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「とあるプレイヤーの生態」

これはVRのゲーム内世界の片隅で繰り広げられる、とある一般プレイヤーの冒険のお話です

 人々がせわしなく生活する始まりの街。その地下深くには陽の光とは無縁の地下墓地が広がっていた。

 地下墓地(カタコンベ)と言えば聞こえはいいが、その実は数メートル先も見えない、ただの真っ暗な洞窟だ。

 そんな外界の喧噪も届かぬ常闇の世界。その静寂の中に二つの勇ましい足音がこだまする。そのうちの一つ、装備した鉄鎧が放つガシャガシャとしたその独特の足音は『鉄の勇者』の異名を取る、冒険者リットンのものである。


 このゲーム(フェチフロ)は自分の性癖を満たすことを主たる目的として開発されたゲームだ。そのため冒険を楽しむというよりは、いかに自分の好きなことを心おきなくするか、という部分に比重が置かれている。

 しかしながらこのゲームにおいても、ダンジョンに繰り出し、モンスターを倒して、その探索や走破を主目的としてプレイする層も一定数存在する。


 いわゆる『攻略勢』と呼ばれる人々だ。


 彼らは探索や未開の地を解明することに快感を覚えるような、根っからの冒険者基質の人間が多く、性癖値、【性癖(スキル)】共に、かなりのものを持っている実力者集団なのである。

 その中でも、リットンは新規ダンジョンの探索速度、戦闘スキルともに屈指の強プレイヤーとして彼らから一目置かれている存在であった。


 しかし、今の彼はどこまで歩き続けようとも変わらない洞窟の景色に耐えかね、精神的にちょっと参っていた。


「おいおい、コヒ! もうだいぶ来たのにまだ最深部に着かないのか……?」


 思わず愚痴の一つも零れてしまう。


「まだ、第二層に来たばかりじゃないですか。私よりも大人なんだからしっかりしてください」


 その愚痴を軽くあしらうのは彼の相棒(バディ)、【シスター】のコヒ。

 彼女は背が低く、顔も童顔なため非力なロリだと侮られがちではあるが、彼らのパーティを語る上で非常に大きな存在の合法ロリであり――ちなみにその胸もまた非常に大きい。


「分かってるっての。コヒは大人だなぁ」


「当たり前! コヒは大人!」


 壁に括られた松明の炎が、コヒの可愛げのある表情と、これでもかと強調された修道服の胸部を漆黒の闇の中に浮かび上がらせる。


 楽し気に軽口を叩き合いながら、リットンは表情一つ変えず暗闇に向かって剣を一振り。「ギェエエ」と耳障りな声と共に、真っ二つになったコウモリが地面に落ち、その身体すぐさま光の粒子となって消えていった。


【デスイバットを倒しました!】


「暗闇からの奇襲が多しっと。アプデで追加された新ダンジョンだってのに、こんなんばっか。手ごたえがなくて拍子抜けだよなぁ」


「私的には楽で助かりますけど」


 リットンはネットへの報告用にレポートをまとめながら地下墓地を進んでゆく。ただ、その内容は『感覚を研ぎ澄ませば攻略は容易』といった文字ばかりが並び、お世辞にも役に立つとは言い難いが。


 そのレポートをまとめ終わるころ、リットンたちは奇妙な空間に出くわす。

 それまでの細長い通路が一気に開け、大きなホールのような大部屋が現れたのだ。壁中にびっしりと松明が取り付けられているおかげで大部屋の中は煌々としていて、リットンは片手で目を覆わずにはいられなかった。


「なんだ、ここは?」


「少なくとも何か出ますね」


 リットンは剣を握り直し、部屋の中へ足を踏み入れた。


 なんだこれ……?


 彼の背中を強烈な寒気が襲う。

 骨、骨、骨。壁一面に埋め込まれた人骨をその目にしてしまったのだ。


 何かヤバい。リットンは考えるより先に、肌で感じた。

 そして壁から、骸骨が這い出してくる。右から二体、左から一体。這い出た骸骨は人体模型のようにその場に立ち上がってみせる。


 どう見ても友好mobではないと直感し、リットンは剣を構える。

 骸骨はケタケタと笑うように顎を鳴らしてその場に立ち尽くすばかりで、特に何もしてこない。その奇妙な状況にリットンは気味の悪さを感じていた。


「コヒ! 俺が出るからひとまず待て」


「承知」


 コヒはその指示通りにその場で待機し、不測の事態に備える。


「行くぞ!」


 気合いを入れ、駆け出すリットン。

 その姿を認めるや否や、骸骨たちは自分が埋まっていた壁から錆びた剣を引き抜き、侵入者に向かって走り出す。


 彼は全身を鋼鉄鎧で覆われているが、その重さを全くものともせず、左方にいたはぐれ骸骨の懐へ一気に入り込み、首元に向かって一閃。

 骸骨が剣を構える間もなくその首は飛び、残された身体はバラバラに崩れ落ちる。


 一撃で骸骨を撃破するも、気を緩めることなく、振りぬいた剣を首の後ろへ。

 刹那、金属同士が衝突する甲高く重々しい音が大部屋に反響する。

 競り合う剣と剣。リットンは背後からの不意打ちをすんでのところで防御。そして骸骨の錆びた剣を押し返し、剥き出しの肋骨へ蹴りをかまし骸骨を後ずらせた。


 すかさず追撃に移るリットンであったが、もう一体の骸骨剣士に横槍によって防がれ、二本の剣が火花を散らす。ガッチリと噛み合い、ギリギリと音を立てる刃。彼は力で押し切ろうと自らの剣にグッと体重を乗せるも、骸骨との競り合いには全く変化がない。


「意外と骨がある骨だな」


「軽口を叩いている場合では」


「分かって……るッ!」


 上がダメなら下だ!

 リットンは骸骨剣士の膝の皿を思い切り踏み抜き、その膝を逆くの字にへし折って体勢を崩し、


「フンッ!」


 一太刀。

 剣筋を追えないほどの早業が骸骨を襲い、その不気味な頭蓋骨は美しく切断された。


 見事な大技が敵を(ほふ)る。しかし、リットンはそのまま動かない。否、動けなかった。

 大技を繰り出したがゆえの硬直。瞬きにも満たない、ほんの僅かな行動不能時間が作りだした明確な隙。


 がら空きの背中に、もう一体の骸骨剣士の一撃が深々と斬りこまれる。


「のぐわッ!」


 背後からの勢いに抗えず、そのまま地面を転がるリットン。彼の頭上に浮かぶHPバーも15%ほど削られた。


「リットンさん!」


 その瞬間、コヒの目の色が変わり、おっとりした垂れ目がちがキッと吊り上がる。


「私の相方にィ!」


 彼女が力強く地面を蹴った。背に釣り合わないほどに豊満な胸をダイナミックに揺らし、リットンを襲わんとする骸骨に向かって一心不乱。敵に構えさせる間もなく詰め寄り、拳を握り大きく踏み切った。

 小さな身体が宙を舞い、顔元のベールがはためく。


「何すんじゃああ!!!」


 巨大な怒号と共にボキりと骨の砕ける音が広い空間を駆け巡る。コヒが豪快に振りぬいた拳は頭蓋を無残に粉砕し、たったの一撃で骸骨剣士をカルシウムの塊に還した。


【戦闘に勝利しました!】


 彼らの眼前に現れるウインドウ。


「ふぅ」


 一仕事終えたコヒは腕に付いた粉末を吹き払い、自らのロールを遂行すべくうずくまったままのリットンに声をかける。


「大丈夫?」


「ううっ……! ママぁー!! ライフがぁー!!!」


 リットンはコヒの肩を掴んで喚く。まるで転んでしまった幼子のように、年甲斐もなく喚き散らしている。

 そんなリットンに対してコヒは一喝。


「うるせぇ! ピーピー喚くなら、私の胸に飛び込みな!!」


「ママぁー!」


 コヒの言葉通り、リットンは彼女のはち切れんばかりの胸に全力で顔を埋め、柔らかさを堪能し、彼女の鼓動や体温をこれでもかと味わい始めた。


「よしよし。いい子、いい子」


 彼女は赤ちゃんをあやすように、リットンの頭を撫でる。


 (耳に入るロリボイスが堪んねえ……! 優しい手つきのヨシヨシもしゅきぃ……! 言いようがないほど至福のひと時で、気力も体力も漲る!!)


 撫でられる方は天にも昇る思いであるが、撫でる方もまんざらでもない様子。

 その上でなんと、コヒがリットンをヨシヨシしている間、彼のHPゲージはじわじわと回復しているではないか。


 そう、これが彼女の役割(ロール)であり、彼の【性癖(スキル)】だ。


 リットンとコヒはプレイヤーと相棒(バディ)の関係で、コヒはリットンの性癖を如実に反映させた存在。そんな彼の性癖というのが【巨乳フェチ】であり、【シスター】であり、【豪快】であり、そして生粋の【オギャリスト】なのである。


 【オギャリスト】はバブみを感じるとHPが回復する【性癖(スキル)】で、その発動判定は年下のプレイヤー、ないしはバディに母性を感じることにある。ゆえにリットンは一応年下の合法巨乳ロリなコヒをヒーラーとして運用することで、継戦能力を上げダンジョンの攻略を有利に進めている。


 因みに言うと、実は【巨乳フェチ】にも隠し効果として巨乳摂取時にHPを回復する効果がある。しかしながら、情報自体が伏せられていること、そして他プレイヤーは言うまでもなく、自分のバディでも胸を触るという行為は困難――ここがゲーム内で許容されるギリギリセンシティブな要素――であるため、広く知られてはいない。


 ただコヒの性格が【豪快】であり、別にリットンになら胸くらい触らせてやるというスタンスであったため、彼らは【巨乳フェチ】の隠し効果を見つけることができ、誰にも伝えることなくしれっとコヒの回復量増加に一役買わせているのだ。


 そのおかげで傷の治りも早く、骸骨に与えらえたダメージもすぐさま回復し、元通り。


「ありがとう、コヒ。もう大丈夫」


「ほんじゃ、ま。いきますよ」


 バブみと大きなおっぱいをふんだんに摂取したリットンは名残惜し気に腰を上げ、静まり返った大部屋の探索を再開するのであった。


 ◇


 壁に掛けられている松明の炎がポツポツと消え始める頃になっても、大部屋からは特にめぼしいアイテムは見つからず、リットンたちが拾うのは人骨や動物の死骸ばかりであった。


「なんだここ? しょっぱ過ぎないか?」


「でも、この部屋より先はどうにもないようです」


 コヒの言うように、どれだけ探ってもここより深層に向かう入り口は見当たらない。ということはここがこのダンジョンの最深部になるわけであるが、それにしては何も無さ過ぎるとリットンは訝しんでいた。


「どっかに隠し通路でも……痛ッ!」


 バブみを補給している間、部屋奥の方の松明は半分以上消えてしまっていた。そんなまだらな暗闇を探るリットンは何かに躓く。


「なんだ? これ」


 光の当たる方へ寄せて見れば、それは棺桶だった。


「コヒ! 見つけたぜ、お宝!!」


 リットンは興奮気味に蓋を開けようとするも、蓋はびくともしない。呼び寄せられたコヒが棺桶を豪快に殴り壊そうとするも、効果なし。


「雰囲気づくりのオブジェクトかなぁ」


「残念でしたね」


 二人が現状持ちうるあらゆる手段を試したものの結局棺桶はびくともしないので、諦めて踵を返したそのときだった。


 ふっ、と手近な松明が消える。

 そして、


『ギ……ギィ……!』


「――ッ!」


 全てを溶かすような闇の中、に錆びた金属が擦れるような音がした。


 二人は暗がりで顔を見合わせ、声もなく認識を擦り合わせる。

 共有したのは『開くはずのない棺桶が開いた』、ということ。


 考えるよりも先にリットンの身体が動く。息をひそめ、未知に対して切っ先を向ける。

 コヒはリットンと背中を合わせ、両手を上段に構えた。


 視覚は効かず、自らの鼓動の音が聴覚を支配する極限の中、リットンが見つめるのはただ一点。


 そこにあるはずの棺桶。


 そこを、そこから発せられる気配を必死に手繰る。

 リットンは掴んでいた。そこにいる何かの気配を。視線を。


 動悸が激しさを増す。


 互いに認識し合い、場が凍りつく。何かが起こるとすれば、それはどちらかが動いたとき。


 ――ゴソッ。


 そこか!

 リットンの呼吸が止まる。


「スラッシュ!」


 目を見開き、気配に向けて薙いだ。

 柄から、斬ったという事実が伝ってくる。


 そして、


【戦闘に勝利しました】


 すぐさま空中に浮かぶウィンドウ。


 リットンの腕にはぐにょりと、腐肉を切るような気色の悪さが残った。


 しかし、勝った。システムもそれを祝福している。

 その表示を見てホッと胸をなでおろすリットン。


「もう大丈夫だぞ」


 背中を守る相方へ危機が去ったと伝える。

 しかし、返事をしたのは天井から滴り落ちる雫の音だけ。


 何もない。


 彼女の返事も、気配ですらも。


「コヒ? コヒ!」


 いくら名前を叫ぼうとも、広い空間に虚しくこだまするのみ。


 おかしい。確かに戦闘は終わったはずなのに。


 リットンは視界の隅にある、戦闘終了のログウィンドウを広げ眺める。しかしいくら眺めようとも【戦闘に勝利しました】という表示は変わらない。


 それじゃあ、何が……?


 バグか、不具合か、それともバディのいたずらか。リットンは必死に考えうる可能性を探していた。


「コヒ? どこ――ッ!」


 それはあまりに突然の出来事。


 眺めていたウィンドウの向こうからひも状の物が飛び出し、リットンの首に巻きついたのだ。

 振りほどこうともがけばもがくほど、ひもはギリギリと首に食い込み酸素を遮断してゆく。


 HPが減り、薄れゆく意識の中、(ゲームオーバー)を覚悟したリットンはいくつかのことに気づく。


 ひも状の何かはウィンドウの中からではなく、ウィンドウの向こう側から貫通し伸びてきていること。その出元にはコヒと同じくらいの背丈の、炎に照らされた人らしき何かがいること。その何かの頭上には空のゲージのようなものが見えたこと。


 そして、そいつの足元にコヒが倒れていたこと。


「コ……ヒ……」


 その言葉を最後に、グキリと鈍い音がしてリットンの身体から力が抜けた。


「う゛う゛っ……。あそ、ぼ……?」


 人が消えた空間に、不気味な声がこだまする。

 いつまでも、いつまでも。

掲示板、他人視点と続いておりましたが、次話からは主人公たちの物語に戻りますのでご安心を!


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