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「うさ耳メイドの本領発揮」

「おかえりなさいませ!」


 息も絶え絶えラビットハッチに飛び込むと、いつものように耳なじみのいい実力派声優のような声が聞こえてくる。


「ホップちゃーん! 三人分空いてる?」


「あらあら、有名人御一行様ではありませんか! 今はどなたもおられませんので、どこでも好きなお席をどうぞ!」


 カウンターの内側から大きなうさ耳と、クラシカルなメイド服の上からでもわかるほどに大きな胸を揺らし、気品あふれる優雅な足取りでホップちゃんが登場した。


「有名人?」


 店内を見回してみると繁盛店には珍しく、NPCも含めて確かに他に客の姿はなかった。


 とりあえず私たちはクロちゃんを連れ、いつもの席へ。

 ホップちゃんがパチリと指を鳴らすと、手も触れずにお店のカーテンとドアの鍵が自動的に閉まった。


「今日は大変だったでしょう? お店もクローズにしたので、もう追われることもありませんから、どうぞごゆっくりおくつろぎください」


「助かるよー! さすが、真のメイドを目指すホップちゃん! 相変わらず、気が利きますなぁ!」


 ホップちゃんはそれほどでも、とにこやかに答え、すかさずメニューを持って来てくれた。


 慣れたやり取りをする私とホップちゃんを目の当たりにして、陽彩の横でクロちゃんはしゅんと小さくなってしまっている。


「初めまして、小さなお嬢様。私はこの店でメイドをしております、ホップと申します」


 そんなクロちゃんに向かって、ホップちゃんは最上級の自己紹介をしてみせる。心からの笑顔に、はきはきと聞き取りやすい、一生耳元で囁いてほしいくらいの声で。


「は、はじめ、まして……! 私の名前は、クロ……、です……」


「クロお嬢様でございますか! 容姿に似合った、実に可愛らしいお名前でございますね! クロお嬢様に心から喜んでいただくために、たくさんご奉仕させていただきますので、御用がございましたら何なりとお申し付けください!」


 ホップちゃんはロングスカートの裾を両手で摘まんで、クロちゃんに一礼。


「よかったね、クロちゃん! このメイドさんはね、何なりとたくさん()()()してくれるって! ……あんなこととか、そんなこととまでね」


「あ、あうぅ……」


 私が小声でそう意味深に囁くと、クロちゃんは恥ずかしがって下を向いてしまった。

 うーん、可愛い!! 髪の毛わしゃわしゃしたい。


 そんな妄想を陽彩の手刀がかき消す。


「痛ッ!」


「セクハラ! クロちゃんは初めてなんだから、あんまりからかわないの!」


「ゴメンゴメン!」


 ホップちゃんはこのやり取りを微笑ましそうに見ている。


「できる限りで、ご奉仕致しますよ。ご注文はいつもので?」


「クロちゃんは紅茶飲める?」


 その質問にクロちゃんはコクリと頷く。


「んじゃ、いつもの三つで」


 かしこまりました、とホップちゃんはカウンターに戻って紅茶を()れ始める。

 段々と店内に紅茶の香りが充満し始める。これを嗅ぐとラビットハッチにキター! って感じがするんだよねぇ。


「にしても、ルナさんたち?」


 いつもはカウンターに入ると無言のホップちゃんが珍しく声をかけてきた。


「なに?」


「いやー、あのアンズを倒しちゃうだなんて凄いっすねぇ」


 いつにも増して砕けた口調。


「珍しいですね、ホップさんがそういう喋り方するのは」


「ああ、これ? 今、クローズなんで! みんなには内緒っすよ?」


 ホップちゃんは舌をチロっと出して、人差し指を立てる。


 なるほどねー。だからさっき、通常営業の範囲を大幅に超えた感じで丁寧にクロちゃんに挨拶してたのか。

 意外だ。でもそのギャップが堪らん!!


「でもそれじゃあ、注文は適当な感じになっちゃうわけ?」


「いやいや! それは我がメイド道に誓って断じてありえないっすね! というかそんなことしたら、師匠に殺されちゃうっす……。

 だからそりゃあもう、最上級に全力で()()()させていただいてまーす!」


 大丈夫かなぁ。なんかギャルモードの陽彩とは別のベクトルで軽い気がするんだけど。

 しかも『ご奉仕』って単語の言い方が耳に絡みつくように艶めかしく、色っぽかった。端的に言えばエロエロだった。


「はい! ルナさんと陽彩さん。そしてクロお嬢様に悦んでいただけるよう、全力でご奉仕させていただきましたので、どうぞごゆっくりご堪能くださいませ!」


 しかし、差し出されたアイスティーを一口飲むと、そんな今までの不安は一気にぶっ飛んだ。確かに、今までで最上級の美味しさ! 


「いかがですか、クロお嬢様?」


「すっごく……、おいしい……!」


「喜んでいただけて、恐悦至極にございます!!」


 今までに見たこともないような笑顔を見せるホップちゃん。

 彼女はそのままカウンターへ戻る、かと思いきや「空いてるところに失礼しまーす」なんて言って、私の隣へ腰かける。

 そして、ニコニコ顔でずーっとクロちゃんを見つめている。


「いやー、映像越しでも可愛くてときめきまくりだったっすけど、本物は可愛い通り越して尊い……! キュンキュンが止まらんッ!!」


 クロちゃんを眺めるホップちゃんの表情は、緩みきって(とろ)けちゃってるけど、うさ耳はピンと立っている。


「そういえば、映像越しって?」


「ああ、あそこにテレビあるじゃないっすか?」


 彼女は店の奥にある喫茶店の雰囲気づくりに貢献している、レトロなテレビを指さす。


「実はあれ、ネットワーク繋がってて動画とか見れるんす。んで、さっきのルナさんたちとアンズの対決を誰かが生配信してて、いやーかっこよかったっす! 

 ……まさか、ルナさんがクロお嬢様を陽彩さんの中に取り込むとは思いませんでしたが」


 アレがネットに配信されてたなんて……。いろいろマズいような。

 でもまぁ、いいか。撮られても減るもんじゃないし。


「面白いでしょ? 土壇場のダメもとだったけど、なんとかなってほんとによかったよ」


「こっちからすれば、勘弁してくださいって感じですが」


「ねぇ、メイドのお姉ちゃん……?」


「はいっ!! いかがなさいましたか?」


 クロちゃんに指名されたホップちゃんは畏まり、椅子に背筋を正して座り直す。明らかに対応のレベルが違う。

 完全に推しに対するそれだよ。


「お姉ちゃんは……、私のこと、怖いとか、気持ち悪いとか、って思わないの……?」


「そんなこと……! 滅相もございません!!」


 ホップちゃんはクロちゃんの手を包むように握り、彼女の目を見据え、真剣に言った。


「しかし、お嬢様はなぜそのようなことを?」


「だって……、この世界の人、みんなそう思ってると、思うから……」


「そんなことは決してございませんよ。確かにアンズのように、そのようなことを思う不届きな輩もおります。しかし、それはごくごく少数でございます。

 それに、お嬢様の優しさはきっとこの世界(フェチフロ)の多くの人に届いております。

 ですから、お嬢様はそのように思う必要は全くございませんよ」


 ホップちゃん、本物のお仕えメイドみたいだ。


「だから、これからは堂々とお嬢様の好きなことをなさればよろしいのです」


「私の、好きなこと……?」


「ええ」


 このタイミングでホップちゃんから目配せが飛んでくる。

 ここからは私たちの役割ってか。


「クロちゃんはさ、これからどんなことしたい?」


 クロちゃんは少し考え込んで、一生懸命言葉を紡ぎだす。


「私、ね……。お姉ちゃんたちのおかげで、この世界に居てもいいって思えた!

 でね……? この世界に居てもいいって思ったら……、もっと、もっと、お姉ちゃんたちと、いろんな所に行ってみたい……! いろんな物を見てみたい……! って、そう思った……!」


「そっか」


「それは素敵な願いにございますね」


 それが、クロちゃんのしたいこと。なら、私たちのすることは決まってるよね。


 陽彩と同じタイミングで頷く。


「行こうか! 新しい世界(フロンティア)に!」


「行きましょう! みんなで一緒に!」


「お姉ちゃん……!」


 クロちゃんの大きなお目目がウルウルとしだす。


「まぁ、ラビットハッチに来られなくなるのは残念だけど」


「私も、お二人とクロお嬢様に会えなくなるのは寂しいですが、この世界(フェチフロ)でやれることは無限大ですから、どうぞ皆様のお好きなようにお楽しみください!

 最近は自分たちの『拠点』も作れるようですからね。

 まぁ、私もここで好きなようにやってますから! たまには帰ってきてくださいっすよ」


「そのときは全力で【ご奉仕】してもらうからね!!」


「もちろん! 全身全霊の【性癖(スキル)】でもって【ご奉仕】させていただきます!」


 ちょいちょい、とクロちゃんが袖を引っ張ってくる。


「どうしたの?」


「どこ、いこっか……?」


 旅行を楽しみにする、無垢な子どものような目でクロちゃんは聞いてくる。


「そうだねぇ……。あー……」


 マズい。

 この世界(フェチフロ)に来てから陽彩に憑依することしか考えてなかったし、してなかったから、大見得切った割にどうすればいいか具体的にわからないぞ……。


「ところで、ルナさん? 陽彩さん? 行き先はお決まりで?」


 そんなとき、ホップちゃんがニヤリとしながら聞いてきた。


「そりゃあもう、ねぇ? ルナさん?」


 そう言われれば答えは一つしかない。


「……性癖の赴くままに」


 そのやり取りを見て、クロちゃんはかっこいいと呟き、目を輝かせている。

 でも、どこに行けば……?


「あっ……! そうだ、そうだ! ルナさん、ちょっと一つ頼まれてくれません?」


「なんでしょうか?」


「もしよければ、始まりの森を抜けた先にある『ビーステ』の街に私の師匠がいる()()なので、よければ『あなたの弟子は元気にやってますよ』って伝えてくださると助かるっす。あの人、というかあの猫さん、私のことを心配するわりには、本当に連絡つかなくて……」


「オッケー。なら、まずはそれを伝えに行きますか!」


「ええ」


「うん……!」


「それではいってらっしゃいませ! と、言いたいところなんですが……」


 ホップちゃんがバツの悪そうな顔をしている。


「どうしたの?」


「実は……、どうしてかここにお三方がいるのを感づかれたようで……。お店の前を野次馬が取り囲んでいるんです……」


 カーテンの隙間からチラリと外を見ると、確かにさっきの広場の連中がぎっしりと押し寄せている。


「それに、かなりハードな戦闘を繰り広げたばかりですから、このまま出るよりかは一旦ログアウトされた方がよろしいかと……」


 さすがメイド、気が利くし提案が現実的。


「それじゃあ、今日は一旦ログアウトして『ビーステ』の街には後日行こう?」


「うん……!」


「それじゃ、今度メッセ送るね」


「わかった……! バイバイ、お姉ちゃん……!」


 そう言って、クロちゃんは先にログアウトしていった。


 んじゃ、私もログアウトしますか。


 待ってろ、新天地(フロンティア)

 どんな無理難題が降りかかろうと、絶対に性癖の力とみんなの力で乗り越えてみせる!!


 そう心に誓い、私はメニューウィンドウを呼び出し、ログアウトするのであった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【メモリーカード】:発動


【プレイヤー『クロ』のデータを記録(セーブ)しました】


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

次章の『性癖スキルオンライン』!


ルナ一行が訪れた『ビーステ』の街は、この世界最大のクラン『ファーリー・ファンダム』が支配するケモノの街だった!

街を支配する掟、採集ポイントの独占!

彼らはクランの力を盾にやりたい放題!


そのやり方に相容れず、超大手クランと対立するルナたち!

その対立の中でルナは人型の不思議な少女と出会う。


「大手クラン相手だろうと、私は変わらない! 憑りついて勝利するだけだ!!」 


次章、性癖スキルオンライン!

「ぶっ倒せ、悪徳クラン!」


さぁ、あなたの性癖を、教えろ!!


これにて第三章完結!

皆様の応援のおかげです! ありがとうございます!

幕間話を挟んで、四章スタート予定ですので、「気に入った!」「先が気になる!」「癖に刺さった!」等ありましたら、「ブックマーク」、☆での「評価」での応援をどうぞお願いします!


皆さんの応援が必ず『ルナ』、『陽彩』、『クロ』の力になります!!

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