「ギャルとゾンビ、二つの力を一つに!!」
クロちゃんと陽彩に同時憑依して変身した私を眼光鋭く睨みつける、アンズの目。それは獲物を狙う肉食獣のように力強く、荒々しい。
彼女の舎弟どもも私を取り囲んで、それぞれの武器を地面に打ち鳴らし、声を荒げて威嚇してくる。
身の毛もよだつようなヤンキーの迫力に圧倒されそうになる。
でも、大丈夫。
私は一人じゃない。陽彩、それにクロちゃんもいる。
目を瞑り深く息を吸う。
次第にやんややんやと騒ぐ舎弟や野次馬の声が遠ざかってゆく。そして目を開けば、ぼやけた世界の中にアンズだけがハッキリと浮かびあがっている。
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【決闘に関する合意がなされました。これより性癖決闘を開始します】
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合成音声のように無機質なアナウンスがその場に響き渡る。
ついに、始まる! 絶対に負けられない戦いが!!
「いくよッ! 【性癖】開放! 【タイマン上等】!!」
「――ッ!」
雄叫びとともに、アンズの身体から紫色のオーラが滲み、炎のように揺らめいている。
あれは恐らく、特定条件で発動する強化系【性癖】。
向こうがタイマンにこだわった理由はこれか!
それと同時に彼女の右手の中に光が溢れ、何かが実体化。
「喰らいな!」
アンズがその腕を振るう。
風切り音と共に、その何かが私の腹を打つ。
クロちゃんの持つ【ゾンビ】のおかげで痛みは感じないものの、私のHPゲージが10%ほど削り取られる。
「何が……!?」
驚く私と対照的に、不敵ににやけるアンズ。
私は彼女の攻撃を全く認識できなかった。
互いの距離は五メートルほど離れている。
飛び道具か?
考えを巡らせ可能性を探っていると、
『ルナ! 来るよ!!』
危険を知らせる陽彩の声。
見れば、アンズは再び腕を構えている。
「逝っちまいな!!」
アンズは私に向かって腕を放った。
反射的に横っ飛び。
――瞬間、何かが頬を掠め、HPが微かに減る。
そのとき微かに耳にしたキュルキュルという回転音。
ふと見ると目に入ったのは陽の光を反射し、キラリと光る一本の筋。それがアンズの手、いや中指へとつながっている。
そして、彼女の手にはいつの間にか指ぬきグローブ。
分かったぞ。
「ヨーヨーか」
「よく分かったじゃないか。でも分かったところで、てめぇにはどうすることもできないさ!」
腕を構えるアンズ。その手を見ると右手だけでなく、左手にまで桜の紋が入ったヨーヨーが収まっていた。
あれは昔のスケ番映画で使われたのと同じデザイン。ということは、アイツは筋金入りのスケ番好き……!
なかなか骨が折れるぞ、こりゃ。
アンズは遠距離から二つのヨーヨーで私を狙う。
進路を読み、身を捩ってすんでのところで攻撃を躱す。
空振りとなったヨーヨーは虚しく地面を叩くと、綺麗に舗装された石畳を板チョコのように叩き割ってみせた。
「マジか……、あっぶな!」
陽彩の身体能力があったから躱せたものの、向こうの狙いは正確そのもの。多分、ああ見えて【器用】の【性癖】補正もかかってるんだろう。
「何考えてるかしらないけど、その油断が命取りになるんだ!」
アンズの声にハッとすると、その瞬間ヨーヨーの一つが私の右手首に巻きつき、彼女に捕えられていた。
「ヨーヨーはな、行って返ってくるんだよ、バーカ」
外そうと試みるも、強く巻きついていて全く外れない。
「この糸は特注品のワイヤー製。もがけばもがくほど糸が肉に食い込んで、終いには腕が飛んじまうかもな」
「なッ……」
ゴリゴリと私のHPが削れてゆく。
「さぁ、地獄を見せてやるよ!」
アンズがもう一つのヨーヨーを構える。
腕が飛ぶ、か。
彼女が言ったことを思い返していたとき、突然閃いた。この状況を打開する策を!
「クロちゃん? ゾンビって、身体が取れてもまたくっつくんだよね?」
『うん……、くっつく……!』
『ねぇ、ちょっと何しようとしてるの!?』
「こっからはちょっと閲覧注意、かもね」
『ちょ――』
陽彩の言うことも気にせず、私は思い切り右の手のひらを左手で押し、手首を思い切り反らす。
手首は人間の正常な可動域を超え、メリメリと音を立て始める。それを気にせずにさらに思い切り手首を反らす。
と、
――ボキッ!
薄気味悪い音を立てて右腕から右手首から先が取れ、手に絡まっていたヨーヨーも外れる。
全く痛くない。本当、ゾンビって凄いな。
アンズはヨーヨーを構えたまま、口を半開きにして固まっている。
「確かに、このゲームのゾンビって脆いね」
『だからね、包帯で縛ってる、ってのもあるの』
「なるほどねぇ。じゃあ、包帯も使ってあげないとね!」
クロちゃんとそんなことを話しながら、外した手首と腕をくっつけ直す。
ゴキッ、と鳴って元通り! 治した後にグーパーしてみると、手はその通り動く。
「てめぇ、今何を……」
「ちょっとした、手品かな」
「気持ち……悪ぃんだよ!!!!」
アンズが両腕を振るって、再びヨーヨーを私に差し向ける。
「いい加減、やられっぱなしってのも性に合わないからね。こっちからいかせてもらうよ!」
甲高い音を立て、ヨーヨーがくる!
「【拘束】!!」
私の左腕から包帯が伸び、迫るヨーヨー目がけて一直線。
空中で包帯とヨーヨーが交わり、狙い通りに互いが絡まりあった!
「これでアンタの武器は封じた。こっからはこっちの番!!」
私はもう一度、ゴキッと右手首を外し、その手首を包帯でしっかり拘束。そして拳を握りしめ、五メートル先にいるアンズに向かって構え、思い切り振るう。
「届け私のこの拳、『包帯伸縮拳』!!!」
包帯は握り拳を拘束したまま一目散にアンズのもとへ。
そして、
「うぐぁあ!」
そのまま拳が彼女の頬をぶん殴り、HPゲージを20%ほど減らした。
「まだまだぁ!」
右手が戻ってきてくっつくや否や、同じ要領でアンズへと蹴りを放って脚を飛ばす。
包帯の拘束によって疑似的に伸びた右脚は彼女のお腹にめり込み、HPを20%ほど削って、その身体を地面に転がしてみせる。
「なんなんだ……、てめぇは!」
私は戻ってきた脚を元通りくっつけて、地に伏せているアンズに言い放つ。
「私はどんな性癖も許容してみせるって決めた。そしてこれが、アンタが否定したクロちゃんの力だ!」
そのまま伏せているアンズのもとへ歩み寄り、胸倉をつかみ上げて、全力でグーパンチ。その勢いに彼女は立っていることが叶わず背中から地面に倒れ、一気にそのHPゲージを削る。
「どうして、こんなダメージが……。まさか、アタイのタイマン補正が働いてない!?」
「いや、働いているだろうさ。でもね、私は三人、いやみんなで一人で戦っている! だから、力も心も合わせて発動する【共闘】は、私の力をにも二倍にも四倍にもしてくれるんだッ!!」
「そんなバカな話があって……、たまっかぁああああ!!」
アンズがどす黒いオーラをその手に乗せ、思い切り殴りかかってくる。その手にはメリケンサック。
「フンっ!」
私もその拳に、拳で応じる。
交わる、右拳と右拳。
メリケンサックはひしゃげ、そのバフの掛かったオーラごと、アンズのパンチを私のパンチが打ち破る。
「あるんだな、それが。だって私、そういうのも好きだから」
呻きながら向こうの身体は二度、三度と転がる。
「これで終わりにしよう。陽彩、クロちゃん、いくよ!」
『ええ!』
『うん……!』
目を瞑り、小さく深呼吸。
内なる陽彩とクロちゃんと呼吸を合わせ、最大出力で放つ!
「【拘束】マックス!」
私の四肢から包帯が放たれ、這うようにしてアンズの腕、足、胸に絡みつき、全身を磔のような体勢に縛り上げる。
「全てを跳ねのける最強の盾は、時として最強の武器となる!!」
包帯ごとアンズを引き寄せると同時に、私は全力で駆けだす。
彼女の身体が紙一重に迫る。
互いの身体が触れ合うそのとき、スク水にブレザー直着のたゆんと豊満な胸を思い切り突き出す。
「必殺! 拘束式おっぱいチャージ!!!!」
――胸が身体を弾く。
「ぐぁあああ!!!!」
空気を揺るがすような激しい衝突音。
それと同時に、アンズのHPゲージは0になり、彼女は力なくその場に倒れた。
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性癖決闘【WINNER ルナ】
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