の人格が薄っすらと目覚めた際、『嘘でしょ!? あんな底辺に私の身体が好き勝手されてるなんてっ……』ってなると、グッとくる。
だからこの姿を選んだってわけ。
「では、お次は『バディ』のお姿をお造りします」
待ってましたっ!!
「バディの作成にあたりましては、ルナ様の思考パターンを解析し、ルナ様の性癖に見た目や性格が百パーセント合致する理想のお姿に仕上げいたします」
いいじゃん、いいじゃん、凄いじゃん!!
「お願いしまーす!」
元気よく返事をすると、音をも吸い込むほどに暗く深い闇の中に、橙色の人魂がボっと浮かび上がる。その炎は脈打つように規則正しいリズムで揺らめく。
すっごい芸術性の高い演出だなぁ、って関心しながら見ていると炎が段々と人の形に化け始め、次第に女性特有の――しかし私にはない――丸みを帯びたフォルムができあがっていった。
「はい、これにて作成が完了いたしました。それでは、バディネームを決めてください」
炎が消えるとそこにいたのは私よりもちょっと背の高い、百六十センチくらいの女の子。
着ているブレザーがはち切れそうなほどの巨乳! 膝まで覆うロングスカート越しでも分かるくらいにおっきい尻! 小顔で黒髪ロング、両目を半分ほど覆う重めの前髪! 髪で隠れているけど自己の存在をこれでもかと主張するパッチリお目目! シュッとシャープな鼻! 地味目ルージュでもセクシーさの溢れ出てる、プックリと形のいい唇!
好みド直球来たぁぁああああ!!!!
片手に文庫本が似合う、クラスの隠れアイドル的美少女!!! 男子の間での人気投票はクラス二、三位くらいだけど、えっちなっことしたい系女子ナンバーワンな感じの子!
ゴムで調節できるリボンを首元でキュッと締め、ワンポイントの白ソックスを履き、校則をきっちり守っている感がまた何ともいい!!
こんな子に憑依できるんだ……!
「フヒッ……!」
気分が高まりすぎて、マジトーンのキモイ笑い声が口からこぼれしまう。
やっべ。私、キモい。
でも堪らん! あっ、そういえば名前つけてあげなきゃいいけないんだよね。
彼女を見るとニコッと、徹夜明けの朝日くらいに眩しい微笑みを見せてくれてたような気がした。
「じゃあ、陽彩で!!」
「かしこまりました。陽彩ですね?」
スターちゃんの再確認に快く答えると、私の目の前にタブレット端末くらいのサイズの半透明のウィンドウ。
「それではルナ様の【性癖】を決めましょう。初期段階では【性癖】の合計が四つまで設定することができます」
「きたきた!」
「【性癖】とはゲーム内の通常時や戦闘時などに、特別な効果を及ぼす能力の総称でございます」
候補はもう決めてるもんね!!
まだちょっと悩んでるけど。
「初期段階ってことは、今選ばなくても後で習得できたりするものなの?」
「もちろん、レベルを上げればセット可能性癖枠は増えますし、新たな世界への扉を開いて新しい性癖を習得することも可能です」
ってことは、選べる中で今絶対に欲しいのと、そそられるやつを選んでっと。
「決まったよ!」
選ぶとウィンドウに文字が表示される。
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プレイヤーネーム:ルナ
バディネーム:陽彩
【性癖】
【憑依】、【変身】、【巨乳フェチ】、【ブレザー服】
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「こちらでよろしいでしょうか?」
私と陽彩の名前は問題なし。【性癖】も間違ってないね。
憑依は言わずもがな。憑りつかれて普段と違う姿に変身しちゃうのも大好きだし。巨乳は滅べって思うけど、憑りついて好き勝手できるって考えるならおっきい方が好き。あとセーラー服よりブレザーの方が、着るのも見るのも好き。
「うん、オッケー!!」
「では、最後にルナ様の総合性癖力を算出致します」
「総合性癖力?」
なんか、強そうな単語が出てきたな。
「総合性癖力とは【性癖】そのものの一般認識や特殊性を元に算出した『基礎性癖値』と、プレイヤー様がその性癖をどのくらい好きかという『好きレベル』を、各スキルごとに掛け合わせたものの合計値のことを言います。この値を参照し攻撃や防御などダメージ値に関する基礎的な計算や生産品の等級決定などを行い、同時にこの数値をプレイヤー様の体力上限として扱います。文字通りこのゲームにおける総合的なステータスといって差し支えないかと」
「ふーん」
『計測中……』という文字が目の前のウィンドウに表示された。その下には、自分の尻尾を追いかける子犬のごとく、視力検査のときみたいな切れた輪がグルグルと回っている。眺めていると目が回りそうになるほど、何週も延々と。
その間、スターちゃんは完全に黙りこくってしまっている。
「あのぉー。もしかしなくてもこれ時間かかります?」
「ルナ様の脳内を解析し、数値を算出しておりますので少々お時間をいただいております」
脳内の直接解析、以前では夢物語とされていた技術。でも今やその技術はゲームに利用されるほど身近になり、さらに発展を遂げたことでフルダイブVRゲームも当たり前のものになった。だからこそ、こんな私の夢を叶えてくれるゲームも実現可能になったわけで、ゲーマーとしては技術革新に感謝しなくてはならない。
しかし、そんな夢を形にするために必要な時間ですら、今の私には惜しい。早く陽彩と触れ合いたい、憑依したい、となってしっまっている私にしてみれば、数値どうこうより一秒でも早くプレイしたいんだ。
「もー、早く、早く!! あっ、そうだ! 計算終わったらゲームってすぐ始められる?」
「みなさま、様々な確認をされますがよろしいのですか?」
「へーき、平気! 習うより慣れよ。私は使いながら覚えるタイプだから」
「さようでございますか」
「それで、終わるまでにあとどれくらいかかりそう?」
「既に終了しています」
「噓ぉ!?」
スターちゃんは淡々と冷静に続ける。
「本当です。ルナ様が『習うより慣れろ』と言ったあたりで既に計算は終了しておりました」
「終わってるなら言ってよ……」
「いや、楽しそうに話されているところを見るに、遮るのはいかがなものかと思いまして」
AIに気遣われ、顔がかあっと熱くなってくる。
いやそんな風に言われたら、完全に私が一人で盛り上がってる恥ずかしい人みたいになるじゃんか! ていうか、このAIかなり無愛想な類だと思っていたけど、人間力の低い私なんかよりよっぽど人間らしいのではないだろうか。
いやー、サイキンノギジュツはスゴイデスネ。
でも、受付AIがここまでの水準なら本番のAIも大丈夫だろう。私が望む、立派な清楚系クラス委員長ちゃんの人格は完璧に調整されているはず。
まだ見ぬ先の展望に現実同様の無い胸が高鳴る。
「それでは早速、ご要望通りルナ様と陽彩様をフェティシズム・フロンティア・オンラインの世界へお送りいたします。これより先は性癖で形作られた世界。人の数だけ性癖があり、在るものは全て誰かの性癖なのです」
「全てが誰かの性癖ね、流石性癖VR」
「そんな性癖が蔓延するその世界を楽しむためになによりも大切なのは自分らしくいること」
自分らしく、か。自分らしくあろうとして世界から弾かれた私にとって、その言葉は胸に沁みるものがあった。もう、自分を隠さなくていい、ありのままでいい。それはなんて素晴らしいことか。
このゲームを目一杯楽しむことの条件がそれなら、準備はとうにできている。
「なら、最高に楽しめそうだ」
「それはなによりで。ではルナ様、性癖と共にあらんことを」
それだけ言い残し、スターちゃんの大ウィンドウは閉じた。
同時に暗く闇に閉ざされていた周囲が白み始める。
もう少しで私の性癖が叶う。欲望が満たされる。
晴れていく周囲の景色と共に、私の表情も心も晴れやかに。
さあ、始まるぞ! 待ってろ、私の憑依生活! 『クラスの隅にいるような清楚系隠れ巨乳委員長ちゃんに憑依してとんでもないこと』してみせる!!
誰よりもこの世界を楽しみ尽くしてやるんだから!!!!
そう決心した私と陽彩は、目も開いていられないほどの眩しい光に飲み込まれていった。
『面白い!』『性癖に刺さった!』『続きが気になる!』
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