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「スケ番にさようなら」

【前回の性癖スキルオンライン】

ルナはクロちゃんに憑依し、更に陽彩と憑依する事で、仲間を物理的に取り込んで、ルナ『クロ・陽彩』フォームとなり、新たな力でスケ番を撃破したのだった!

 私の勝利を知らせるウィンドウが目の前から消え去ってもなお、広場は静寂に支配されていた。歓喜に沸くでもなく、どよめきが起こるでもなく、ただただ風が吹き抜けるだけ。

 聴衆にしてみればこんな無茶苦茶な戦い方を見せられたんだ。引くなって方が無理があると思う。


 一方で、アンズを胸でぶっ倒した私は一人この場で全身の火照りを感じていた。一人でシたときと負けるとも劣らないくらいの快感と高揚感。頭の中がビックリするくらいスッキリとして、自然と身体が小刻みに震える。

 ゾンビだから鼓動もないしも血が巡るのも感じないけど、そうじゃなければ多分私は公衆の面前で軽くイっちゃってたかもしれない。


 有名なスポーツ選手が言って、結果ネットのネタになってしまった『ほぼイっちゃいました』っていうのの、片鱗(へんりん)を味わった気がする。


 結局、私はその快感の波が収まるまで、体当たりの体勢のまま、瞬きも忘れてその場に立っていた。というか動けなかった。

 そのままの姿勢で乱れきった呼吸と高ぶった感情を整え終わるころ、ようやく自由が効くようになり、前のめりだった身体を起こして憑依を解く。


 陽彩の左右に私とクロちゃんが実体化。

 今までにない体験をしたクロちゃんは「すごいね……! ルナお姉ちゃん……!」と興奮気味。方や陽彩は自分の右手首をしきりに触って、くっついていることを確認している。


 そんなとき、


「……、あ、(あね)さんになにすんじゃ!!」


「よくもやってくれたな! ああん!? 次は俺らが相手だ!!」


 と固まっていた舎弟たちがようやく、口々に騒ぎ出す。

 数に物を言わせた連戦、というお決まりの流れに多少うんざりしながらも、陽彩とアイコンタクトを交わす。

 陽彩はまだ手首を抑え、手を閉じたり開いたりしていたけど、私の視線に合わせて首を縦に振った。


 私たちの気持ちは同じ。

 さあ、相手になってやるって意気込んだそのとき、


「やめな……お前たち!」


 足元から声がした。

 その声はかすれ気味ではあったけど力強く、舎弟たちを一斉に制するには十分な威厳をもった声だった。


「言ったろ、タイマン勝負だって。決めたことを曲げるようじゃ、ヤンキーが(すた)っちまうだろーが!」


「あ、姉さん……」


 地面に伏せていたアンズだったが、起き上がった彼女は彼らの(ヘッド)らしく舎弟たちの前に躍り出た。


「……チッ。んで、話ってなんだよ」


 アンズは物凄く不服そうな態度ではあるが、意外にも素直に負けたときの条件を飲む意思を見せた。


 正直な話彼女には悪いが、なんだかんだ互いに条件は付けたものの、てっきりゴネられてうやむやにされるとばかり思ってたから、ちょっとビックリ。


「守るんだ、約束」


「たりめーだろ。自分で吐いた言葉も飲み込めねーようなヤツはヤンキー失格なんだよ。んで? とっとと、話しやがれ!」


 アンズはクロちゃんを鋭い視線で睨んで、怒鳴るよう言い放った。


「ひっ……」


 クロちゃんは短い悲鳴を上げて陽彩の袖を掴む。


「あなたねえ! そんな態度ないんじゃないの?」


「言ったろ? アタイはソイツが嫌いなんだ。そのオドオドしたとことかな。

 でも、アタイは負けたからその条件として、虫唾が走るのも我慢してここにいてやってんの。だからとっとと話せっつーんだ!」


 やっぱり、コイツは許せないし、相容れないし、好きじゃない。

 そんなことを思っていると、クロちゃんは慌ててパーカーの前ポケットをごぞごぞ探りだした。


「んしょ……。あった……!」


 クロちゃんがポケットから取り出したのはさっき見せてくれた、銀の懐中時計だった。

 それを見たアンズは見るからに狼狽えている。


「お、お前が……! どうしてそれを!!!」


「やっぱり……、お姉ちゃんのだった……!」


「どうしてそれを持ってんだって聞いてんだよ!!」


 アンズはクロちゃんの胸ぐらを掴みかからんと一歩踏み出すも、そこに陽彩と私が割り込んで制すると、あからさまな舌打ちが。

 そしてアンズは一歩戻り、クロちゃんは話を続ける。


「私が最初、ここにきたときね……? 私にびっくりして、悲鳴を上げて……、これを落として逃げてっちゃう人を見たの……。その人は紺色のセーラー服、だったから……、どうしてもお姉ちゃんに合って確かめたかったの……!」


「だから、この前もクロちゃんはコイツに……」


「はい……! 返せてよかった……!」


 クロちゃんは懐中時計を差し出すと、アンズはひったくるように彼女の手から時計を取って何も言わずに去ろうとする。

 でも、


「お姉ちゃん……!」 


 その呼び声がアンズの足を止めた。


「この前は、ビックリさせちゃって、嫌な気持ちにさせちゃって、ごめん、なさい……」


 クロちゃんは今まで一方的に嫌がらせをされてた、このゲームを辞めるか思い悩むほどに。それに、今もそんな態度を取られた。だけど、それでもクロちゃんはアンズに謝った。


 この件に関してはどう考えたって、全面的にアンズが悪い。

 でも、クロちゃんは謝った。


「別に謝らなくても……」


「私……。どうしても、謝りたかった……! その時計はお姉ちゃんにとって……、きっと大切なものだから……。私が原因で、大切なものを失くしちゃってたら、やっぱり謝らなきゃ! って思ったの……」


「そっか」


 痛みを感じない体質の彼女は、誰よりも痛みを分かっていた。他人の感じる痛みを。私なんかより、よっぽど敏感に。

 だからこそ、クロちゃんは自分に害を加えた人間が覚えた痛みも感じ取り、その痛みを与えてしまったことを謝る優しさを持ち合わせている。


「私のお話は、おしまい……」


 じゃあ行こうか、と踵を返した私たちをアンズは呼び止めた。


「おい! どうしてアタイに止めを刺さない? 言いたいことだけ言って、自分だけ気持ちよくなってサヨナラってか? 馬鹿馬鹿しい」


「何?」


 それを聞いて私は思わず耳を疑った。


「今回は決闘(バトル)の条件上、負けても(リスポーン)がないような設定だった。それで負けたアタイに、この公衆の面前で生き恥晒せってか? 殺すなら最後までやりな!」


 んな大袈裟な……。


「てめぇ、たかがゲームごときでって思ってんな? でもなぁ、こちとらこの世界(フェチフロ)でどう生きるかと、どう死ぬかってことに命かけてんだよ! 

 アタイはね、この姿になったからには、この姿に相応しく生きて、相応しく散って死に戻り(リスポーン)したいのよ!!」


「クロちゃんは別にアンタを殺そうだなんて思ってない。ただ正直に気持ちを伝えたかっただけだ!」


「だから、それがなんだって言ってるんだよ。『嫌な気持ちにさせてごめんなさい』? それでアタイのアイツに対する生理的嫌悪が消えるとでも思ってんの? んなわけねーだろうが!!」


 大切な友達(クロちゃん)を貶す言葉に、プツン、と何かが切れる音が私の中ではっきりと聞こえた。


「何が言いたい?」


 呼吸が乱れ、視界が狭まる。

 私は、思わずアンズに詰め寄って彼女の胸倉を掴んでいた。


「知ってるよ。アンタ、アタイが嫌いだろ? アタイがアイツを嫌いなように。

 怒ってるだろ、それこそ殺したいほどに。

 今、てめぇが殴ればアタイは死んでリスポーン地点に戻される。この場から消える。嫌いなヤツをその手で消せるんだ、いいと思わないか?」


 襟元を掴る力が自然と強まる。


「確かに私はアンタが嫌いだ!」


 掴んだ胸ぐらを引いて、アンズを眼前に寄せた。


「ルナ!」


「お姉ちゃん……!」


 陽彩とクロちゃんは私のその様子を見て、声を張り上げる。


「だけど!!」


 彼女たちの声を聴き、衝動をグッと飲み込む。

 怒りをお腹の中に押し込んでゆっくりと呼吸を落ち着けてゆく。


「それじゃ……、アンタと同じだ。気に入らないものをその手で排除しようとしたアンタと」


 そして、アンズを地面へ突き放す。


「私は大切な友達(フレンド)を傷つけたアンタを許さない。でも、殺しもしない。だって、私はどんな性癖も許容するって決めたから。だからアンタも許容する」


「この偽善者が……」


「だいたい、アンタのHPは0で、既に死んでる。でも今、アンタは生きてる。それって、変わらないじゃん。アンタが嫌悪して排除しようとした存在(ゾンビ)と」


 皮肉なモンだよね。ゾンビを嫌った者が、システムによってゾンビにされるなんて。

 待てよ……、ってことは! 


「そんな……! そんなことは……ッ!!!」


「これで話は終わり。じゃあね。これ以上嫌いなもの同士、無理に関わることもないしね」


「……ハッ!」


 このタイミングで向こう()気づいたみたいだ。


「待て! まだ……、まだ!」


「もう話は終わったっての」


「ちゃんとアタイに止めを刺しな!!」


「言ったでしょ。私はアンタに止めを刺さない。確かに私は、アンタのその性癖(いきかた)も許容するとは言ったけど、誰かを傷つけるような生き方はお(かみ)は許してくれないってさ。

 だから、(システム)がアンタに止めを刺すんだ」


 アンズの身体が光を放ちながら、透明になってゆく。


「クソッ――」


 彼女が台詞を言い切る前に、その姿は完全に消えてしまった。


 サヨナラ。したことは好きじゃないけど、いい趣味(せいへき)してたよ。


「行こう、二人とも。これ以上ここに居ても、単なる見世物状態だしね」


 周囲を見渡せば好奇の目、目、目!

 動物園のパンダかってくらい大勢の人たちが私たちを見つめていた。


「確かに……」


「行くよ!!」


 こういうとき、アオちゃんの透明化があればとっても便利なんだろうな。

 そんなことを考えつつ、私たちはその視線たちから逃げるように裏路地へと入り込む。


「大丈夫?」


「うん……!」


 はぐれないように、クロちゃんの手をしっかりと取って。手を引かれながら逃げる彼女は心なしか楽しそう。


 そして、なんとかつけてくる人々を撒き、逃げるようにしてラビットハッチに滑り込むのだった。

お読みいただき、ありがとうございました!


「面白かった」「先が気になる!」「頑張れ!」「この子好き!」等ありましたら、「ブックマーク」や☆を押して「評価」で応援していただけると幸いです。


皆様の応援がルナや陽彩の力になって、きっと物語を面白い方へと導いてくれます!


次話は章末エピローグ的お話になります。それと同時に次章への足掛かりへとなりますので是非ともお楽しみにしていただけますと幸いです!

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