「全ては路地裏で」
今回のお話は是非とも皆様の想像力を最大限に働かせていただくと、より楽しんでいただけるはずです!(?)
ホップちゃんに案内され、私たちはカウンターの一人席に座る。
席に着くや否や、陽彩のお腹が鳴りだした。相当お腹空いてたんだろうな。
「お水どうぞ!」
ホップちゃんはお冷を差し出してくれた。
クラシカルなメイド服に銀のお盆がよく映える。
ホップちゃんは「ご注文の際はお声掛けください!」とうさ耳をぴょこっ、とさせると他の仕事に戻っていった。
さて、何を頼もうか。
『何を食べようかなぁ!』
「いやいや、食べたいものは私が決めるよ?」
『はぁ!? 私が食べるんだから、選ぶのは私でしょう? 常識的に考えて』
「身体を動かしてるのは私ですー。ていうか、二人で一人の状態な時点で常識なんか通用しないって」
さっきみたいなことにならないように、身体のコントロール権は100%、私が持っている。身体の自由の効かない世界で、私が何を選んで何を食べるか指を咥えてみてるんだな。
『今日は絶対ピザの気分だったの! ピザ頼め!』
陽彩が頭の中でがなり立てる。うるさいなぁ!
メニューを眺めて頼む品を考える間も、彼女はずーっとピザピザ頭の中で叫んでる。
うるさい! 今日はシーフードの気分なんだ。
だいたいラビットハッチにピザ置いて……、置いてんじゃん。『完熟トマトと新鮮バジルの濃厚モッツアレラマルゲリータ』。
この店はアシストを使わず、全部ホップちゃんの手作りという要素が売りでもある。だからノンアシストで石窯ピザも焼けるのか、あの子。スゲーな。
『マルゲリータ……! ねーぇ? マルゲリータ……、たべよ?』
マズい。陽彩が鼓膜をくすぐるようなコショコショ声で頭の中で囁きだした。
彼女の鈴を鳴らすような声質と、恋人に囁きかけるような甘々ボイスがバイノーラルで頭の中を駆け巡り、段々と私の脳がとかされてゆく……!
『焼きたてのぉ……、香ばしい匂いが鼻からぬけて……! トマトの酸味がね……? お口の中いっっぱいにひろがるの……!』
陽彩の声が頭の中で右に左に振られゆく。強弱のつけ方も聞いていて非常に心地いい。
『アツアツのチーズが……とろっと溶けてぇ、バジルの爽やかな香りがふわぁっと……』
ふわぁっと……?
『ひろがるんだよ……?』
あー……! 脳がとろけるぅぅ……! 最後、左耳にむかって囁くのは反則ぅ……。
ピザ、ピザ、ピッツァ!
身体がピザを求める。
今の気分はイタリアンではなかったのに、食べなきゃいられない身体にされてしまった。
で、でも、やっぱりシーフードも食べたい……! 抗いがたい、このシーフードへの執着ッ……!
そんな中メニューの端に見つけた、突破口。
既に陽彩に屈してしまっているけど、ここからでもまだ一矢報える方法がそこにはあった。
「ご注文はお決まりですか?」
ホップちゃんがオーダーを取りに来た。
「石窯のピザ!」
「お味はいかがいたしましょうか?」
『マルゲリータにしようよぅ……? ね?』
まだマルゲリータにしろって囁く、私の中の陽彩が。
見ていろ、陽彩! 私はあんたには完全に負けていないんだから!
私はホップちゃんに向かって高らかに叫ぶ。
「シーフードとマルゲリータ、二つで一つのハーフアンドハーフで!」
『ちょっとぉ! オンリーがいいんだけど!?』
「はい! かしこまりました! 今から焼き上げますので少々お時間いただきます」
陽彩の必死な叫びも虚しく、ホップちゃんには届かない。彼女はロングスカートの裾を両手で摘んで優雅に一礼。耳をちょこんと揺らしながら調理場へ向かっていった。
◇◇
焼き上がりを待つ間に昼の盛りは過ぎ、食事を済ませた客は段々と店から出ていく。
さっきの一件ですねた陽彩は私の頭の中でブーブー文句を垂れている。だけど、私はそれを無視し、心を落ち着かせピザが来るのを待っていた。
「はい! お待ちどうさま! 焼きたて、アッツ熱のWピザですよー!」
私の目の前に、ドンと大きめのピザが置かれる。左右でトマトの赤とホワイトソースの白が、美しく分かれている見た目にも美しいピザだ。
「火傷にお気を付けてお召し上がりください!」
注意喚起とともに頭を下げるホップちゃん。頭が下がると、彼女の長いうさ耳がゆっさり揺れる。ふわふわで柔らかそうな、もふりたくなる耳。
ピザカッターでピザを切り、マルゲリータを一ピース手に取る。
うお、あっちっち! 焼きたてという言葉に偽りなし。
激アツのピザを口に放り込むと、幸せが口の中いっぱいに広がる。私の顔が自然にほころぶ。
今までのどのピザよりおいしい! 現実をとっくに超えてるよ、絶対!
『うーん、最高! やっぱ、マルゲリータだね』
私に頼むよう仕向けた陽彩もご満悦である。
「どうですか? 腕によりをかけて作りましたよ!」
カウンター越しに、ホップちゃんが自慢げな顔をみせる。
「美味しい! 今まで食べたどのピザよりもいい! 陽彩も最高だって」
「ありがとうございます! でも、私のお師さんに比べればまだまだです」
彼女は首をちょっと傾げ、ニコッと笑う。
「でも、ホップちゃん。ここで悠長に話し込んでていいの? ほら、片付けとか」
「それなら大丈夫です。片付けはお客様の食事が終わったら自動的に行う設定にしてますから。ほんと、VRさまさまですね。それに、もうお客さんも少ない時間ですし、お世話になってる常連さんと話し込んでも、誰も文句は言いませんよ」
生産職系事情はあまり詳しくないのでよく分からないけど、設定によっては片付けも自分でやる人もいるんだろうなと思いつつ、ピザに手を伸ばす。シーフード側もこれまた格別だ。
でも、アシストなしでこれだけ美味しいものを作れるなら、ちょっとくらい片付けをサボったって許されるはずだと思う。
「ところで、ルナさん? 今日はこれから何をするんです?」
「これから、ねぇ。まだなーんにも考えてないや」
「みなさんの流行りはダンジョン攻略か、この町を出てビーステの街に行くか。その二択って感じですねー、やっぱり。先日、アップデートと初心者狩りの消滅、それが同時に来て世界が一気に広がりましたから。それに、ダンジョンはこの町の近くらしいですから、行ってみるのもいいと思いますよ」
彼女が言うように、私たちがキバさんと初心者狩りを倒した当日に彼らは垢バンを喰らい、新ダンジョンのアプデも入った。
とはいえ最近の私は、陽彩に憑依してギャルモードでこの町を練り歩き、彼女に恥をかかせる、ってな感じで結構満足してる。それに、新ダンジョンは墓場っていうから怖いのダメだし、あんまり食指が伸びないっていうのが本心である。
「でも、ホップちゃんはラビットハッチで忙しそうなのに、いろいろよく知ってるね」
「キバさんも言っていたでしょう? 人が集まるところに情報が集まるって。最近はみなさんその話題でもちきりですよ。それに、私にはこの耳がありますから!」
そう言って、彼女は自分のうさ耳を摘む。
ムニムニと柔らかそう。
「私も触っていい?」
「このお店はお触り禁止ですー!」
ホップちゃんは小悪魔のように、意地悪げに微笑んだ。
その微笑みもいいスパイスになって、ピザを手に取るペースも上がる。そして、話に花を咲かせていたら、いつの間にお皿は空っぽ。
残ったのはお腹の膨らみと満足感。実に幸せな時間だった。
「ごちそうさまでした」
『ごちそうさまでした』
私も陽彩も大満足。挨拶をすると皿が自動的に消えてゆく。
「ありがとうございました!」
ホップちゃんは一礼。
その言葉に続き、
「行き先はお決まりで?」
と店を去るお客に声をかける。
これが彼女独特の別れの挨拶。大抵の客はその言葉を背に店を出てしまう。
しかし、常連はその先を知っている。行き先が決まってればみんな行き先を告げて出るし、決まっていなければ、
「性癖の赴くままに」
とだけ。
そして、ホップちゃんの、
「行ってらっしゃいませ!」
その言葉を最後まで聞いて出ていくのが、この店の常連の流儀。
例に漏れず、私も彼女に送り出されて店を出る。
あー、満足、満足!
さて、この後どうしよう?
『ルナさん』
「何? 陽彩」
『身体返してください!』
この気分のいいときに、でたー。妖怪『身体返せ』。
その妖怪は失った身体を求めて彷徨い、人々に憑りついては身体を返せと囁くという。
おー怖い、怖い。
『私にしてみれば、憑りつくのも、怖いのも、ルナさんの方ですけどね! あなたが人の身体を勝手に奪うんじゃないですか。それに、もうご飯も食べ終わりましたし、二人で一人でいる意味もないでしょう! だから――』
陽彩がお決まりのキメ台詞を言おうとした、まさにそのときだった。
「てめぇ! アタイに何の用だい!!」
路地裏に低い女性の怒鳴り声が響き渡る。
「えと……、あの……、その……」
その声に答えたのは、今にも泣きそうな感じのか細い声。
波乱の予感がする。
「これは……、ヤバそうだね」
『行きましょう!』
私たちは、その声のした方に向かう。
石造りの入り組んだ路地を、一本、二本。不穏なやり取りのする方へ向かうと、私たちが感じていた嫌な予感と対面する。
アオちゃんとは正反対の紺色のセーラーに、紺の超ロングスカート。ギシギシに痛んだ茶髪、首元の真っ赤なスカーフ。
そんな絵にかいたようなスケ番が木刀を手に、小さな子を袋小路に追い込んでいたのだった。
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