「初めての街で、初体験」
今回、軽く下ネタ注意……、かもです。(一応、念のため)
ご了承いただけた方は、本編へ是非お進みください!
「大変申し訳ございませんでしたぁああああ!!!!」
新しい街に来て早々、私は往来のど真ん中で土下座をしていた。
周囲からの「何だこいつは」という視線を全身に感じつつ、それでも私は全力で黒髪美人に許しを請うていた。
「あの、頭を上げてください……。大勢見てますし、その……」
美人さんは毛先が地面につくのも気にせず、私の前にしゃがみ込んで言う。
「さっきのは不幸な事故ってことでいいですから……」
「でも事故とはいえ、流石にやっていいことと悪いことが……」
「でしたら、一つ。お願いがありまして」
「何でもお聞きします!」
勢いよく顔を上げた私の耳元に美人さんは顔を寄せ、私にしか聞き取れないほどに小さな声で囁く。
「私の秘密、誰にも言わないでくださいね」
口調こそとても柔らかいものの、その感情のこもっていない声に背筋が凍りそうになる。
「も、もちろんです」
私は、そう言わないとすぐにでも殺されてしまいそうな気がした。
「そう、それはよかった!」
満面の笑みで答える美人さん。
大神 月、改め『ルナ』。
なぜ、私が美人に土下座することになったのか。
その答えは、ただ一つ。
今から少し時を遡ったところで起きた、とある出来事に端を発する。
◇
野を越え、丘を越え、ようやくたどり着いたこの世界第二の街、『ビーステ』。切立った山々の麓に拓かれたこの街は、その立地にそぐわない繁栄を見せていた。
基本的な街の造りこそ石造りで『始まりの街』とさほど変わらないけど、街の規模は遥かに大きい。真っ白な巨石が隙間なく敷かれたメイン通りの道幅は、始まりの街と比べて倍くらいあって、そんな広々とした大通りを人々や馬車がせわしなく行き交う。
「動物、いっぱい……!」
「やばたん」
クロちゃんと陽彩も目の前の光景にただただ驚いている。
どっちかと言えば『始まりの街』より『ビーステ』の方が辺境の地にあるのに、私たちがこの調子だと田舎者感丸出しである。
「とりあえず、ホップちゃんのお師匠さんを探さなきゃね」
いつまでもここで立ち尽くしてるわけにもいかない。
彼女のその提案があって、私たちは遠路はるばるこの街まで来たんだ。その苦労を無駄にするわけにはいかないのだ。
なんて気を引き締めてみるけど、
「んで? どうやってその人を探すわけ?」
その見当は全くついていなかった。
今、その人に関する情報はなーんにもない。名前どころか、容姿すら分からないのである。
あのときいろいろあって聞きそびれたとはいえ、せめて名前くらいは聞いてくるんだったと激しく後悔中。
そんなとき、クロちゃんがチョイチョイと私のジャージの袖っを引っ張る。
「ご飯屋さん……」
「お腹減った?」
クロちゃんは首を振る。
「それはルナだけじゃん。ホップの師匠だっていうなら、その人も飯屋やってるってそういうことでしょ?」
クロちゃんはこくっと頷く。
「そういうことだから、じゃあ行くぞー」
陽彩は包帯でグルグルなクロちゃんの手を取って、街の中へと進んでゆく。
明らかにNTRの空気を感じるけど、だから私にそういう癖はないんだってば!!
私も二人を追うようにして街の中へ。
大通りを中心として左右対称に発展したこの街は、なんというか全体的に濃い。
建物も、人も。
道路に面して整然と並ぶコピペ建築の群れの中に突如として現れる、建て増しを繰り返したようなコンクリ打ちっぱなしの違法建築。
それを通り過ぎて少し歩いたところに、欧州風な周囲との調和をはなから諦めている、立派な門構えでかやぶき屋根の庭付き純日本家屋と遭遇。
その道向かいには、ティラノサウルスの上あごの形をした、用途不明の独特な建築物が。
街の入り口から少し入った範囲にも、謎のセンスが爆発している建物が結構ある。気になり過ぎて、右に、左に、キョロキョロと首が忙しい。
「にしても、この広い街でどうやってご飯屋探すの?」
「誰かに聞くのが早いんじゃない? 幸い、人もいっぱいいるんだし」
陽彩の言う通り、始まりの街に比べて人通りもかなり多い。
それに、見た目もとても個性的。
ぶっきらぼうに言えば、「性癖大爆発!」。
具体的には種々様々でキリがないけど、傾向としてケモ耳や尻尾の生えたアバターがとっても多い。それどころか後ろ足で器用に立っているワンちゃんや猫ちゃんもそれなりに見受けられる。
総評、不思議な街。
私、陽彩、クロちゃんな、私たちもそれなりに周囲から浮いたパーティだって思ってたけど、この街ではかなりおとなしめなように思える。
誰に話しかけたもんかと考えているとショーウィンドウを眺めている、一人の美人が私の目に留まった。
思わず、足を止めて見入ってしまうほどの美人が。
艶やかでハリのある黒髪を腰元まで伸ばした、私と違って健康的な感じに透明感のある白い肌。窓ガラスに映る顔はキュッと小さく、目はパッチリ大きい。
Tシャツの肩口からすらっと伸びる華奢な腕は指先まで美しく、もちろん虫刺され痕や肘の黒ずみなんかない。スキニージーンズがよく似合うモデルさんのような人。
あとは胸はさえあれば、私の中で120点の超合格点だったが。
とはいえ胸がなくともその人が美しいのには変わりない。
ある意味、女の私よりも女性らしい容姿。思わず憑依したくなるほどの美人さん。
「ルナ! 何してんの? 置いてくぞ!!」
「……ああ、今行く!」
陽彩の声に誘われ、何も考えず駆け出す私。
ただそれがいけなかった。
ちっちゃな子どもじゃないんだから、走り出す前にせめて安全確認くらいはすべきだったと今にしてみれば思う。
走り出した私の目の前で、美人さんはくるりと髪をなびかせて振り向き、一歩踏み出したのだ。
あっ。
そう思っても、時すでに遅し。
「危な――」
「えっ――」
瞬発力に欠けた私の身体能力では、飛びだしてきた美人さんを躱しきれるわけもなく、派手に衝突してしまい、そして――
「痛たた……」
その瞬間に覚えた強烈な違和感。
なんだ? 頭の中に響く、この低音のイケボはどっから……?
それに手首の内側には、見たこともない謎のハート型の痣があるし。
立ち上がるついでに、ショーウィンドウの窓ガラスにチラリと自分の姿が映る。
「あっ……!?」
そこで、私は全てを理解した。バッチリと。
私が映るべき場所に私はいなかった。
そこにいたのは、ただ美人さんだけ。
すなわち――
「憑依しちゃったぁ!?」
私は美人さんとぶつかった拍子に、彼女の身体の中に入り込んでしまったのだ。
いや、その……。
ついうっかり、憑依したいなんて思いながらぶつかったから、本当に憑依してしまった……。
何言ってんだって話だけど、入り込んでしまったもんはしょうがない。
髪の毛が肩からさらさら流れ落ちるたびに、シャンプーの爽やかな香りがふわりと漂う。洋服からは柑橘系の香水が鼻をくすぐる。
あぁ……。なんだか興奮してきて、鼻息も鼓動も荒くなってきたぁ……!
お尻に触れるインナーも肌触りいいなぁ。履いたことないけど、多分シルクかな?
普段着てるのと感触が段違い!
そっちに意識にが集中してくると、なんだか下半身がムズムズ……。
ん?
下半身……?
普段ならパンツとお腹は直に触れ合うはず。でも身体と下着の間に何かがある。
得体のしれない何かが。
恐る恐る、下腹部に手を伸ばしてみる。
……!?!!?!?!?!?!?!?
ん……。えっ?
はぁっ!?
「は、生えてるぅううう!?!?!?!?」
こ、これは……! この人は、じょ、女装癖!?!?
そういう癖は個人的には別にアリだとは思うけど! たまたま憑りついてしまった相手が女装癖ってどんな確率だぁああ!!!!
予想外の事態にテンパる私。
そして、
『頭の中でうるさい! それに、生えてて悪かったね!!!!!』
頭の中で美人さんに怒鳴られる。
『っていうか、あなた何? これはどういう状態!? 全然わかんないけど、とにかくどうにかして!!!』
「ご、ごめんなさいぃいいいい!!!!!!」
◇
……、というわけで今に至る。
「いやー、うちのルナが本当にすいません……」
「ん、んんっ! いいのよ、気にしてないですから」
美人さんは何事もなかったかのように、にこやかに答える。
か……、彼女が内心パニクりまくってたのは私が一番よく分かってるけど、切り替えの早さに驚く。
「それじゃ」
美人さんが立ち去ろうとしたそのとき、
「あ、あの……!」
クロちゃんが彼女に話かける。
「どうしたの? 可愛いお嬢ちゃん」
「私たち、ここに初めて来たばかりで……、ご飯屋さん、探して、ます……」
クロちゃんは陽彩と手を繋いだまま、ひかえめだけど頑張って言葉を紡ぐ。
「こんなタイミングで、なんなんですけど……。お姉さん……、ご飯屋さん、知ってますか……?」
こんなタイミングで、という単語が私の胸にぶっ刺さる。
す、少なくとも、私よりクロちゃんの方が常識と配慮があるってことが露呈している。
「なるほどねぇ、この街に初めてきたのねー。じゃあ、歓迎の意を込めてとっておきに案内してあげる」
ついてきてと、長い脚を美しく動かしてスタスタと歩いてゆく美人さん。
私たちは彼女に導かれるがままに、路地を抜けとっておきの料理屋に案内されるのであった。
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