「ロリと一緒に街巡り!」
いつもの中世欧州を思わせる石造りの街並みのなかで、私はいつも通り陽彩の身体を乗っ取って、普段と変わらずピンク髪のギャルとして街をゆく。
ただいつもと違うことが一つだけ。
今日は隣にグレーアッシュ髪のロリ、クロちゃんがいるのだ。
『また今度遊ぼう』、私はクロとそんな約束をしてゲームから落ちて、その『また今度』が今日。
私たちはゲーム外でメッセージを送り合って、ゲーム内で問題なく合流。何をしようかを彼女に尋ねると、「ギャルのお姉ちゃんと……、一緒に街を歩きたい……!」って言ってくれたから、私は陽彩の身体を乗っ取ってギャルに変身し、クロちゃんと街を歩いている。
クロちゃんにそうせがまれてしまったもんだから、陽彩もギャルでいることに文句はないらしい。
世界観に全く合わない私たちピンクとグレーの髪色コンビははぐれないよう、ぎゅっと手を繋いで町中を散策する。
私の手を取ってテトテト歩いているクロちゃんを見ていると、友達と歩いているというよりは、ちっちゃい親戚の子と一緒に歩いているようでなんだか可愛い。
包帯でぐるぐる巻きの彼女の手は少しザラっとしていて、それでいてヒンヤリと冷たい。他人と手を繋ぐのなんか久しぶりすぎるから、手のひらの感触がやけに鋭くなっちゃう。
背の高い陽彩の目線から隣にいるクロちゃんを見下ろすと、彼女の髪の隙間からチラリと耳が覗く。幼げな彼女の顔に収まりのいい小さな耳には、キラリと輝くピアス。
おとなしめの彼女がピアスしてるのは、なんだかちょっと意外に思えた。
「ピアスしてるんだね」
「はい……。 変、ですか……?」
「そんなことないよ! すっごく似合ってる」
クロちゃんが不安そうな顔で聞いてくるから慌てて否定する。
とはいえ、慌てて否定したけど、決してそれは誤魔化しじゃない。耳の外側を彩るリング状のピアスと、耳たぶを飾る黒い宝石のようなピアスが、クロちゃんに似合っているのは紛れもない事実。
「えへへ……。こういうの……、好きなの……!」
クロちゃんは指でピアスを触りながら、大きな目を細めてにへらと笑う。
その無邪気な笑顔が私の心を打ち、ちょっとドキドキ。
『かわいい』
「かわいい」
思わず、脳内の陽彩の呟きが口から漏れてしまう。今は身体の支配をゆるーくしていたせいで、そんなことになっちゃったのだ。
それを聞いたクロちゃんは小さく唸って、俯いてしまった。
互いに言葉のない、十歩ほど。歩いている間、恥ずかしくてクロちゃんを直視できない。陽彩に引っ張られて私まで恥ずかしくなってくる。
「ねぇねぇ……?」
突然、繋いでる手がクイっと引かれる。
どうしたのかなと、クロちゃんを見ると、
「ありがと、お姉ちゃん……!」
ちょこんと首を傾げ、顔を覆う長い前髪を揺らしながら、微笑む彼女。
陽彩の胸がキュンとして、顔の回りが勝手にかぁっと熱くなってくる。
身体のコントロールが陽彩の側にグイっと持っていかれ、勝手に身体を動かされる。歩く速度がすこし早くなり、ついて行くクロちゃんがちょっと大変そうだ。
「なんか、暑くなってきたね。どっかで、飲み物でも買おっか!」
そんなことを言いながら陽彩は空いてる手で自分の顔を扇ぎつつ、クロちゃんを引っ張ってゆく。クロちゃんも一応承諾し、私たち一行はドリンクを買いにゆく。
因みに言うとこの『始まりの街』は、冒険を始める最初のマップということで、昼夜問わず過ごしやすい気候に固定されている。そのため、急激に暑くなることなんてない。
何が言いたいかと言えば、陽彩が勝手に熱くなってるってこと。
クロちゃんは街を歩きたいとは言ったが、別にディープな街歩きをしたいという意味ではなくて、文字通り一緒に街の往来を歩きたかったらしい。だから、私たちが今いるのは噴水広場へ続く大通り。
飲み物を買える場所なんかそこら中にある。
今もほら。
ちょうどすぐそばに最近人気の屋台がある。しかし人気なだけあって、溢れんばかりの人だかり。並んでいるのかと思えば、メニューを決めてるだけの人たちも大勢いる。
「うーん。予想はしてたけど、やっぱり人が多いなぁ。クロちゃん、他のお店にする?」
「私……、ここでいい……。待つ方が、お姉ちゃんと……、長く一緒にいられる、から……!」
言葉が心を鷲掴む。
その感情を惜しげもなく表現した言葉に、陽彩はもちろん私までハートを撃ち抜かれた。
この子はとても純粋で、すごく真っ直ぐだ。
純度百パーの純粋な感情や行動を、ときどきドストレートにぶっこんでくる。本人には悪気も他意もない、全部天然で無自覚にやってるんだと思う。
でもそうされたら、お姉さん惚れしまうかも。
現に、ひっかかっりかけのが一人。
この身体の持ち主の心臓は大きく速く鳴っている。鼓動の音が外まで漏れ出そうなほどに。
「そ、そうしよっか……!」
『あのさ、クロちゃんって意外と天然だから、そういう気はないと思いますよー』
「わ、分かってるっての!」
「お姉ちゃんたち……、楽しそう……!」
私たちのことを知ってか知らずか。彼女は無邪気に笑う。
クロちゃん。今あなたのおかげでこの身体、大問題です。
待っている間に身体を陽彩に任せると、彼女とクロちゃんはメニューを何にしようかを楽しそうに話し合っている。
でも、順番待ちをしていると不思議なことに、周囲から人が段々と離れていく。一人、また一人と、これからお店に並ぼうとしてるプレイヤーや、なぜか既に列に並んでいるプレイヤーたちまで離れてゆく。
「ねぇ、アレって……」
「あの髪色ってそうだよね? 離れとこ……」
皆、様々に呟きながら。
幸いなことに、二人は列が短くなってくことに喜んで気づいてない。
そして列が消え、私たちの順番になった。
「ご注文は?」
「タピオカにしよっか!」
「うん……!」
「じゃ、タピオカミルクティー二つで」
「ま、待って!」
クロちゃんが今までの感じでは想像できないくらい、勢いよく制する。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、たち……、二人。だから、三つ……!」
陽彩が別にいいのに、なんて言いつつもタピオカミルクティーを三つ頼む。すぐさまミルクティーを購入し、二人には手渡され、余剰分はアイテム欄に自動的に放り込まれた。
「それじゃ、いこっか!」
陽彩の言葉にクロちゃんは頷づき、私たちはお店を後にする。
メインストリートの中央で白昼堂々、タピオカを飲み歩き。
オタクには縁のないことかと思ったけど、陽彩はギャルらしくなんの躊躇もなく飲み歩いている。
優等生はどこへやら、と一瞬思ったが、優等生がゆえ頼まれたロールプレイに徹底しているのだろう。私が憑依している影響のせいかもしれないけど。
太いストローをミルクティーを吸っていると、たまにつるっとした感触が舌先に飛び込んできて、それを噛んでみるとモッチモチとしつつ弾力のある歯ざわりが心地いい。そのタピオカをミルクティーで喉の奥に流し込むと、またタピオカが口に飛び込んでくる。
いいね、タピオカ。美味しいじゃん。ただ流行っているだけの飲み物だと思っていたけど、意外と美味しいではないか。馬鹿にしていた部分もあるけど、そこは素直に謝ろう。
美味しいだけでなく、身体も元気になった気がする。気になったから、ちょっとアイテム欄を見てみる。
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【タピオカミルクティー】×1
『巷で流行りの名物屋台が作った、自慢のタピオカミルクティー。飲むとHPを回復する』
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なるほど。プレイヤーたちのお腹を満たすだけじゃなく、回復薬的効能もあるのね。
そういえば、ラビットハッチで食べた後も元気になった気がしたけど、このゲームの料理にはそういう機能もあるんだろうな。
まだまだ知らないことばかりだ。今度、ちゃんと情報を集めなきゃだね。
そのまま私たちは食べ歩き、大通りから少しはずれた絵になりそうな路地のベンチに腰掛ける。
「おいしいね……! お姉ちゃん……」
少し高めのベンチにちょこんと腰かけているクロちゃんがタピオカをちゅるちゅると飲んでいる。足をプランプランさせていて、とっても微笑ましい。
「おいしいね!」
陽が当たり心地のよいポカポカ陽気、街角のいい雰囲気のベンチでタピオカを片手に可愛い子と談笑する。なんて幸せな時間だろう。ずっと、こうしていたいくらいだ。
「クロちゃん?」
ふと思ったことを聞いてみる。
「なに……? お姉ちゃん……」
「さっきさ、私たちと一緒に街をまわりたい、って言ってくれたじゃない?」
「……うん」
「どうしてここを?」
クロちゃんはプランプランさせていた足を止め、答える。
「私、ね……? いつもは……、ここにあんまり来たくなくて……、違うところでお友達と遊んでるの……。だけど、お姉ちゃんと一緒なら……、ここにもう一度来てみようかな……、って思えたの……!」
「そうなんだ」
答えたあと、引っかかることがあったので聞いてみる。
「でも、この前はどうしてここに?」
「実はね……。あのお姉ちゃんと、どうしても……、話がしたかったの……」
クロとあのスケ番、正反対とも言える二人に何の接点があるのだろう。
私がそこについて聞こうとしたそのとき――
「見つけたぞ! 包帯女ァ!!」
知能の低そうな声が私たちの会話を引き裂く。
見るとそこには、短ランと呼ばれる、今どき不良漫画でしか見ないような恰好のヤンキーが私たちを睨みつけていた。
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